岩緑青高校の三羽烏
番は宗方から長谷川に引き継がれた。
宗方は話しやすい番長だったが、長谷川は声をかけにくい。
しかしそこは酒井が間に入って、うまくやっている。
それに酒井は実に嬉しそうに、水を得た魚のように働いた。
その分、長谷川は自由になるので、宗方と大地とよく一緒にいるところを見られている。
そうこうしていると、自然と三人は『岩緑青高校の三羽烏』と呼ばれるようになった。
「あの大地って、宗方さんに勝った子だろう? 意外に仲が良いんだね。それに長谷川さんともよく一緒にいるし、最強三人組がいれば今年は安泰じゃん」と、三人を好意的に見る生徒が多い。
今日も体育館裏の『楽園』に、三羽烏が集まっている。
そこに桜井も加わっていた。
「もう少し的を絞らないと、人数が多すぎて特定できないぞ、桜井」
宗方が煙草を吸いながら、酒井や石川から得た情報を言うと、桜井は残念そうに腕を組んだ。
「ええ、そうですね。でも、これと言って……」
足音が聞こえたため口を閉じると、青木が膨らんだゴミ袋を持って現れた。
あの後、一日だけ学校を休んだが、元気はないものの、毎日通勤はしている。
能力を失った自分を認めるのは難しいらしく、一言もそのことには触れない。
「あら、煙草なんて吸って、駄目じゃないの」
生気のない目をして、おなざりに言う。
「先生はごみを捨てに?」
「そうよ。…………ちっ」
四人の前を通り過ぎて焼却炉の蓋を開け、ゴミ袋を入れたと思ったら、青木が舌打ちをして動作が止まった。
「まったく、これだから嫌になっちゃう。はあ、煙草の火をかして」
不機嫌になり、振り向きざま宗方に言った。
「ああ、ライター忘れたんすか」
徐に立ち上がり、ポケットからライターを出して渡す。
「ライターなんて必要なかったのよ」
ボソッと独り言を言う。
「……先生! 今までは、ここで力を使ってたんですか?」
桜井が驚いて訊いた。
「え? ああ、誰もいないのは、ちゃんと確認していたわよ」
青木は憤慨気味に答えて、ライターで火をつけて蓋を閉めた。
「はい、ありがとう。でも、煙草はやめなさい。体に悪いわ」
「はーい」
ライターを受け取り、宗方が気のない返事をした。
桜井は辺りをキョロキョロしたと思ったら、北棟の校舎を見上げた。
青木がバイバイと、手をひらひらさせて姿を消してから、桜井が声をひそめて言った。
「先ほどの話ですけど、三年の男子に絞ってください」
「え? なぜ?」
長谷川が怪訝そうな表情になる。
「犯人が、どうして青木先生を天上人だと知ったのか、不思議だったんです。きっと力を使う先生を見たのだと思います」
桜井は校舎を見上げて、指差す。
「あそこから見たんですよ。青木先生が火を扱うのを。さっきも誰かが見ていました。僕が見上げたら隠れましたが、詰襟でしたから男です。北棟は三年の教室ですから、三年の男子です」
桜井の表情が明るくなったのが分かった。
「そっか、そうなると人数が絞れるな。よし、早速調べてみるよ。あとで連絡する」
宗方がパンツに着いた砂をパンパンと叩いてから、石川を捜しに校舎に戻った。
酒井が主に聞き込みをしてくれたらしく、程なくして的を絞れたと連絡があり、話が漏れないように桜井の家に宗方と長谷川がやって来た。
「桜井の家に来るのは、森野姉弟が去って以来だから、久しぶりだな」
宗方が如何にも嬉しそうに話すのを、長谷川が物珍しそうに見ている。
「おまえが素直な高校生に見えるよ。意外だな」
ふふっと、にやつきなが言うと、宗方が「うるせえよ」と小声で不貞腐れた。
「長谷川が話せよ」
番長を立てるように、宗方が言う。
「あの日、五時限目の授業を出なかった生徒は、調べたら十六名いた。そのうち三年は五名だ。女子が二名だから、男は三名。一人は相撲取りみたいに太っているから、そいつは外していい。そうなると、怪しいのは二名にまで絞れた」
長谷川は、満足そうに話す。
「そいつの名前は、大西和夫と菅原清だ」
「どういう人物か知っていますか? どちらが先生を襲ったと思いますか?」
桜井は腕組をして、思案顔で訊いた。
「俺は……、大西だと思うな。何考えてるんだか分かんない奴だし、休み時間に、ふらふらしている奴だよな。宗方はどう思う?」
「うーん、難しいな。知り合いに訊いてみたけどさ、大西は変人だと言うし、菅原は、頭が良すぎて、いつも独り言を言ってるような奴だとさ。つまり、二人とも変わりもんだ。あ、それと、菅原は後姿でも分かるらしい。歩き方に特徴があって、カニのように横に歩くらしいぞ」
「そうですか。あとは大地に調べてもらいます。二人ならば出来るよね?」
大地に確かめると「勿論さ」と親指を立てた。
「あのさ、大地の能力は抜かれないのか? 大丈夫なのか?」
宗方が気がかりを口にする。
「大地のは一族から伝わる能力ではないし、能力というよりも、あれが大地自身ですから、奪おうとしても出来るわけがないですから、安心してください」
にこやかに言う桜井と、Vサインする大地を見て、宗方は羨望の眼差しを向けた。
「僕はこれからエドガー先生に会いに出かけます。いろいろ調べてくれて、本当にありがとうございます。助かりました。お二人は、大地と森林公園で力比べでもしたらどうですか?」
「いいね。俺は最近、少し運動不足なんだ」
大地が嬉しそうに言うと、
「ああ、長谷川は大地を知らないからな。きっと驚くぞ」
宗方もノリノリで椅子から立ち上がり、伸びをした。




