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天鵞絨の吐息  作者: 空木白檀
第二章
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キシャルと杏仁(二)

「藤原、おまえ、えらいことに関わっているみたいだな」

「何が何だか、正直困る」

「ま、そう気に病むな。なる様になるさ」


 まったくこの男は、他人事だと思って呑気なことを言う。

藤原は憂鬱になって、ため息をついた。

二年の教室に戻ると、鼻血男の石川ら子分が待っていた。


「どこ行ってたんですかぁ、宗方さん。早く帰りましょうよ。マックに行きません?」

「おう、悪い、待たせたな。よし、今日は奢ってやる」

「ホントっすか。やったぁ。…………お先に失礼しまーす」

 宗方の後ろに藤原がいるのに気が付いて声をかける。


「ああ、じゃあな。また明日」


 藤原は一人教室に残り、物思いにふけった。

ふと校庭を見下ろすと、見慣れた連中が歩いていた。

双子はスキップするように軽やかに動き回り、その後を大地が追いかけている。

三匹の小犬がじゃれ合っているみたいだ。


 ふと、キシャルが歩みを止め、何気に振り返り見上げた。

その瞬間、目が合ったと藤原は思い、心臓がドクンと疼いた。

しかしキシャルはそのまま前に向き直り、歩き出して校門から出て行った。


 藤原はその間、呼吸をするのも忘れていて息苦しくなり、慌ててひゅっと息を吸った。



 あれから五日が過ぎても、桜井からは何も言ってこない。

もし、せかされでもしたら、反発したかもしれない。 


 藤原は、正直に言うべきなのか悩んでいた。

桜井が指摘したように夢を見ているのだ。

前のように同じ夢ではなく、続きのある夢。

そう、たぶん杏仁とか言う奴の。


村人に袋叩きにされ、まだ息があるうちに沼に沈められた。

呼吸が出来ない苦しさが藤原を襲う。

呻いて目を覚ますと、寝汗をびっしょりかいていた。

そんな日々が続き、疲労が蓄積された朝を迎える。


「おはよう、藤原。あれえ、どうした? 顔色悪いぞ。風邪か?」

 教室に入るなり、宗方が声をかけてきた。


「いや、何でもないよ」

「……でもないぞ。おまえ、ゾンビみたいな顔色だ。どうした?」

 心配そうに気遣う宗方に、藤原は嘘がつけなかった。


「ここのところ、眠れないんだ。だから、寝不足だよ」

 弱々しく答える。

「おい、眠れない理由が、問題なんだろう。言えよ」


「悪夢を見るんだ」

「……桜井の言った通りだな。で、場所は分かったの?」

「そんなに簡単じゃないよ。他人事だと思って」


「俺には、なあんも分らないからな。どんな夢?」

「暴行されたあと沼に沈められて死ぬ夢。息苦しさで目が覚める」

「うわ、それは嫌だなぁ……。でもさ、沼がヒントじゃね?」

「ああ、そうかも」


「どんな沼?」

「分からない……。今晩、よく観察してみるよ」

「え! 何それ。また毎晩同じ夢を見るのか?」

「いや、同じではなく、前日の続きを見るんだよ」


「悪夢の続きを見るのか? とんでもないな……。明日にでも、その沼のことを桜井に伝えに行こう。どんな沼なのか、今晩はよく見とけよ」

 宗方は、あまりにも顔色が悪く、倒れそうな藤原を気の毒に思った。



 翌日の土曜日、桜井の家に藤原と宗方が訪れた。

キシャルは、レンゲとショウマを引き連れて、先に森林公園に出かけていた。


 居間にいた大地が陽気に二人を迎え、桜井は居間の隅で、調べものをしていた。


「いらっしゃい。宗方さん、昨日は電話をありがとうございます。あれから、この近辺の沼について調べました。中々それらしき沼が見当たらないのですが、綾乃さんに分かりそうな糸口をもらいました。綾乃さんというのは、時の番人で、まあ、僕の知り合いです」


 桜井が機嫌良く話すのは、目当ての物が見つかったからだろう。


「沼が見つからないのは、あの震災のせいです。村人がここを離れる原因になった土砂崩れは、田畑や水源だけではなく、沼も埋めてしまったようです。キシャルさんが、昔の記憶を頼りに、今探しに行っています」


 ふと藤原に目を留めると、体調が悪いことに気が付いた。


「藤原さんは、だいぶ体に影響が出ているようですが、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫。気にするな」

『早く問題を解決したいだけだよ』と内心穏やかではない。


「それで、昨晩の夢で何か気が付きました?」

「……うーん、妖精がいた。小さくて白い妖精が、ふわふわと地面近くで飛んでいるんだ」

 藤原自身が、腑に落ちないような顔をしている。


「小さくて白い妖精ですか。待ってください…………。ああ、これだ。レンゲショウマだ」

 パソコンをいじっていた桜井が、納得した表情をしている。

「灯台もと暗しだったな。レンゲとショウマが知っているはずだよ。じゃあ、僕らも探しに行きましょう」


 またあの森に入るのかと思うと、藤原は気が滅入るが、宗方は面白そうなことが起こりそうだとワクワクしている。


「大地、先に行って彼らに、僕らも行くことを伝えてくれる?」

「うん、いいよ」


 大地はソファーから立ち上がると、軽い足取りでさっさと玄関から出て行った。


 桜井を先頭に、三人が森林公園の奥深くに入ると大地が待っていて、キシャルたちがいるところまで案内した。


 そこで、レンゲとショウマは羽を広げて、気持ちよさそうにキシャルの周りを飛んでいる。

キシャルが藤原たちに気づくと、嬉しそうな顔をしたが、同時に彼が酷い顔色をしているのが分かると、申し訳なさそうにした。



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