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二度寝

 俺は旅館に戻ると、部屋に入った。

 紙袋の中身を見ると『ういろう』が五本入っていた。

 買った記憶がない。いや、記憶が飛んだだけなら、買った証が残っているかもしれない。

 俺は財布を調べた。金額が減っていないか、とか、レシートか何かが入っていないかと思って真剣に見ていたが、何もわからなかった。一体、五本の『ういろう』でいくら掛かるのかもわからない。

 スマフォで調べようとして、気がついた。

「そうか。スマフォかも」

 バーコード型の決済システムを立ち上げて、支払い履歴を確認した。

 すると『ういろう』屋の購入履歴が出た。

 俺が買ったのだ。俺が買ったにも関わらず、買った記憶はない。

 LINKを起動して、順子にメッセージを入れる。

『宿泊している宿の近くで借りたレンタカーで露天風呂に向かう』

 長い文を考えていると疲れてしまう。

『どうやら事故をしたらしい。 ……らしい、というのも、俺の記憶はそこで消えていて、はっきり覚えていない』

 とりあえず、書いておかないと行けないことがあったはずだ。

 俺は必死にスマフォを操作した。

『この町の名は……』

 この場所の名前をLINKに書き入れると、俺は考えを口にしていた。

「明日は一番で医者に行こう」

 部屋を出て、フロントに向かった。

 ここの近辺は、観光に特化していて、病院があると思えなかった。

 俺の体を調べる病院はどこにあるのか、旅館の人に訊ねようと思ったのだ。

「病院ですか。記憶喪失とか、そういった検査ですか」

「そ、そうなんです」

 俺は旅館の人があまりに平然と喋るので、動揺してしまった。

 旅館の人は、後ろの机にあるパソコンを操作し始めた。

「うーん。脳神経とか調べれる病院はねぇですよ。県庁まで行かねぇとねぇです」

 俺は慌てた。

「ちょっと、その机」

「机がどうかしましたか?」

 見えない? 自然なこととは思えないのだが。俺は言いにくかったが、口にした。

「そ、そこ、机の上におばあさんが正座して」

 『おばあさん』という言葉が、エイジハラスメントになるというなら『後期高齢者』と表現すべきか。

「へ?」

 旅館の人が、もう一度パソコンの方を振り返ると、そこには誰もいなかった。

 さっきまで見えていたものが見えなくなった。

「田舎もんを、からかったらいかんですよ」

「いや、今の今まで、そこにいたでしょう? 俺にはハッキリ見えてたんだ。白髪で、その髪をテツコ(・・・)のように団子にした、和服を着た老婆が、机の上の置き物のように、正座してあなたと向き合ってた。間違いない」

「……」

 旅館の人は急に表情を変えて驚いた顔をしたかと思うと、今度は一転して、真剣な顔になった。

「心配なさらんでいいですんで。明日朝食食べたら県庁まで送ってきますんで、県庁には県の総合病院がありますからそちらで調べてもらいましょう」

 おそらく『狂った』とか頭を酷く打って『錯乱している』と思われたに違いない。

 とにかく今日事故している身なのだ。俺が車を運転して行くわけにはいかないから、送ってもらえるならありがたい。

「ありがとうございます」

 俺はその日の夕食を食べると、部屋に戻って眠りについた。


 俺は夜中に目が覚めた。

 スマフォでサッと時間を確認する。まだ夜遅い。

 しばらくボォーッと天井を見つめている内、俺は再び眠りについた。


 スマフォが鳴っている。

 タイマーを掛けたつもりはなかったが、俺は布団から手を伸ばし、スマフォを取った。

 タイマーが鳴ったのではなく、LINKアプリの音声通話だった。

「順子?」

 俺は慌てて応答した。

「どうしたんだこんな夜中に?」

「やっと応答したと思ったら、何言ってんの? いいかげ」


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