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タイレン 〜久々の旅行に出かけたら、体も恋人もシェアされそうになりました  作者: ゆずさくら


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事故

 順子は車に戻り車内でスマフォを操作していた。

 例の食堂付近であったマイクロバスの交通事故について、ネットで調べようと思ったのだ。

 大手の新聞や、テレビ局などの記事や、掲示板のまとめなどもあった。

 新聞やテレビ局などの記事は突っ込んで書かれていないので、どうしても内容を補完するために掲示板のまとめを覗き込むことになるのだが、ここのソースがあっているかがわからない。

 順子と同様、親戚一同で混浴の露天風呂に入るという発想に狂気を感じている人もいた。個人的に恨みを持つ人なのか、親戚の一人が作る米や枝豆に対して批判してみたり、親族が経営する小さな商店でお釣りを誤魔化されたとか、難癖のようなものもある。

 順子は読んでいく内に、家長の死自体の疑惑を挙げる人が多いことに気がついた。

 確かに高齢ではあるものの、極端に太ったり痩せたりしておらず、健康体だったという。突然、都心で老人ホームに入ったかと思うと、しばらくしてその家長が亡くなった。

 その老人ホーム自体を非難する書き込みもある。

「……あれ?」

 いくつかのメッセージを見ていると、その老人ホームの名が推測できた。

「……」

 考えたが結論は出なかった。

 順子は次に、食堂側の話を検索した。

 食堂側は特に目立った記事はなかった。五、六年前にB級グルメとか言われてテレビで取り上げられたとか、そういう程度だった。おそらくその後に飽きられたのだろう。マイクロバスが突っ込むまでの、最近の記事は悪評ばかりだった。

 さらに順子は、この地方の祟りとか霊的現象について調べを進めた。

 この地方には、降霊をして、死者の言葉を喋るという霊能者がいるそうだ。

 土地の人は、何か良くないことがあるたび、霊能者を呼び『死者の言葉を代弁』させて助言とする。死者の言葉をおろそかにすると、一族が絶えるとも言われている。著名な民俗学者も、この地方独特の文化だとして話を括っている。

「!」

 順子は突然、思い出した。智は軽自動車に乗って露天風呂に行っていた。

 さっきの話を総合すると、突っ込んだマイクロバスに乗っていた親戚が智の体に乗り移ったなら、死に際の思いである『露天風呂にいく』ことを実行してもおかしくない。

 順子は車のドライブレコーダーからメモリを取り出し、パソコンにコピーした。

 時間帯を見ながら、ファイルを探すと、軽自動車のナンバーが見つかった。

「これがその親戚の家の車なら」

 調べると、軽自動車のナンバーの照会は普通自動車より厳しい。

 順子は諦めかけた。

「智の日中の行動を追えば……」

 昨日の様子からすると、夜間の時間帯になると霊が力を失い智が現れる。

 智は、霊が降霊だからだと言っていたが、それが本当かどうかは分からない。

 とにかく、その時間帯に智と会い、智が体を取り戻している間にスマフォに位置情報を調べるアプリを入れておけば、日中の行動も把握できるはずだ。

 露天風呂にいく途中、食堂に突っ込んだマイクロバス。マイクロバスに乗っていた一家の霊に取り憑かれていると明確になれば、今日もらった除霊師に頼んで除霊(たいしょ)ができるかもしれない。

 スマフォを使って、名刺に書いてあった除霊師のホームページにアクセスしてみる。

『中松心霊相談所』

 名刺に入っていた『除霊承ります』もイメージが悪かったが、そのホームページも同じだった。心霊写真を散りばめた、安っぽい作りのWebで、本当にこの内容を信用していいのかが疑わしくなる。

 見積もりをするフォームを開いて、どのような内容を入れるのかを確認する。

 いつ頃からなのか、どのような現象が現れるのか、過去にもあったか、直近で亡くなった親族は…… など、さまざまな項目がある。

「えっ?」

 項目を見ていくと、年収の幅がいくつかあって、どの帯なのか選択するようになっている。

 年収だけではなく、所有の固定資産などの項目も書かれていて、まるで金目当てで除霊引き受けるかのように思える。

「胡散臭すぎる」

 かと言って、この地方の『除霊師』に心当たりがあるわけでもない。『除霊.COM』のような、比較サイトで見積もりの安いところを選べる訳でもない。

 順子は首を振り、なんとか自分で解決する方法を考えようと決意した。

 車の中で今日の宿の手配や、智が正気に戻りそうな時間を確認する。

 そんなことをやっていると、腕につけているスマートウォッチが振動した。

「もうこんな時間」

 慌てて車のエンジンをかけ、車を動かした。

 市役所の駐車場ゲートに駐車券を通して通過すると、左折して県道に出た。

 その時、車の左側から大きな音がする。

「えっ!」

 何か黒い影が突っ込んできたように思えた。

 順子は慌てて車を止める。

「イテテ」

 男の声がするので、車を降りて左側に回り込む。

 和服を羽織った坊主頭のおじさんが、順子が運転している車のしたに足が入った状態で倒れている。

「まさか、ウインカーを出さずに曲がるとは」

 確かにその通りだった。中央分離帯がある為、市役所から右折で出ることはできない。左折しかないから、ウィンカーを出すのを怠っていたのだ。

「すみません」

 順子が謝ると、坊主頭のおじさんは、上体を起こして言った。

「ん? 君は……」

「お怪我はありませんか?」

「見た通り、足をぶつけて立てない」

 順子はすぐにスマフォで救急車を呼ぼうとする。

「救急車を呼びます」

「そんなことより、手を貸してくれ」

「?」

 順子はスマフォをしまうと、おじさんの手を引っ張った。

 車の下から足が抜け、さらに引っ張るとおじさんは立ち上がった。

「おっと」

 おじさんがよろけるのを、順子は支えようとした。

 和服の胸元が開いて、おじさんの濃い胸毛が見えた。

 車を背中にしておじさんの体に押し潰される。

 剣道やら柔道やらの、男臭い体臭が鼻をついた。

「だ、大丈夫ですか?」

 懸命に押し返す。

 中々うまく立ち上がれないらしかったが、何度か押し返しているとようやく離れられた。

「さっきから思ってたんだが、手に触れて確信した。君、藤村順子さんじゃないかな?」

「えっ?」

 名前がわかるわけない。なにか名前が知れるものがどこかになかったか、順子は考えを巡らせる。

(わし)は少々霊感があってな。それを生業にしておる」

「……」

 市役所の人に渡された名刺の人より、このおじさんの方が良いかもしれない。順子はふとそう思った。

「除霊とかできるんですか?」

「ああ。こんなところで車にぶつけられたのも何かの縁かもしれんな」

「待ってください。頼む前に料金とかを知りたいんですけど」

 おじさんは指を一本立てた。

「えっと…… それは」

「いくらだと思うかな。思った額で引き受けよう」

「十万?」

 順子は自分で言い出しておきながら、手を振って取り消す。

「持ち合わせがないので、一万でしてもらえませんか」

「……状況を見てからとしようか」




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