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13.王城のお茶会

王妃様のお茶会は王城の広い庭の一画で行われた。



今年8歳になる貴族の子供達は、

会場に入るとまず最初に親と共に王妃に挨拶をする。


その後、親と子は別れて其々のお茶会の席に着く。




お茶会は今日が生まれて初めてという子供も多かったし、

当然ながら皆、慣れていないので堅苦しいものではなく、

顔合わせ&お友達を作りましょう的な緩いものだった。



とはいっても、そこかしこに配置されているメイドや騎士達は、

妃候補や側近候補など将来を期待される有能な素養をもつ子供を見つけたら上に報告することになっていた。





世話をしてくれるベテランのメイド達が控え、子供らを空いている席に座らせてくれる。

お茶を淹れてもらい、好きなお菓子を取り分けてもらう。


そして子供達はお茶とお菓子を楽しみながら、近くに座った子とお喋りをするのだ。




会場に入ると、アマリリスはモリリナの事など眼中になく、

さっさと空いているテーブルに着き、近くの子とお喋りを始めた。



ポツンと残されたモリリナはメイドに案内されて席に着いた。


5人掛けのテーブルでモリリナの他には可愛らしい3人の女の子が座っていた。



「ラベンロッド伯爵家次女のモリリナ・ラベンロッドです」


モリリナが自己紹介すると、3人も自己紹介してくれる。


侯爵家の女の子と、伯爵家の女の子、子爵家の女の子だ。



友達を作るぞと、張り切って話しかけるモリリナだったが、


女の子達はソワソワと落ち着かなくて、話しかけても生返事だった。


もしかして緊張して人見知りしてるのかしら。と、モリリナは思ったが、


2人の王子がが入場すると、子供達はサッと立ち上がり、

素早い動きでそちらに行ってしまい、モリリナは1人になってしまった。


彼女達の向かった先を見ると、たくさん子供達が集まっている。


さっきまで満員だった周りのテーブルも、

ポツリ、ポツリと数人が座っている程度で、閑散としている。


残ってる子達は、

お菓子に夢中で気付いてない女の子、

お喋りに夢中で気付いてない女の子2人組、

カッコつけて一匹狼ぶってる風な男の子、

俯いてたぶん寝てる男の子など、

なかなか個性的な面々だ。


困ったわ。とため息をつくモリリナ。


「お嬢様、ご退屈でしたらそちらの花園も本日は開放されております。今時期はグレイスリリーが見頃ですわ」


モリリナの世話をしてくれていたメイドが気を使って、庭の散策を提案してくれた。


「まあ。いいの?! わたしグレイスリリーがとても好きなの! 教えてくれてありがとう!」


グレイスリリーは、モリリナが庭師のペーターに教えてもらいながら初めて育てた思い出の花だった。


きっと王城のグレイスリリーは凄く綺麗に違いない。


是非とも見たい!


嬉しくて、笑顔でお礼を言い席から立つ。


「あ、でも1人で行って大丈夫? 誰かに付いてきてもらわなきゃいけないなら悪いわ」


不安に思い、メイドに尋ねる。


「大丈夫ですよ。私も把握していますし、騎士も巡回していますから。もしも迷子になったら、そこらにいる誰かに声をかけて下さいね。ここまで送ってもらえますので」


「はい! ありがとう! 行ってきます!」


意気揚々と花園に向かうモリリナはとても可愛らしかった。

その場にいたメイド達もそう思い、微笑ましげに見送った。


そして、迷子にならないように騎士が1人、少し離れた所を付いていった。




花園のグレイスリリーは素晴らしかった。


さすが王城である。


モリリナは感動して、ペーターにも見せてあげれたらよかったな。と、思った。


花園は何処までも広くて、眺めながら歩いていると疲れてきてしまった。


フライとの乗馬に慣れていて、普通の令嬢より体力のあるモリリナが歩き疲れるとは相当である。


「もしかして、すごく遠くまで来ちゃったかも」


後ろを振り返ると、お茶会の会場はもはや全く見えなかった。


「あっ!」


後ろを振り返りながら歩いていたモリリナは転んだ。


両膝と掌を擦りむいて血が出ている。


アゴもぶつけてしまった。もしかしたらアゴからも血が出ているかもしれない。


足がグニャッとなって転んでしまい、

立とうとすると足首に激痛がはしる。


ドレスも汚れてしまった。


どうしよう。


ポロっと零れた涙を急いで拭う。





「お嬢様!」


少し離れた所をこっそりと付いてきていた騎士と、

少し離れたテーブルで俯いて寝ていた男の子が駆け寄った。


「大丈夫ですか? ああ、これは痛いですね。医務室まで運びます。失礼」


その騎士は、モリリナを軽々と抱っこすると医務室まで運んでくれた。


なぜか男の子も後を付いて来る。


モリリナは、帰れない程遠くまで来てしまった事や、

転んだこと、

怪我をしてしまったこと、

服が汚れてしまったこと、

少し泣いてしまったこと。

色々な事が恥ずかしくて、俯いていた。


医務室に着き、その騎士はモリリナを医者に預けると、


「お嬢様が転んで怪我をしたと、ご家族に伝えてきますね」

と、ニコッとしてモリリナの頭を撫でた後、

医務室を出ていった。


王城の医者の診察を受け、その助手の治療師に治癒をかけてもらい、


メイドが煎れてくれた、気持ちが落ち着くハーブティを飲む。


男の子も隣で同じものを飲んでいる。


隣に座るその子をチラッと見ると、目が合った。


「足まだ痛い?」


サラサラの銀髪おかっぱ頭の痩せっぽちのその子は、心配そうにモリリナに言った。


「うん。少しだけ。でも大丈夫よ。ありがとう」


その子の優しい気遣いが嬉しくて笑顔になるモリリナ。


男の子の顔がポッと赤くなる。


「今はまだいいが、捻った足が夜には腫れるぞ。たぶん熱も出るからな」


診察椅子に腰かけ2人のことを眺めていた医者が口をはさむ。


「僕はセシル。君は?」


医者を無視してセシルがモリリナに話しかける。


「あ、あの」

モリリナはどっちに答えたらいいのか戸惑い、思わず医者を見ると、


医者は肩をすくめ、セシルを顎で指す。


「あの、モリリナよ。モリリナ・ラベンロッド」


「モリリナ。モリリナ・ラベンロッド」


上気した顔でモリリナを見つめるセシル、戸惑うモリリナ。


「ふー。なんだ、モリリナ嬢はやばいのに目をつけられたかもな」


ため息をつき、呆れた顔でボソッと言った医者を睨むセシル。


「そんな風に言ったら、僕が変な奴みたいに聞こえるじゃないか」


「さぁてね。お、モリリナ嬢の迎えが来たようだぞ」



侍女のマリアとラベンロッド家の護衛騎士が迎えに来たようだった。


母とアマリリスはお茶会がまだ終わっていないので、モリリナだけ一足先に帰ることになったようだ。


「モリリナ、手紙を書いてもいい?」


「もちろんよ! 楽しみに待ってるわ!」


友達が出来たと嬉しそうなモリリナと、それをジッと見つめるセシル。


医者にお礼を言い、ラベンロッドの護衛騎士に抱かれモリリナは医務室を出た。

後ろには、医者から渡された湿布薬を持ったマリアが続く。





モリリナが去った医務室では、医者が呆れたようにセシルを見た。


「ジマーマンの執着か。初めて見た。わかりやすいもんなんだな。まぁ......あれだ。叶うといいな」


「うん」


セシルは父親が探しに来るまで、上気した顔でずっとモリリナの去ったドアを見つめていた。

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