能力を奪う者
保健室では青木が泣きはらした目をして、ガックリと肩を落としていた。
「思い当たる生徒はいないのかよ」
エドガーが問いただしても、頭を振るだけだ。
すっかり憔悴している青木に、桜井が同情の籠った声をかける。
「とにかく、犯人を必ず見つけ出して責任を取らせますから、先生、元気出してください」
「ありがとう」
か細く答えると、青木はまた大粒の涙をながした。
「だけど、犯人はここの生徒なのは確かですか?」
「ああ、間違いないだろう。いつ隠れたのか分からないが、ベットの下に隠れて誰もいなくなるのを待っていたのだと思う」
「昼休みが終わって誰もいなくなってから、青木先生を後ろから襲ったのですね。でも、どうやって力を奪ったのでしょうか?」
「後ろから目を塞がれたらしい。とたんに目の前が真っ暗になり意識を失った。意識を取り戻したときには力がなくなっていたそうだ」
「分かるのですか?」
「ああ、抜かれたのが分かるらしい」
エドガーがため息とともに青木を見ると、彼女はベットの上で体を丸めてうとうとしていた。
体調の変化と泣き疲れて、立っていられないほど疲弊している。
「エドガー先生は、そういう能力者を知っていますか?」
「いや、そんな奴がいるのは聞いたことがないよ。他人の能力を奪うなんて。奪って、自分のものにするのか、ただ奪うだけなのか、それさえも分からない」
エドガーは腕を組んで、もともと白い顔色を、さらに蒼白な顔色にして青木を見つめた。
その時、大地が何かに気が付いて、みんなに静かにするように『しっ』と、口に指をやった。
「どうした?」
桜井が訊くと、
「誰かが近づいてくる。……そこの廊下まで来た。ここの様子を伺っているみたい」
廊下に視線を移して、そっと答える。
エドガーが手で、動くなと合図してから、扉に近づき思いきり勢いよく開けた。
そこに現れたのは、急に扉が開いたのでびっくりして腰を抜かし、尻もちを着いている宗方と、中腰で呆気に取られて、動作が途中で止まった大男だった。
「キミは……、宗方じゃないか。ここで何をしているんだ? …………、キミは誰だ?」
険しい表情のエドガーが、長谷川を睨みつけた。
「あ、あ、彼は長谷川、俺たち、間が悪かったかな?」
保健室に漂うピリピリ感と、エドガーの危うい雰囲気に恐れをなした宗方が答える。
「何しに来た?」
エドガーの冷ややかな眼差しは変わらない。
「え? ああ、お腹が痛くて」
「……、キミが? わざわざ保健室に? は! 噓をつくな!」
「なに? どうしたの? 怖いな」
明らかにいつもと様子が違うので、宗方はどうしたらいいか分からなかった。
「先生、とにかく部屋に入ってもらいましょう」
保健室の前で、尻もちを着いたままでいられるのはまずいと思い、桜井が部屋に入るように促す。
「何かあった? 俺、まずかった?」
宗方が立ち上がりながら、桜井にボソッと囁いた。
「彼は何者ですか? 何でここに?」
長谷川を見つめながら、桜井も小声で訊いた。
「ああ、長谷川は俺の後を継いで、番をしてくれることになったんだよ。大地に紹介しようと思ってな。良い奴だよ」
「大地がここにいると、なんで知っているのですか?」
「いや、桜井が保健室にいると、坂本から聞いたもので……」
「そうですか。先生、大丈夫です。大地に用があったらしいです」
張り詰めた空気が、ふっと抜けた気がした。
「宗方さんや長谷川さんって、保健室を利用することってあるんですか?」
桜井が妙なことを訊くなと思った。
「ああ、ごめん。あるわけないよ。今日初めて来たよ。長谷川もだろ?」
「当たり前だろ」
長谷川は不機嫌そうに答えた。
「宗方さんは番を下りるのですか? へえ……、そして長谷川さんが番になる」
桜井は長谷川をじっと見つめてから、エドガーに何やら囁いた。
「現番長と、次期番長がここにいるんだ。利用しない手は無いよね。宗方さん、長谷川さん、お願いがあります」
桜井は彼らの生徒を牛耳る力を、利用させて貰おうと考えた。
「青木先生が生徒に襲われて、力を奪われたのです。犯人を見つけ出す手助けをしてください」
「え! 何だって! 襲われたって?」
宗方は驚いて青木を目で探すと、ベットで縮こまっているのを見つけた。
「何をされた?」
怒気を含んだ声で訊いた。
「先生の火を操る力を奪われました」
「え? ああ、そう」
宗方は何と答えたら良いのか困惑しているし、長谷川は無言のまま様子を伺っていた。
エドガーが難しい顔で二人を見ていたが、何かを決めた表情になり口を開いた。
「長谷川君とやら、ボクらのことは後で宗方君に聞いてくれ。今のところ、ボクらは下手に動かないほうがよさそうだ。犯人に警戒されたくないからね。だから、キミたち二人が動いてくれないか」
「何をすればいい?」
宗方は、自分が彼らの力になれそうだと思うと、嬉しくなった。
「番の力を使って、情報を集めて欲しい」
「どんな?」
「花音が言うには、犯人の手は小さくもなく、大きくもない、しなやかな手だったらしい。だから、的は平均的な身長で、やややせ型の男か女だと思う。その中で、今日の午後は早退した者と、五時間目をエスケープした者、あとは、花音に興味を抱いている生徒をピックアップして欲しい。出来るかい?」
「了解。やってみるよ」
「ありがとう。頼むな」
宗方は親指と人差し指で丸サインを作り、エドガーに送った。
「先生、小池さんを呼んで、青木先生の世話をしてもらいましょう」
桜井が青木の状態を考慮して提案した。
「ああ、そうだな」
「大地、小池さんを見つけて、ここに連れてきてくれる?」
「うん、いいよ」
大地が保健室から出ようとすると、宗方が声をかけた。
「おい大地、その後は俺たちに付き合えよ」
大地は振り向いて手を振り「分かった」と言って、小池を捜しに出て行った。




