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1.アマリリスとモリリナ

気をつけてはいるのですが、時系列やつじつまが合わなくなっていたらすいません。


7歳の誕生日の朝だった。


モリリナは屋敷のいつもと違う騒がしさに目が覚めた。


隣で一緒に寝ていたはずの双子の姉のアマリリスもいなかった。


ベッドのアマリリスの場所も冷たくて、いなくなってから時間が経っていることがわかる。


いつもなら目覚めると来てくれる侍女のマリアも来る気配もなかった。


モリリナはモゾモゾとベッドから抜け出ると、小さなピンク色のスリッパを履いて、

いったい何が起こってるのかと小走りで部屋を出た。



屋敷の中は浮わついた落ち着かない雰囲気で、皆がこわばった顔でソワソワ動き回っている。


いつもならパジャマ姿で廊下を歩き回ったりしたら、すぐに捕まって叱られてしまうのだが、

今日は他のなにかに強く気を取られていて、誰もモリリナに気づきもしないのだ。


なにか嫌なこと、とても悪いことがおこっているようで、モリリナの不安は増す。


「モリリナ様!」


部屋を出て少し歩くと、

誰も使っていないはずの部屋の廊下で数人の侍女が話し込んでおり、

そのうちの1人がモリリナに気付き声をあげた。


侍女は急いでモリリナに走り寄り抱き上げる。


「モリリナ様、大変なことがおこってしまったのです」


泣きそうな顔ですがるように話す侍女の頬を、小さな手で優しく撫でると、侍女の目からポロリと涙がこぼれ落ちた。


「おちついて。いったいどうしたの?」


「は、はい。アマリリス様が、階段から。暗いうちに落ちて、下働きが見つけた時はすっかり体も冷えきって。意識が。怪我も。そうなんですひどい怪我で。血が、血がたくさん」


取り乱してまとまらない話をよくよく聞いてみると、

早番の使用人の朝最初の仕事が屋敷のカーテンを開けてまわることで、

その早番が階段の下でアマリリスが怪我をして倒れているのを見つけたということだった。


「今お医者様が診察してくださっています」


「私達は外で待つようにと、部屋から出されてしまって」


「診察がずいぶん時間がかかっているのです」


廊下に固まっていた他の侍女達も寄ってきて、今の状況を教えてくれる。


「そうなのね。お父様とお母様は中にいるのね?」


パタンッ


部屋のドアが開いて、泣いて目を腫らした母親と、その肩を抱く厳しい顔の父親が出てきた。


侍女に抱かれているモリリナに気付かないまま、2人はギュッと抱き合い、苦しみを堪えるように目を閉じた。


「お父様!お母様!」


侍女の腕から下ろしてもらい駆け寄ると、

母は新たな涙をホロホロと流し、モリリナを抱き締めた。


「モリリナっ」


震える母の胸から顔を上げ、父を見上げる。


「アマリリスは? 怪我は酷いの? 目は覚めたの?」


「モリリナ。アマリリスの怪我は命に別状はない。しばらくしたら治るから心配いらないよ。ただ、目がまだ覚めないんだ」


シンとした廊下にグスグスと母や侍女たちのすすり泣きだけが聞こえる。


「あ、会えるの? わたし会いたい。アマリリスに会いたいの」


「会える。医者の診察は終わって今は治療師が治癒をかけてくれているからその後でだ。わかるね?」


「はい......」


「しばらくかかるからモリリナは着替えておいで、まだ子供なのだからきちんと食事もとらないといけない」


「お腹空いてない......」


「モリリナ」


「......はい」


「誰か、この子の世話を」


「は、はい」



グスグスしていた侍女達が主人の声に慌ててモリリナの手を取る。

侍女に連れられ部屋に戻り、朝の支度をしてもらい、

食欲がなくても少しでもいいからと出された朝食を1人でとる。


モリリナの頭の中はアマリリスのことで一杯だった。


産まれる前から片時も離れずいつも側にいた双子の姉。


イタズラをして怒られるときも、

怒られて泣く時も、

風が強くて怖い夜も、

病気で熱を出す時でさえ一緒だった。


勉強もマナーも、習い始めたばかりのダンスもアマリリスの方が上手で、

モリリナは姉についていくので精一杯だった。


賢くて何でもできる凄い姉。

モリリナの自慢で、何よりも誰よりもアマリリスが大好きなのだ。


王城で一度だけ行われた、同じ年代の上位貴族の子供達のお茶会では王子様に一目惚れして、

家族に王子様と結婚して王妃様になると宣言した。

アマリリスなら王妃様にピッタリだと思ったし、絶対に協力すると誓った。


アマリリスは王子様に好きになってもらうために完璧な淑女になるんだと、本を倍ぐらい読むようになり、

歴史と算数の勉強も頑張ってるし、美のためにお洒落も研究してる。

お父様に外国語の先生を増やしてもらって、ピアノとバイオリンも始めた。


とにかくアマリリスはたくさん頑張ってる凄い子なのだ。


失うことなど考えたくもない。


モリリナは、アマリリスが元気で幸せでいないと嫌だ。


「神様。お願いします。なんでもしますから、どうか、どうかアマリリスを助けてください。お願いします」


神様が何処にいるのかわからず、廊下にかけてあった神様の絵の前に跪いてお祈りする。

モリリナのその姿は屋敷の人々の涙を誘い、皆がアマリリスの目覚めを共に祈り、目覚めることを信じて待った。




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