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天鵞絨の吐息  作者: 空木白檀
第三章
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悪魔の力

 久しぶりに会った北村院長と佐野医師は、別人と見紛うほど穏やかな表情をしていて、そのことは、桜井を非常に喜ばした。


「皇、よくいらっしゃいました」

 院長が慇懃な挨拶をするのを、桜井が遮る。

「院長、僕は一高校生としてきました。皇としてではありません」


 桜井が戸惑い気味なのを尻目に、エドガーが話に割り込む。

「お二人とも、お元気そうで何よりです。ボクたちは今困っていて、ある情報が欲しい。以前のあなた方のように、皇の恩恵を受けられない一族がいるのを知っていますか?」


 北村と佐野は困惑な表情を浮かべた。

「知らないこともありませんが、どうしてですか?」

 言い難そうに、北村が答える。


「青木が襲われて、力を奪われました。天上人の力を奪う者を知りませんか?」

 それを聞いて、北村は大変動揺した。

「それは本当ですか? だとしたら大変だ。我々も気をつけないと危ない」

「知っているのですね! 教えてください!」

 桜井が緊張した面持ちで声を荒げた。


「ええ、あれは皇、いや大雅君と知り合う前のことだから、十年ぐらい前のことだと思うけど」

 北村は、思い出すように考え考え話しだした。


「最初は患者としてきたと思う。……そう、確か、どこが悪いというのではなく、虚弱体質で酷く顔色が悪かった。内科から心療内科のわたしのところに回されてきたのを思い出す」

 そこで腕組をして眉間に皺を寄せる。


「たぶん私に会うのが目的だったと思う。彼は『もし、能力が手に入るのであれば、いくら出せるか』と訊いてきた」

「何だって! 能力を売買しているのか?」

 エドガーと桜井が驚いて目を丸くした。


「わたしは相手にしなかったけれど、佐野君は……」

 みんなの視線が佐野に移ると、佐野は顔を赤くして俯いた。

「……、僕はできるなら力が欲しかった。だからチャンスだと思ったんだ」

 触れられたくない話題のようで、言い難そうにする。


「話を聞くと、順番待ちだと言われた。前金を支払って数ヶ月待ったが音沙汰なしで、詐欺かもしれない、やられたと思った頃に、連絡があった。残りの金を払って能力を購入したが、結局、僕には根付かなかった。相性があるらしい。今思えば、金に物を言わせる恥ずかしい行動だったと反省している」


「もっと詳しく教えて」

 桜井の目つきが鋭くなる。


「落ち合った場所や、どうやって力を体に入れるのか、どんな人物がいたのか、気が付いたことを教えて」

「待ってくれ。十年も前のことだから……」

 佐野は額に手をやり、暫く目を閉じて考えていた。


「患者の名は、たしか八重樫といった。歳は当時で三十前後、彼が施術をして、彼がリーダー格だと思う。他に同じ年齢ぐらいの男が一人いて、そいつが両手を合わせて手を広げると、そこには薄く光るモヤモヤとしたものが現れ、それを八重樫が手に取り、僕の両眼に当てた。するとほんわりと体全体が暖かくなった。その瞬間、ふっと目が回ったけれど、それで施術は終了していた。次の日には使えるようになると言われたけれど、僕の場合は変化なしで、文句を言うと、相性が合わないのは僕側の問題だから、苦情は受け付けないと突っぱねられた。もう一度試したいなら、改めて金が必要だと言われたけれど、僕はそのために、借金までしたんだよ。もうそれ以上借金をするのは無理だし、また無駄になる可能性だってある。だから諦めたよ」


 自身の恥部をさらけ出して、佐野は肩を落とす。

「施術の場所はどこだった? 今も連絡先が分かるかな?」

 エドガーが、思いがけない成果に期待しつつ訊ねた。


「場所はホテルの一室だった。連絡先はどうかな、家に帰ってから調べてみるけれど、期待しないでくれ。後で連絡するのでいいかな?」

「オッケー、よろしく。大雅君、凄い収穫だよ。来てよかったな」

 エドガーは気をよくして言うが、桜井は鬱々としていた。


「院長は八重樫という人を、どのような人物だと思いますか?」

 院長は人を観察する能力に長けていると、桜井は常日頃、思っている。だから院長の慧眼(けいがん)に問いたいと思った。


「ああ、徐々に思い出してきたよ。彼は食べても太れない、そもそもあまり食べることが出来ないのだと思うけれど、痩せすぎで免疫力が弱く、すぐ体調を崩してしまう人だった。疲労感も強く、それがだらけた感じに映り、甘えとか、嫌味を言われたことも多いだろう。生まれつき体が弱いせいで、周囲からの理解を得られずに、自身を否定され続けた人生だったのかも知れない」


「虚弱体質なのは、皇からの生命力を貰えないからですか?」

 桜井が言うのを、エドガーが鋭く見た。北村がそれに気づいた。


「そうだけれど、きみとは関係ないことは、肝に銘じたほうが良い」

 桜井は唇を噛んで言葉を絞り出した。

「何でそんなことを、能力を売買したりなんかするのでしょうか?」


「……、需要があるから、供給がでる。たぶん、能力が欲しい者がいて、それを知った貧しい者が、自身の力を売ったことから始まったのかもしれない。その仲介者が八重樫たちだという事だよ」

「能力が欲しい者って、昔のあなた達のような?」


「……ああ、そうだよ。たぶん、そうだ」

 北村と佐野が一瞬固まり、北村が不快そうに答えた。


「じゃあ、今は? 商売出来ないでしょう? だって、需要がないもの」

 その質問に北村が絶句する。

「確かにそうだ」


「だったら、青木先生は何で力を奪われたの? 奪った力はどうするの? だれが高額で買うの?」

 桜井の質問に答えられる大人はいなかった。


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