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21.打ち明ける

3人はモリリナの話に時折、質問を挟みながら真面目に聞いてくれた。


途中、元のアマリリスとの違いを話す時には、涙が出そうになり鼻がジンとしたが、

セシルの手を強くギュッと握って耐えた。



「これで全部です」


冷めてしまったハーブティを、お行儀が悪いと思ったけれど構わずにゴクゴクと一気に飲んで、

大きく息を吐いた。

ずっと溜めていたものを吐き出して、すっきりした気分だった。


セシルも王子達も考え事に耽り、呼んだ侍女が煎れてくれたハーブティを各々飲みながら、

誰も口を開かないままに静かに時が流れる。


最初に口を開いたのはセシルだった。


「モリリナが何かに怯えてるのは感じてた。それに、世界で一番可愛いのに自信が全然無いのが不思議だったんだ。もっと早く聞けばよかった。君がつらいのに早く助けてあげれなかったのが悔しい。ごめん」


「謝らないで。わたしセシルのおかげで勇気が出せたの。不安で、どうしていいかわからなかったけど、今はもう平気。あなたが側にいてくれるからだわ」




黙っていたウィル王子が組んでいた足を解き、モリリナに向き合う。


「僕も信じるよ。いくら記憶を失ったからってそこまで人格が変わるのはおかしいでしょ。毎週欠かさず手紙をくれていた、僕の知っているアマリリス嬢は今の話のアマリリス嬢とは別人みたいに思える。彼女は情熱的で激しくて、幼い子供なのに中身は女で。彼女の執着と嫉妬が、僕は少し怖かった」


アマリリスが怖がられていたことを知り、モリリナは内心ショックであった。



最後に話し出したのは、ルイ王子だ。


「俺は、モリリナが嘘を言うとは思えないが、まだ何とも言えない。俺は前のアマリリス嬢とも今のアマリリス嬢とも接点が無いからな。出来れば、第三者の情報も欲しいし。俺は次代の王として、誰よりも平等で冷静でいなければならない。疑っているのとは違うぞモリリナ。だが俺も、アマリリス嬢の異様さは感じる。記憶を失ったのに誰も知らない知識を持っているのも不自然だし、なにより、妙に人を惹きつけて周りの人間の判断能力を狂わせるのが事実なら、とても危険だと思う」


「モリリナは嘘なんか言わないぞ」


「セシル! ルイ殿下わかっています。わたしの言葉だけを信じるわけにはいかないと理解しています」


「うん。それでなんだがモリリナ、この事を父に話してもいいだろうか? おそらくラベンロッドに密偵を入れることになると思うが」


「密偵......」


「法を犯したり、国を乱すような事をしでかさない限りなにもしない。監視させてもらうだけだ」


戸惑うモリリナにセシルが寄り添う。


「モリリナ、こんなこと言いたくないけど。僕はルイとウィルのことは信頼している。嫌だけど、モリリナも信じて任せてほしい。どんなことがあっても僕は君を守るから」


「......うん。わかった」


モリリナはルイ王子に向き合い、頭を下げた。


「よろしくお願いします。調べてください。知らない人が、アマリリスの体を盗んで好き勝手してる。みんなが、ラベンロッドの皆が、全然気付かなくて、本当のアマリリスより偽者を愛していて。わたしそれが嫌で。凄く嫌で。返して、ほしい。わたしの大事な姉を。返してほし......」


話しているうちに興奮して泣きそうになり、俯いて血が滲むほど唇を噛む。

泣くのを我慢するモリリナを、セシルが大切そうに抱きしめた。


「今日はもう帰ろうモリリナ。2人も顔合わせは終わったんだしいいよね? アマリリス嬢のことは任せるよ。2人のこと信じてるから。出来るだけモリリナが悲しまないような結果になるように頼んだからね」


「......善処する」



肩を抱いてそのまま部屋を出ようとするセシルに、

モリリナが、「殿下方に挨拶をしてないわ」と言っているのが聞こえたが、


セシルは、「いいからいいから」と強引に部屋を出ていってしまった。




2人が去ったドアを見つめていたウィル王子が、ルイ王子に向き直る。


さっきまでモリリナに見せていた、ニコニコと微笑みを絶やさない優しげな王子様といった雰囲気は消え失せ、その表情は冷たく酷薄だった。


「さっきの話を聞いた後だと、モリリナにセシルがいて良かったと思うよ。愛されて大事にされて、幸せに暮らしていた普通の令嬢なのに。突然、孤立して嫌われるなんて。ラベンロッド伯爵夫妻はどうしてしまったんだろうね」


ルイ王子も、さっきまでのやんちゃでいたずらな表情ではない、施政者としての王族らしい顔つきだった。

彼らがモリリナに人格を偽っていたというわけではない。

王族として、施政者の顔も持っている。

ただそのように教育されているだけだ。


「ああ。話が本当なら明らかにアマリリス嬢は別人だろう。それにやっていることが7、8歳の子供の行動ではないのに周りが不自然に思わないのが気味が悪い」


「陛下は興味を持ちそうだね」


「ああ。あの人はおかしなことは調べないと気が済まない質だから」


「夜に時間を取ってもらって話そう。出来れば僕が暗部の指揮を取りたいけど、ダメって言われるだろなぁ」


「まだ成人前だしな。それに肉体の乗っ取りなんてのが現実だとしたら、今までに前例が無いことだ。判断も難しいぞ」


「アマリリス嬢のことだから興味あるんだよね。どうにか混ぜてもらいたいんだよ」


「は? さっきはモリリナの前だから濁してたけど、兄上はアマリリス嬢が嫌いだったろ。婚約者候補からも外すつもりだったじゃないか。なんでだよ」


「嫌いまではいかないよ。けど苦手ではあった。手紙の内容も重くて。けどさ、いなくなればいいなんて思ってなかった。それに僕をあんなに熱烈に好きでいてくれた子をどこにやったんだ。って。イラつく。なんだか僕が捨てられて置いていかれたような変な気持ちなんだ」


「ふぅん。よくわからん」


「まあね。僕も自分でもよくわかんない。でもモヤモヤするんだ」


「......へぇ」




2人の王子の予想通り、王は興味を示し、

ラベンロッド伯爵領、及びタウンハウス内に密偵が放たれた。


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