犯人はきみだ
大地が調べたところによると、大西和夫は両親と兄の四人家族である。
父親は上場一部の大手企業に勤めていて、残業も厭わない仕事一筋の人間であり、また兄は大学をサッカー入学している。
大西自身も学校のクラブで、サッカーに興じている。
家族の体力を鑑みても、大西ではあり得ない。
そうなると、悪魔の力を使って、青木の能力を奪った犯人は菅原清という事になる。
菅原清は、両親と三人家族である。
父親は入退院を繰り返すため、定職には就いていない。
母親はパートで働いている。
だからといって、特にお金に困っているようには見えない。
ごく標準的な一般家庭に見える。
「こうしてみると、まず、菅原が犯人だよね」
放課後の教室で、大地が自分の仕事に満足して報告した。
「知らなかったよ。そんなことが起こっていたなんて。これからどうするつもり?」
青木の災難を、後から小池から聞いた五十嵐と坂本は、疎外感を味わい、とても不機嫌そうにしている。
桜井にしてみれば、余計な心配をさせたくなくて言わなかったのだが、それが二人を怒らせたらしい。
「菅原の目的が知りたい。もう高値で能力を買う人は、いないはずだから」
二人の怒りがビンビンに伝わってきて、辟易しながら桜井が答えた。
「そいつを取り囲んで、みんなで問い詰めればいいじゃん」
大地はいつも簡素に物事を言うが、
「大地、そんなに簡単なことじゃないよ。知らないと言われたら、それまでだぞ」
坂本が呆れたように大地を見る。
「ふーん、めんどくさ!」
大地の興味はもう薄れたようで、窓外に視線を移した。
「あ! 宗方さんと長谷川さんだ。俺、外に行って良いかな?」
「うん、そのまま帰っていいよ」
大地が目を輝かせて教室を出るのを、桜井は苦笑して見送った。
「大地君は、宗方さんだけでなく、あの新番長とも仲いいね」
五十嵐が不思議そうに、校庭にいる二人に視線を移した。
「うん、このあいだ三人は森林公園で遊んだけど、とても楽しかったらしい。宗方さんも長谷川さんも運動能力に長けた人達でしょ。だから、大地の相手をしてくれるのは僕も助かる」
ふふっと桜井も笑顔になる。
「ところで、青木先生はどうなの?」
五十嵐が、あずかり知らない出来事について訊いてきた。
「ああ、小池さんが面倒を見てくれているのだけど、先生は気丈に振舞っているらしい。でも、ぼんやりすることが多くなって、やっぱり、目が離せないって。とても気の毒だって言っていたよ」
「そっか。じゃあ、早く菅原って奴をとっちめないとな」
坂本が言うと、五十嵐も頷いた。
翌日の放課後、宗方と大地が北棟にある三年の教室を訪れた。
「あれえ、宗方じゃないか。久しぶりだな。何か用?」
以前一緒につるんで馬鹿をやっていた、縦にも横にも大柄な山本が、すぐに気が付いて声をかけてきた。
「あ、山本さん、ご無沙汰してます。実は人を捜していて、菅原清っていう人います?」
「おまえその名前、前にも俺に訊いてたよな。どした? 菅原が何かしたか?」
「いや、大したことじゃないっす。ちょっと話があって」
「フーン……。あ、おまえは一年の大地ってんだろ? 宗方を負かしたとか何とか。へええ、意外と小粒じゃん……。でもいい面してんな」
山本の興味が、菅原から大地に移ってホッとした宗方の目の端に、変な動きをする男が入ってきた。
男は教室の窓際をスススッと、体をこちらに向けながら横に移動して、出口に進もうとしている。
その奇妙な歩き方で、彼が菅原だと一目瞭然で分かった。
宗方が彼よりも素早く出口に行き、菅原の前に立ちはだかる。
「菅原さあん、話があるんだ。ちょっと付き合ってよ」
そう言って、ぐいと顔を近づけて囁いた。
「『楽園』まで来てよ。青木先生のことでさ。分かるだろ?」
恐怖をたたえた瞳で宗方を凝視する菅原は、カタカタと小さく震えだした。
「そうそう、大人しくついて来てくれれば、何もしないからさ」
ニンマリと笑うと、大地に声をかけた。
「おい、菅原さん、一緒に来てくれるってさ。行こうか。山本さん、失礼します」
宗方が手を振るのを「ああ」と返しつつも、菅原を真ん中にして教室を出る三人を、山本は不思議そうに見つめていた。
菅原は無言のままついてきたが、『楽園』に長谷川と桜井、それに見知らぬ男子生徒二人がいるのを確認すると立ち止まった。
「おい、止まるな。さっさと行けよ」
大地が面倒くさそうに言う。
「き、きみたちは何だ。ぼ、僕に何をする気だ」
可哀想なほど怯えている。
「何もしませんよ。何かしたのはあなたの方でしょう」
桜井が無表情に口を開くと、菅原は落ち着きがなさそうに両手を握る。
「あなたは青木先生の能力を奪って、どうするつもりですか?」
桜井がいきなり本題を投げかけるので、周りにいた連中は呆気に取られて、どういう展開にするつもりなのか予想できなかった。
「何のことか分からないよ」
「ああ! もうそういうのはいいから!」
険しい顔つきで菅原の前に立ち、右手の人差し指から火を出して、菅原の顔に近づけた。
「な、な、やめろ。熱いよ」
あまりの出来事に菅原はパニックになりそうだった。
長谷川にとっても刺激が強すぎた。
「何、あれ、何、あれ」
いつもは鋭い目つきの長谷川だが、その目が大きく見開かれた。
「しっ!」
宗方が黙るように口に人差し指を当てた。
「ほら、僕の力も奪いなよ。青木先生にしたみたいに」
右手を開くと、五本の指から炎が上がった。
「やめろ、やめてくれ」
「先生から奪った力はどこ! あなたが持っているのか!」
珍しく桜井が怒鳴った。
菅原がめそめそしだしたが、桜井はさらに強く追及する。
「八重樫に売ったのか? それじゃあ泥棒と同じじゃないか!」
「八重樫を知っているのか?」
菅原は驚いて目を見張るが、桜井に睨まれて慌てて目を伏せた。
「ほら、早く奪いなよ。でないと大やけどするよ」
桜井が、広げた手をすぼめると五つの炎が集まり、バーナーからでる炎のように勢いがついた。
まるで菅原を狙うごとく、青色炎が勢いよく燃える。
菅原はそれを目にすると、腰を抜かしてぺたんと尻もちを着き、ブルブルと震えだした。
そのとき、五十嵐が桜井と菅原の間に入り、止めようとした。
「桜井君、やりすぎだよ。落ち着いて、僕を見て」
五十嵐は、皇に目覚め始めた時の苦悩に満ちた桜井を思い出して、不安に襲われた。
あの時感じた桜井に、とても似ている。
「そうだな。落ち着け桜井。まず、その……炎をしまえよ。危ないだろ」
坂本も五十嵐に加勢して、菅原に手を貸して立たせた。
菅原は、されるがままになっている。
そんな菅原を目で追いながら、桜井は右手をギュッと握りしめて火を納めた。
「……、青木先生を襲ったのは、あなただ。認めますよね」
睨みつけながら菅原に問いただすと、震えながら首を縦に振った。




