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天鵞絨の吐息  作者: 空木白檀
第三章
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岩緑青高校の新番長

 森野姉弟が、無事に信徒が待つ村に戻った頃から、宗方が何やら考え込むようになった。


 彼はついに番を譲ると言い出し、鼻血男石川が慌てふためいて止めた。

しかし彼の意思は固く、それでは次は誰がなるのかと、校内中で憶測が飛び交っていた。


 手を上げたのが二年の酒井で、自身がイケてると勘違いしているような痛い人間である。

だが人当たりは良く、悪い人間ではない。

しかし有望視されているのは、やはり二年の長谷川で、彼は酒井と異なり寡黙で、眼力鋭く、ちょっと近寄りがたい雰囲気がある。


 宗方が推すのはもちろん長谷川で、連日頼み込んでいるが、なかなか首を縦に振らない。


「なあ長谷川、俺の後を引き受けてくれないか? 頼むよ」

「興味ない。やりたい奴がやればいい」

 長谷川の態度は取り付く島もない。


「酒井かぁ……、奴じゃ不良どもに舐められそうだ。いるだけで秩序が保たれる、そんな奴が必要なんだよ」

 はあ、と大きなため息をつく。


「お前がやればいい。あと一年あるだろ。なぜ今身を引くんだ?」

 相変わらず、表情を変えずに冷ややかに言う。


「俺は……、他にやりたいことが出来て、あいつらの面倒を見られそうにない。だけど、酒井じゃ駄目だ。な! 頼むよ」

 パンと音をさせて手を合わせる宗方を、迷惑そうに眉間に皺を寄せて眺める。


「やりたいことってなんだよ」

「教えたら引き受けてくれるか?」

「……考えてやってもいい」

 長谷川の態度が軟化したのが感じられて、宗方は気をよくした。


「俺は、この学校で俺より強い奴はいないと思っていた。だけど、現れたんだよ。俺は感激したね」

「ああ、大地とか言う一年坊主だろ」

「はは、やっぱり知ってるか」


「当たり前だろ。マラソン対決は、かなり有名な話だぞ。そんなに凄かったのか?」

「ああ、気持ち良いほどの完敗だ。俺は、これからも彼らに関わっていたい。だから、他のことには気が回らないし、煩わしい思いもしたくない。番の役目は出来ない。お前なら適役だ。な! 頼むよ」


 長谷川は閉じていた目を開けると、悪戯っぽく口角を上げた。


「わかった、いいよ」

「本当か。良かったぁ」

「ただし、一つ条件がある」

「なに?」

 宗方が怪訝そうに首を傾げた。


「俺も混ぜろ」

「は?」

「俺に大地を紹介しろ」

「……、それじゃあ意味ないだろ」

「校内では番として、不良どもの躾はしてやる。面倒も見る。だから、校外では俺も混ぜろ」

「うーん、しょうがないな。わかったよ」


 桜井の困り顔が目に浮かんだが、それもまた一興と、最後に宗方はほくそ笑んだ。


 石川にそれを告げると、長谷川さんならばと納得して、校内の身内に触れ回ったから放課後には、ほぼ全校生徒に知れ渡ることになり、それを聞いた酒井は不機嫌になった。

しかし宗方が酒井を呼んで、副番長として長谷川の力になって欲しいと頼むと、途端に上機嫌になったらしい。


「酒井は単細胞だからな、奴を表に出して上手く使うといい。長谷川は後ろでドンと構えていたら、それで済むんじゃないかな」

「ああ、了解した。それよりも、これから大地に会わせろよ」

「ああ、じゃあ、行こうか」


 興味津々で仕方ない様子の長谷川を大地に合わせたら、どのような反応をするのかと想像して、宗方は面白くて面白くて、思わず顔が崩れそうになった。


 現番長と次期番長が揃って一年の教室に現れたものだから、一斉にみんなの視線が集中する。

二人の目的が大地なのは薄々感じているから、教室中の目が自然に大地を探すが、教室にはいない。

宗方が坂本を見つけて、手で合図をする。


「坂本ぉ、大地はどこだ?」

「えー、知らないです」


 宗方の隣にいる長谷川にビビりながら答える。

長谷川は校内一身長が高いと思われる。

骨太で頑丈そうな体をしている。

目つきが鋭いから、睨まれたら蛇に睨まれた蛙状態になりそうだ。

宗方も鍛えられた肉体をしているが、長谷川と並ぶと小ぶりになる。


「何だ、いないのか。桜井は?」

 坂本は宗方に近づき、耳元で囁いた。


「桜井は、保健室に行ってます。何か問題が起きているみたいですよ」

「どんな?」

「俺は知りませんよ」


 期待でウズウズしている宗方を見ると、何かやらかしそうで、坂本は言わないほうが良かったと、後悔した。


「よし、俺たちも行ってみるか」

「駄目ですよ。絶対に駄目!」


 ギョッとして坂本は小さいが鋭い声で言う。

すぐさま宗方は、体をくの字に曲げて苦しみだした。

「いっててて。腹がいてえ。長谷川、保健室に連れてってくれ」


 坂本は『この野郎』と胸中で毒づきながら、長谷川の肩を借りて教室から出て行く宗方を見送るしかなかった。

後で桜井から文句が出るな、と思うと気持ちが萎える。


「おい、くだらない演技に俺を巻き込むなよ」

 教室を後にすると、長谷川が肩から宗方の腕を離し、不機嫌そうにジロリと睨んだ。


「だって坂本が止めに入るからさ。ははは」

 数歩先に歩き、機嫌良く振り返ると、

「おまえ、運が良い。大地だけでなく、桜井と青木にエドガーも紹介してやる。実に面白い連中だぞ」


 宗方はスキップしながら保健室に向かった。



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