決戦(三)
赤鬼部隊の隊長の名は金剛丸と言い、人望が厚く、彼の部隊に入隊を希望する若者が後を絶たなかった。
山本の父親は、今では一線を退いているが、かつては金剛丸の先輩であった。
先輩後輩の間柄で、時々自宅に訪れる金剛丸に接しているうちに、その男気に惚れて、山本もまた入隊を希望している一人である。
山本は、金剛丸に貴重な情報を伝えることが出来て、天にも昇る気持ちで心の中でガッツポーズをした。
「桜井、大地は今どこにいるんだ?」
「慌てないで山本さん」
そう言って桜井は目を瞑ると、両手を軽く前に出して何かに集中した。
手を下ろして目を開けると、オッケイと呟いた。
「伊青と鬼島との密会は終わって、大地も帰るそうです。それでは皆さんも、これから僕の家に行きましょう。明里さん、久保さんと松尾さんのこと、お願いします。後のことは、心配しないで報告を待っていてください」
桜井は、山本と金剛丸と、彼の部下の和田を連れて家に向かった。
明里も行きたそうな素振りを見せていたが、残念そうに見送る。
道中、山本が不思議そうに質問した。
「桜井と大地はテレパシーか何かで繋がっているのか?」
「ええ、まあ、そんな感じかな」
説明し辛いらしく、困った表情をする。
「ふうん。大地が自分は、桜井の一部だとか何とか言っていたけど、俺にはよく分からんわ」
桜井は何も言わず、ふふっと笑っていた。
先に戻ったのは桜井たちで、遅れて大地が帰ってきたが、居間に図体の大きい見知らぬ男が二人いて驚いていた。
「山本さん含めて三人も青鬼が揃っていると、圧倒されるな」
「我々が青鬼だと分かるのか?」
金剛丸が訊く。
「もちろんだよ。こう、何と言うかパワーが感じられる……。そう言えば、あの伊青って言う奴は、感がめっちゃ鋭いよ。半端ない。俺が気配を消して慎重に行動しても、何かしらを感じ取っていたからね。だから、あなた達が近づくだけで、感づかれるよ」
「……そうか……。だから、いつも今一歩というところで逃げられていたのか」
金剛丸は、身柄を拘束するのに失敗した過去を思い出して、歯ぎしりして悔しがった。
「しかし、今回は逃がしやしない。それで、鬼島は何と言っていた? 二人は何をしようと企んでいるんだ?」
舞い込んできたこの大きなチャンスに金剛丸は興奮して、瞳を薄い緋色に変化させた。
それを見て大地が、
「嫌だなあ、俺に殴りかからないでよ」
山本をチラッと見て言う。
「すまん。あの時は悪かった。反省してるから、だからもう言うな」
不機嫌そうに山本が謝ると、大地はぺろっと舌を出して笑った。
「大地、山本さんをからかうのはもうよせ。本題に入ろう」
「わかった。伊青は二、三日中に住所を移し、八重樫のテリトリーから姿を消すつもりだ。何となく、ヤバそうになっていると感づいている。だから今後は、鬼島と手を組む算段をしていた。鬼島の商売を知ってる?」
金剛丸に訊く。
「ああ、奴は何でもやる。強盗、殺人、売春、薬の売人、何でもやる鬼畜だ」
「……、今日は……男が酷い暴行を受けていた。詳細は分からないが、男が女を逃がしたらしい。もしかしたら、彼は死んだかもしれない。俺は手の出しようがなかった。何も出来なかった」
口を一文字にして、珍しく大地が苦しそうに言う。
「……、そういう奴だ。絶対に奴を野放しにしてはいけない。緻密に計画を練って、奴ら全員を捕まえるんだ」
金剛丸が、元気を出せと大地の肩に手をやる。
「伊青は能力の売買に味をしめて、麻薬を使ってもっと大掛かりな市場を作ろうとしている。その際、鬼島に麻薬を横流ししてもらう代わりに、市場への介入を促している。大雅、天上人が危ないよ。ごく普通に生活している人が狙われる。八重樫の言う通り、八重樫一門が市場を管理して回さないと駄目だ。伊青は絶対に逃がしちゃいけない」
大地が暗い眼差しで、桜井を見つめる。
桜井も淀んだ瞳で、感情のない表情をして、大地を見やる。
山本は二人の態度が気になって、何か悪いことが起こりそうで不安になった。
「一週間後に、奴らは商売の取引を始める。叩くならその前だ。伊青と鬼島が繋がったら、恐ろしいことが起こるぜ」
大地が金剛丸に発破を掛けた。
金剛丸たちの帰る後姿を見送りながら、桜井が呟く。
「彼らにとっては、伊青よりも鬼島の方が重要みたいだ。絶対捕まえたいのは、鬼島なんだろうな……。でも……」
「でも、天上人にとっては伊青の方が脅威だ。伊青の持っている『悪魔の力』を持つ天上人の名簿がなけりゃ、鬼島なんて俺らとの交わりなんてない。だろ?」
大地が後に続いた。
「ああ。その名簿は絶対に破棄しなければいけない。たとえどんなことをしても……」
桜井は顔を歪ませて言った。




