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天鵞絨の吐息  作者: 空木白檀
第二章
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遠く地の果てに

 日曜になると、宗方と藤原が桜井の家を訪ねるようになった。

それを知ると、坂本と五十嵐も負けじと、何に負けるのか分からないが、来るのである。


 仕方なく桜井は、土曜日に皇としての仕事を終わらせる生活になった。

自分が放つオーロラの光を神来人に降りそそぐために、外出する日がたったの一日となったため、くそ忙しい。

しかし、ちゃんと済ませないと、綾乃が怖い。


 今日も早朝から四人が駅から一緒に、途中の商店街で弁当や飲料水を買ってやって来た。

まるで、これからピクニックにいくかのような騒がしさである。


「桜井、今日は天気が良い。これもって公園に行こうぜ」

 ほらっ、と重そうなビニール袋を持ち上げた。

それじゃあ、とレジャーシートを見つけ出して出発した。


 大地はすでに妖精たちに会いに出かけている。

彼は日頃の運動不足を妖精たちと遊ぶことで解消している。

「何だ、大地はいないのか。つまらないな」 

 何かと大地と絡みたがる宗方が、残念がる。


「今日は約束した通り、僕のユートピアを案内しますよ」

 森林公園の奥深く、人の来ないところまで来ると、力が使えるか確かめる。


「ここでいいかな」

 近くに妖精がいないことを確かめると、深呼吸して両手を大きく広げた。


 すると、辺りは天鵞絨色の空気で覆いつくされた。

次第に深い緑色が薄れて視界が戻ると、辺りは草原になっていた。

桜井が手を動かすと、草木が育ち、小川が流れ出す。


「ほら、綺麗な所でしょう。動物もいたほうが良いよね。何がいいかな? ウサギと小鹿、それにワラビーにしようか」


 両手で空気をすくって、ふっと吹いた。

そのとたん、わらわらと可愛らしい動物が現れて、各々好きな方向に散って行った。


「ああ、それに小鳥と蝶々は鉄板ネタだよね。そら」


 パチンと指を鳴らすと、小鳥と蝶々が湧いて出て、ゆったりと飛び去った。


 棒立ちになって眺めているみんなに「準備できたよ」と満足そうに微笑む。

「すげえな」

 宗方が感嘆して呟いた。


 小川の辺にレジャーシートを敷いて荷物を置くと、宗方と坂本は子犬のようにはしゃいで、草原に寝転び大の字になった。


「気持ちいー。桜井は毎日こんなところに来るのか? 羨ましいな」

「宗方さん、冗談でしょ。忙しくて殆ど来ることは出来ませんよ。それに一人より、みんなと来た方が数倍も楽しいです」

 桜井はニコニコしている。


 五十嵐が小川を見つめて、考え込んでいた。

「桜井君、あの妖精はどうしてるの? 女神像は見つかった?」


「いいや、女神像は見つからない。もしかしたら、この森にはないのかもしれない。でも、彼らは元気にしているよ。大地ととても仲良しになった」

 桜井は五十嵐を見つめて答えた。


「気になる?」

「ああ、もちろんだよ」

「うん。地の民は古来から、地母神を大地の母として信仰してきた歴史があるからね」

 藤原はちらっと桜井を見たが、無言のまま遠方を眺めている。


「僕はあれからずっと、モヤモヤしているよ。どうにかしてあげたいと切に思う」

 五十嵐が言うと、藤原が徐に振り向いた。


「地の民か……。確かに認めざるをえないな」

 両手を組んで足元を睨む。

「桜井君は女神像がどこにあるか分からないの?」

「はい、そうです」

 何を言い出すのか理解できない桜井は、じっと藤原を見つめる。


「私は分かるかもしれない」

 黒縁眼鏡の中の瞳が光った。

「え?」

 ここにいる三人が、目を皿にして藤原を見つめた。


「どういうことですか?」 

 と、桜井。

「夢を見るんだ。しかも毎晩、同じ夢だ」

 ほうっと、ため息をつく。


「ここにいた人たちは地母神を、豊穣をもたらす神として信仰していた。肥沃な土壌で穀物は豊かに実り、何の問題もなく過ごしていた。しかし震災に遭い状況は一変してしまう。畑は土砂で埋まり、何より水源が枯れてしまった。穀物をつくることが出来なくなった彼らは、水源を求めて移動したんだ。落ち着いたら女神像を運ぶつもりで、祠におさめて村をあとにした。長い旅だった。ようやく新天地にたどり着いたときには、村人は半分に減り、その後もつらい日々が続き、またこの場所に来る余裕などなかった。いつの間にか時が移り、時間だけが過ぎ去った。幻の女神像として新聞を賑わせた時、村人の子孫は言い伝えを思い出した。自分たちの信仰の証を未だに連れてきていないと。畏怖の念を抱いた村人は、密かにここに来て女神像を見つけ、大切に自分たちの村に運んだ……。だから、ここに像はない」


 にわかには信じがたい話だったけれど、桜井は事実だろうと確信した。


「その村はどこにあるかわかりますか?」

「ああ、ここからは遠い。遥か遠く北の果てだよ」

 思わぬ朗報に、桜井の胸は小躍りしている。


「ああ、素晴らしい。藤原さん、ありがとうございます。僕は来週、その村にキシャル様を祀ってあるか確かめに行きます」


 よほど嬉しいらしく、桜井は瞳をキラキラさせて、ソワソワと落ち着きを失くしていた。


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