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天鵞絨の吐息  作者: 空木白檀
第三章
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ファミレスにて

 菅原から詳しく聞き出すために、学校からほど近いファミレスに移動した。


 盗み聞きされないよう、念のために桜井と大地と菅原を真ん中のボックス席にして、左のボックス席に宗方と長谷川が、右側に五十嵐と坂本が陣取った。


双方とも背もたれ側に耳を押し付けて、ダンボ状態である。


「先ほどから訊いても答えてくれませんが、もう一度訊きます。奪った能力は誰が持っているのですか?」

 がっちりと周囲を固められた菅原は、観念してブツブツと独り言をずっと言っている。


「それは僕が持っている。ああ、そうさ。そうだよ」

「……あなたは、それを体に戻すことが出来ない?」

「ああ」

 親指の爪をカリカリとかじりながら、何やら呟いている。


「では、体に入れる能力者は、八重樫ですね」

「そうだよ」

 平然と答える菅原に桜井がイラついて、ドン! といきなりテーブルを叩いた。


「あなたのしたことは泥棒ですよ! 分かってますか!」

「桜井君、落ち着いて。ね!」


 何か揉め事が起きたのかと、ちらちらとこちらを気にしている客に対して、五十嵐がぺこぺこ頭を下げて、背もたれの上から顔を出して諫める。

桜井がはっと気づいて「ごめん」と小声で言ってから、胸に手を置いて大きく深呼吸した。


「だって……、だって、あの先生が悪いんだ。あんなゴミを燃やすために力を使うなんて……。僕が死ぬほど切望しても、決して手に入らない力を、あんなものに使うなんて。僕のなんて、何の生産性もない疎まれる力だってのに。年々、体力を失う僕らの苦しみなんて知りやしないのさ。力を売りたい者がいて、それを買いたい者がいる。それの手伝いをして何が悪い!」


 菅原は一気に言うと、逆切れした。


「青木先生のは違うだろ。先生は後ろから襲われて、無理やり力を奪われたんだ」

 桜井が怒りを殺して言うと、

「…………ああ、確かにそうだ。それは悪かった。感情に任せて行動してしまったことは、反省している」


 泥棒呼ばわりされて気が滅入った菅原が、額に手を当てて落ち着きなく体を揺らしている。


「悪いと思っているならば、先生の力を返して」

「ごめん。だから、僕には無理だ」

「八重樫に連絡を取って」


「彼は、僕の父と同じ年代だから体調が良い日が少ない。だから、最近は働いていないかも」

「そんなの知るか。僕は、連絡を取れと言っている」

 桜井は、能面のような表情で静かに言った。


「おい、大雅に逆らわないほうがいいぞ。『楽園』でのこと思い出せよ」

 声を押し殺していても、桜井の激怒がビンビンに伝わってくるので、大地は思わず席の隅に移動した。


「あ、ああ、分かった」

 菅原の目に恐怖の色が浮かぶ。


「あ……、ちょっと、待って。…………佐野医師が会ったのは、あなたのお父さんと八重樫だ。十年が経って、あなたがお父さんの代わりになったように、八重樫にも、若い次の代がいるはずだよ」

 桜井が眉間に皺を寄せて「でしょ?」と首を傾げた。


「ごめん。僕には分からない。だって、八重樫に会ったことがないから」

「え? 本当?」


「僕がこの忌まわしい力を得たのは、つい最近のことなんだ。この力を使えるようになると、その反発でこれから急速に体力が落ちていく。ああ、とうとう僕も悪魔に捕らえられたわけだ」


 菅原は、焦点の合わない瞳で窓ガラスの外を眺めていたが、桜井に顔を向けた。

「実は、力をつかったのは先生が初めてなんだ。だから、これからどうしたらいいか迷っていた」


 菅原は口に出したことで、落ち着きを取り戻し、青木に対して理不尽なことをしたと後悔して、素直に謝ってきた。


「父に訊いて八重樫に連絡するよ。先生に悪いことをした。謝るよ。きみも火の民なんだね。先生の親族? 僕は天上人に会うのは初めてだよ。いきなり二人も現れるなんてね。信じられない。きみらが羨ましいよ」


「は? 何言ってんの?」

 大地が呆れ顔になるが、桜井が止めた。


「分かってもらえて良かったです。早急にお願いしますね」

 桜井が手を差し出すと、菅原も徐に手を差し出して握手をし、彼は先に帰った。



 ファミレスに残った六人は、真ん中のボックス席に集合した。


「菅原ってさ、大雅の正体を知らないんだね。信じられない」

 大地が面白そうに言うと、桜井が眉をひそめた。


「彼らは、皇のオーロラの光を見ることも、感じることも出来ない。だから生命力を削り続けるしかない一族で、とても気の毒な人たちなんだよ」


「コピーしたんだろ?」

 大地が、ドリンクバーで入れてきたジュースを飲みながらニヤリとした。


 なに、あ、コピーか、五十嵐と坂本は理解したようだが、宗方と長谷川は何を言っているのか分からなかった。

彼らが話についていくには、もう少し長い付き合いが必要である。


「うん、八重樫の出方によっては、力を使うかもしれない。そうならないことを願うけどね」


「でも、ようやく解決の糸口が見つかって良かったよ」

 ハラハラしながら、経緯を見守っていた五十嵐がホッとして言うと、

「小池も困っていたから、嬉しがるな。早速教えてやろう」

 大地が相槌を打った。


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