14.アマリリス、領地へ
王妃様のお茶会の後、モリリナは熱を出して4日程寝込んでしまった。
そして、モリリナが寝込んでる間に、アマリリスが領地に戻ることが決まっていた。
元々、祖父母は夜会で国王に挨拶した後は、領地に戻る予定であったのだが、その祖父母と一緒に戻るらしかった。
お茶会の後に、王子の婚約者候補を希望するかの最終確認があり、アマリリスが絶対に嫌だと拒否したので、
王家には「アマリリスは未だ淑女教育が身に付かず分不相応である」と、申し込みの取り下げをしたのだそうだ。
アマリリスを溺愛する祖父母と両親は、王都にいるといつ王家や他の高位貴族の目に留まってしまうかわからないと恐れた。
断れない相手から婚約の打診をされてしまわないうちに、領地で先代伯爵夫妻が厳しく教育をするという名目で帰領させる事にしたのだ。
その後本当にあっという間に、祖父母とアマリリスは領地に戻って行った。
◆◆◆◆◆
アマリリスが居なくなり、なんとなく気が抜けたように過ごしていたある日のこと。
父のラベンロッド伯爵に執務室に呼ばれ、モリリナが執務室に行くと、セシルから手紙が届いていると言われた。
「ジマーマンの子供と会ったのか?」
何処で会って、どういう話をしたのか詳しく聞かれたので、
王妃様のお茶会の時に会ったことや、
転んだモリリナに付き添ってくれたセシルと友達になったことを話した。
「なるほど......モリリナはジマーマン一族の事は知っているかい?」
「知らないわ」
「では少し話をしよう。そっちのソファにかけなさい。ポアロ、お茶を」
ソファに座ると、父も向い側に座る。
執事のポアロがお茶を淹れ、モリリナの前には小さなクッキーも出してくれた。
「ありがとう」
お礼を言ってクッキーを美味しそうにパクパク食べる。
そんなモリリナを暫く見つめて、ラベンロッド伯爵は話だした。
「ジマーマン家には代々特別な才能をもつ者が生まれるんだよ」
「そうなのね」
「武の才である時もあるし、学門や芸術のこともある。この国の発展はジマーマン家無くしては成されなかっただろうとまで言われているんだ」
「へぇ!」
「王家もジマーマン家のことは特別に扱っている」
「そうなの」
「そのジマーマンの人間には特性があってね、彼らは生涯1つのものだけに執着するんだ。それは人だったり、動物や物だったりする」
モリリナのクッキーを、食べる手が止まった。
「そう。......それは素敵ね」
「素敵? そうか。モリリナはそう思えるのか......」
「そういうのを一途というのでしょ? お母様の本にかいてあったもの」
「......なんの本を読んだんだ? いや、そんなことはいい。問題はこの手紙だ」
ラベンロッド伯爵が執務机の上から2通の手紙を取り、モリリナの前に置いた。
「1通はセシル様からモリリナへだ。私は読んでいないよ。後で読みなさい。もう1通はセシル様の父上からラベンロッド伯爵当主への手紙だ。これには、セシル様がモリリナに心を奪われたのでよろしく。と書かれている」
「えっ?!」
「そういうことだ」
「どういうこと?」
「断ることは許されない。わかるね?」
「なにが?」
ラベンロッド伯爵は、大きなため息を付いてソファにだらしなく寄りかかり、頭を背もたれにのせて疲れたように目を閉じた。
「簡単にいうと婚約だ」
「婚約!」
「わかったね。明日の午前中セシル様と父君がこの屋敷にいらっしゃる。午後は王城でモリリナの婚約手続きをする。......はぁ。わかったらもう行きなさい。私も詳しい話はわからないんだ。急すぎるからな。こうみえて物凄く混乱しているんだよ」
驚きである。
何がなんだかわからないが、父がシッシと手で出ていくように指図したので執務室を出た。
執務室のドアを開けてくれた執事のポアロが部屋まで送ってくれた。
「旦那様はもう混乱しすぎてどうしていいかわからないのです。どうか許してあげて下さい」
「シッシってしたこと?」
「はい。無礼な仕草です」
「わかった。許すわ。でも私もビックリしすぎてあんまり気にならなかったのよ」
「ポアロもビックリしました」
「そうよね。婚約だなんてビックリだわ」
「ポアロはジマーマンが相手な事に驚きました」
「わたしはジマーマンがなんなのかいまいちわからないからそれは何にも思わなかったかも」
「ふふ。そうですか」
モリリナの部屋のドアを開けてから、ポアロは綺麗にお辞儀をしてから執務室に戻って行った。
部屋に1人になり、パタパタと走りベッドに飛び込む。
「婚約......」
ジマーマンは生涯1つだけに心を捧げる。
それは素敵なことだ。
自分の好きなものは、みんなアマリリスに盗られてしまう。
そんな不安の中にいたモリリナにとって、ジマーマンの執着という言葉はとても甘美なものに思えた。