表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/24

引きこもり

『早く再就職しなさいよ』

 順子の声がそう言っている。

 俺は耳に手を当てて、その声が聞こえないようにした。

 だが聞こえてくる。

『早く再就職しなさいよ』

 俺は一人で部屋にいた。

 仕事はしていない。

 いや、就職していたのだ。ストレートで大学を出て、会社に入り、ずっと働いていた。

 ただ就職した先が、ブラック企業だったのだ。働き詰めで、稼いだ金を使えずにただ職場と部屋を往復する毎日だった。

 一年前、体調を崩して通院するようになると、会社から様々な理由をつけられ解雇(クビに)されてしまった。

 どこにも出ない引きこもり生活。

 最初の数ヶ月は心配してくれた。

 次の数ヶ月は励ましてくれた。

 だが、仕事を辞めて一年になろうとすると『再就職』を口にするようになった。

 互いに年齢が進んで、心配事が増えてくる。

 俺が働かないのなら『別れる』つもりだとも言った。

「……」

 俺は思い出しながら、暗い気分になった。

 金はまだあったが、一生暮らせるほどではない。

 何か、一歩、踏み出さなければならない。それはわかっていた。

 俺はとにかく、日の光を浴びることが大切だと思った。

 外に出て、なんとなく歩いていると、駅に出ていた。

 通勤時間帯と違う時間の、近所の駅は、人がまばらだった。

 駅の記憶は、薄暗い印象しかなかった。

 帰りは暗かったし、出勤時も季節によって暗かった。

 遊びにいく場所が、思いつかない。

 俺はしばらく、駅を歩いていた。

 その時、強い風が吹いた。

 何かが飛んできて、俺は目を閉じた。

 顔に当たったそれは、チラシだった。

 丸めて捨てるところもなく、そのチラシを持ったまま俺はまた歩き始めた。

 コーヒーショップで一息入れることにした俺は、手にしたチラシを広げた。

 格安国内旅行のことが書いてあった。

 そういや『ここ』行ったことないな。

 単純なことだった。

 子供頃は、親が旅行好きで、いろんなところへ連れて行ってくれた。

 子供ながらに、外食や非日常感で気持ちが明るくなった記憶があった。

 ここに行こう。

 コーヒーを飲みおえる頃には、一週間の旅行の計画を立てていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ