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天鵞絨の吐息  作者: 空木白檀
第三章
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能力を奪う者

 保健室では青木が泣きはらした目をして、ガックリと肩を落としていた。


「思い当たる生徒はいないのかよ」

 エドガーが問いただしても、頭を振るだけだ。

すっかり憔悴している青木に、桜井が同情の籠った声をかける。


「とにかく、犯人を必ず見つけ出して責任を取らせますから、先生、元気出してください」

「ありがとう」

 か細く答えると、青木はまた大粒の涙をながした。


「だけど、犯人はここの生徒なのは確かですか?」

「ああ、間違いないだろう。いつ隠れたのか分からないが、ベットの下に隠れて誰もいなくなるのを待っていたのだと思う」


「昼休みが終わって誰もいなくなってから、青木先生を後ろから襲ったのですね。でも、どうやって力を奪ったのでしょうか?」

「後ろから目を塞がれたらしい。とたんに目の前が真っ暗になり意識を失った。意識を取り戻したときには力がなくなっていたそうだ」


「分かるのですか?」

「ああ、抜かれたのが分かるらしい」


 エドガーがため息とともに青木を見ると、彼女はベットの上で体を丸めてうとうとしていた。

体調の変化と泣き疲れて、立っていられないほど疲弊している。


「エドガー先生は、そういう能力者を知っていますか?」

「いや、そんな奴がいるのは聞いたことがないよ。他人の能力を奪うなんて。奪って、自分のものにするのか、ただ奪うだけなのか、それさえも分からない」


 エドガーは腕を組んで、もともと白い顔色を、さらに蒼白な顔色にして青木を見つめた。

 その時、大地が何かに気が付いて、みんなに静かにするように『しっ』と、口に指をやった。


「どうした?」

 桜井が訊くと、

「誰かが近づいてくる。……そこの廊下まで来た。ここの様子を伺っているみたい」

 廊下に視線を移して、そっと答える。


 エドガーが手で、動くなと合図してから、扉に近づき思いきり勢いよく開けた。


 そこに現れたのは、急に扉が開いたのでびっくりして腰を抜かし、尻もちを着いている宗方と、中腰で呆気に取られて、動作が途中で止まった大男だった。


「キミは……、宗方じゃないか。ここで何をしているんだ? …………、キミは誰だ?」

 険しい表情のエドガーが、長谷川を睨みつけた。


「あ、あ、彼は長谷川、俺たち、間が悪かったかな?」

 保健室に漂うピリピリ感と、エドガーの危うい雰囲気に恐れをなした宗方が答える。


「何しに来た?」

 エドガーの冷ややかな眼差しは変わらない。


「え? ああ、お腹が痛くて」

「……、キミが? わざわざ保健室に? は! 噓をつくな!」


「なに? どうしたの? 怖いな」

 明らかにいつもと様子が違うので、宗方はどうしたらいいか分からなかった。


「先生、とにかく部屋に入ってもらいましょう」

 保健室の前で、尻もちを着いたままでいられるのはまずいと思い、桜井が部屋に入るように促す。


「何かあった? 俺、まずかった?」

 宗方が立ち上がりながら、桜井にボソッと囁いた。


「彼は何者ですか? 何でここに?」

 長谷川を見つめながら、桜井も小声で訊いた。


「ああ、長谷川は俺の後を継いで、番をしてくれることになったんだよ。大地に紹介しようと思ってな。良い奴だよ」


「大地がここにいると、なんで知っているのですか?」

「いや、桜井が保健室にいると、坂本から聞いたもので……」


「そうですか。先生、大丈夫です。大地に用があったらしいです」

 張り詰めた空気が、ふっと抜けた気がした。


「宗方さんや長谷川さんって、保健室を利用することってあるんですか?」

 桜井が妙なことを訊くなと思った。


「ああ、ごめん。あるわけないよ。今日初めて来たよ。長谷川もだろ?」

「当たり前だろ」

 長谷川は不機嫌そうに答えた。


「宗方さんは番を下りるのですか? へえ……、そして長谷川さんが番になる」

 桜井は長谷川をじっと見つめてから、エドガーに何やら囁いた。


「現番長と、次期番長がここにいるんだ。利用しない手は無いよね。宗方さん、長谷川さん、お願いがあります」

 桜井は彼らの生徒を牛耳る力を、利用させて貰おうと考えた。


「青木先生が生徒に襲われて、力を奪われたのです。犯人を見つけ出す手助けをしてください」

「え! 何だって! 襲われたって?」

 宗方は驚いて青木を目で探すと、ベットで縮こまっているのを見つけた。


「何をされた?」

 怒気を含んだ声で訊いた。

「先生の火を操る力を奪われました」

「え? ああ、そう」


 宗方は何と答えたら良いのか困惑しているし、長谷川は無言のまま様子を伺っていた。

 エドガーが難しい顔で二人を見ていたが、何かを決めた表情になり口を開いた。


「長谷川君とやら、ボクらのことは後で宗方君に聞いてくれ。今のところ、ボクらは下手に動かないほうがよさそうだ。犯人に警戒されたくないからね。だから、キミたち二人が動いてくれないか」


「何をすればいい?」

 宗方は、自分が彼らの力になれそうだと思うと、嬉しくなった。


「番の力を使って、情報を集めて欲しい」

「どんな?」


「花音が言うには、犯人の手は小さくもなく、大きくもない、しなやかな手だったらしい。だから、的は平均的な身長で、やややせ型の男か女だと思う。その中で、今日の午後は早退した者と、五時間目をエスケープした者、あとは、花音に興味を抱いている生徒をピックアップして欲しい。出来るかい?」


「了解。やってみるよ」

「ありがとう。頼むな」

 宗方は親指と人差し指で丸サインを作り、エドガーに送った。


「先生、小池さんを呼んで、青木先生の世話をしてもらいましょう」

 桜井が青木の状態を考慮して提案した。

「ああ、そうだな」


「大地、小池さんを見つけて、ここに連れてきてくれる?」

「うん、いいよ」

 大地が保健室から出ようとすると、宗方が声をかけた。


「おい大地、その後は俺たちに付き合えよ」

 大地は振り向いて手を振り「分かった」と言って、小池を捜しに出て行った。


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