トレース
藤村順子はホテルに戻り、部屋で明日のこと考えていた。
彼女の考えでは、もっと簡単に智を見つけられるはずだったからだ。
明日一日、この町に居続けても見つけられる確率は低いと感じていた。
順子は、智のLINKを見ながら、この町に来て事故を起こした日の行動を推測して調べることが、解決の第一歩だと考えた。
「えっと…… 車で露天風呂に行くのよね。ああ、途中で焼きそば食べたんだっけ」
スマフォ画面を指でスクロールさせながら、行動を確認する。
おそらくこの温泉への行き帰りのどこかで車の事故があった。
そこから行動がおかしくなっている。
順子は思い出していた。
三年前の夏だった。
『今は、仕事が忙しくてこんなことしか出来ないけど、休みが取れたら温泉でも行こう』
駅からの道が混んでいて、智は順子がはぐれないよう、ずっと手を握っていた。
低く、お腹に響くような音が聞こえると、空に様々な色が光った。
『綺麗!』
順子がそう言うと、智が顔を覗き込んでくる。
『楽しい?』
順子は頷く。
『来年も、再来年も、ずっと一緒に観にこよう』
『うん』
夏の花火は沢山観てきた。もっと迫力があるもの、より美しいものもあるが、順子にとって一番の花火は、智と観た花火だった。
だが、翌年は仕事で、去年は体調不良で行けていない。
今年こそ、二人でまた『あの花火』を観に行く。
智がいなければ、出来ないこと。
なんとしても智を探し出そう。彼女は決意を新たにした。
翌朝、スマートウォッチのバイブレーションで目覚めると、順子は支度をして車に乗り込んだ。
個人情報の壁があるから、無理だとは思っていたが、まずレンタカー屋に車を走らせた。
「個人情報なので、そういったことは」
予想通りの答えだった。
順子は再び車に乗り、智が行ったと思われる露天風呂へ向かった。
さほど時間もかからず、露天風呂近くの駐車場に着いてしまった。
基本的に、深い森の中を走る一本道で、迷うことはなさそうだった。
もう一度、途中の道のりを思い出してみるが、LINKにあった食堂が思い当たらない。
それに道中、事故をしそうなポイントも分からなかった。
智が風呂に入っただろう時刻までには、まだまだ時間が余っている。
順子は考えた。
空き地のような場所はあった気がする。実はそこに食堂があったのかもしれない。
道を一度戻れば、空き地なのか食堂があったのかを確かめられる。
だが、露天風呂に入らないで引き返すのも勿体無い。空き地を確かめてから、またここに戻ってくる意味はあるのだろうか。いや、最初から『あの日の智の行動』を確認するためのものだ。智と同じような時間に来なければ意味はない。
順子は、車のエンジンをかけると、駐車場から元来た道に戻った。
深い森の道を戻っていると、右手に空き地が見えた。
順子は車を左側の路肩に避けて止めた。
空き地には入れないようロープが張ってある。
車を降りて、道路を渡り空き地側に着いた。
「ここ…… なのかしら」
ロープには『私有地につき立ち入り禁止』という札がかかっている。
砂利が敷き詰められている側はあまり草も生えてない。
そこは駐車場のように、地面にピッタリとロープが張られていた。
反対側は草が生え放題だったが、建物の基礎のようにコンクリートが四角く残っていた。
「智が立ち寄ってからすぐ潰れたとしても、この状態になるには時間がかかりそうね」
と、するとここじゃない場所で食事をしたのだろうか。
順子はスマートフォンを取り出して時刻を確認すると、もう少し道を戻ってみることにした。
道路沿いには何もなく、泊まっているホテルのある町付近に戻ってきてしまった。
順子は街をぐるっと回りながら、ナビを使って別経路で露天風呂までの道を検索した。
別経路は、途中で同じ道に合流するしかなく、さっきの空き地のところに戻ってきてしまった。
空き地の手前で路肩に寄せ、ハザードをつけた。
順子はもう一度、空き地を見てみることにした。
空き地に入るにはこの規制のロープを外して、強引に車を入れるしかない。
彼女の知っている智の性格からは、彼がロープを外してこの空き地に車を止めるとは思えない。
そもそも、ここに車と停めても何もないのだが……
順子は首を傾げながら、車に戻ると、露天風呂へと向かった。
簡単にすれ違えない細い一本道になると、前を走る軽トラックが遅く、前を塞がれた。
エンジンの調子が悪いのか、急坂でスピードを出して登れないらしく、順子はイライラしていた。
細い一本道を抜け、駐車場に入ると、順子は軽トラックを追い越して、露天風呂に近い場所に車を止めた。
「……」
順子は車を降りて、脱衣場に向かった。




