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天鵞絨の吐息  作者: 空木白檀
第二章
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森の妖精

 森林公園で対決が出来ることに、宗方も大地も嬉々としている。

藤原は宗方に引きずられるようにしてやって来た。


 人が入って行かない奥にまで、桜井は足を延ばしてみんなを案内する。


 管理されている森林は、程よく木が間引きされていて、木漏れ日が丸く地面に映し出される。

おとぎの国のような道を歩いて、開けた場所に来ると、桜井が立ち止まった。


「昔、最初にここに入った森林フォレスターが、珍しい女神像を発見したそうです。しかし、次に訪れた時には見つからず、懸命に探しても発見されませんでした。そして今に至っています。幻の女神像として、当時は世間を賑わせていましたが、今では関心を寄せる者はいません。今日はそれを見つけるゲームです」


「はあ? 何処にあるかもわからない像を見つけるのか?」

 宗方は大地と対決できると思ってついてきたのに、違っていたので、がっかりして声を落とすが、かまわず桜井が続ける。


「そうです。ワクワクしませんか? 僕はもう何年も捜しているのに見つかりません。もし宗方さんが見つけたら、それは凄いことです。尊敬します。大地にも出来なかったことです」

 宗方をヨイショするのが上手いなと、宗方以外が思った。


「うん、そっか……。そっか、分かった。そのゲームをやろう」

 まんまとその気にさせる。


「二人組になりましょう。宗方さんと藤原さん。坂本君と五十嵐君。大地と僕でいいかな」

 特に不満も出ずそれに決まり、山歩きに行くように、のろのろと散らばった。


 二人きりになると、大地が呆れたように言う。

「この森には、よく来るけどさ。俺は像なんて捜したことないぜ」

「ははは。まあ、噓も方便って言うじゃないか」

 桜井は、愉快そうに顔をほころばせる。


「像があったのは確かなのか?」

「うん、たぶん地母神キシャルだと思う」

「地を司る女神?」

「そうだよ。もしかしたら北村の祖先が、信仰していたのかもしれない」

「へえー、見つかるかな?」

「大地、負けるかもよ。だから、頑張って見つけようよ」


 桜井は木漏れ日を、気持ちよさそうに体に浴びて伸びをした。



 二人の様子を、紫色の目が見つめている。

「来たよ」

 レンゲが言う。

「うん、来たね」

 ショウマが応じる。


 二人は双子のように似ていて、白い肌に白い髪、合わせ鏡で見ているように瓜二つの容姿をしている。ただ一つの違いは目の色だ。

レンゲは、赤みのある藤紫色をしていて、ショウマは淡い青味の紫色をしている。


「見つけてくれるかな?」

「うん、見つけてくれるだろ」

「じゃあ、地の民に会いに行こうよ」

「ああ、行こうか」

「ボクは、眼鏡の藤原が良い」とレンゲ。

「じゃあ、ボクは五十嵐」ショウマが言う。

 クスクス笑って、二人は駆け出した。



 長い枝を拾って、ブンブン振り回しながら坂本は呟いた。

「良い天気だなあ。静かでさ、聞こえるのは小鳥のさえずりだけ。ああ、何だか眠くなってきた」


「うん、コンビニ弁当でも買ってくればよかったかな。女神像を捜すって言ってもさ、漠然としているし。桜井君は、何を考えてるんだろう」


「宗方さんは今頃頑張って、見つけてるんじゃない」

「はは、だね。乗せるの上手いよね、藤原さんは面倒がってそうだけど……。痛!」


 五十嵐が笑いながら前方に顔を向けた時、目に痛みが生じた。

「どうした?」

「目にゴミが入った」


 立ち止まって、片目をパチパチしていたが、

「うん、取れたみたい」と言って、再び歩き出した。小鳥のさえずりを聞いていると、水の流れる音が微かに混じっている。


「近くに小川があるよ。行ってみようよ」

 坂本には水の流れる音は聞こえないので、『おまえ耳が良いな』と呟いて、五十嵐の後に付いて行った。


 五十嵐は、草木が生い茂っているにも関わらず、どんどん進む。

まるで、藪が五十嵐の通る道を開けてくれるように。

坂本が藪をかきわけるのに手こずっていると、次第に離されていく。


「おい! 待てよ!」

 呼び止めても、後ろを気にすることなく行ってしまう。


「ちょっと待て! 五十嵐! 待てったら!」

 坂本がいるのを忘れたみたいに、振り返ることなく姿を消した。


「何だよ、五十嵐のやつ、どうしたって言うんだ」

 藪に進む道を塞がれて、坂本は五十嵐を追うのを諦め、来た道を引き返した。


 五十嵐の様子に異変が生じたことに不安を抱いて、坂本は早足で桜井を見つけに戻った。

 彼らなら、叫べば気が付いてくれるだろうと、

「桜井! 大地! 大変だ! 来てくれ!」大声で叫ぶ。


「桜井~ 大地~」

 叫んでいるうちに、坂本は焦りだした。

辺りをキョロキョロ見回すと、まず大地が駆けてきて、その後に桜井が現れた。


「どうしたの?」

 坂本が慌てているのがわかり、大地が不思議そうな顔をする。


「五十嵐がどっか行った。声かけても無視して、あっという間に消えた」

「どこで?」

 深刻な事態になったのかもしれないと、桜井は直感した。


「小川の音がするから行こうと言うけど、俺には水の音は聞こえなかった。五十嵐はどんどん先に行くし、藪が邪魔して、俺は進めないし、とにかく変なんだ」


「姿を消したところまで連れて行って。大地は宗方さんと藤原さんを見つけて、最初の場所まで連れてきてくれる」

「うん、わかった」


 大地が捜しに行くと、一点を見つめて考え込んでいた桜井は、坂本の後を付いて行った。



 坂本と元の場所に戻ると、大地と宗方が待っていた。

「藤原さんは?」

「突然、いなくなった。先に戻ったと思ったけど、ここにはいないな。どこに行ったんだろう?」


「五十嵐君もいなくなったんです。いなくなる前に変わったことはなかった?」

 桜井が、坂本と宗方に訊ねた。


「変わったこと? うーん」

「どんな些細なことでも、なかった?」

「目にゴミが入って、痛がったことぐらいかな」

 宗方が言うと、坂本が驚いた。


「え! 五十嵐もそうだよ」

「それが、なんかあるわけ?」

 宗方が怪訝そうに言う。


「わからないけど……。それがきっかけかもしれない」

「桜井なら、地の民の気配を感じられるだろ?」

 坂本は、そうあって欲しいと願ったが、桜井は頭を振る。


「何かが邪魔をしている。二人のことが何も感じられない」

 桜井の瞳に不安な色が現れたのを、坂本は気づいた。


「僕の責任だ。二人に何かあったらどうしよう」

 桜井が珍しく動揺しだした。

皇の運命を受け入れてから、初めてのことだ。


「落ち着けよ。おまえが焦ったら駄目だろう。大地は? 大地も何も感じないのか?」

 桜井の肩を掴んで、大地に訊く。


「俺? ……。五十嵐の匂いも、藤原の匂いもしないな。それがおかしいと思う。だってそうだろう。たとえ事故って死んでも、匂いは消えないよ。それどころか、強くなるはずだ」


「嫌なこと言うなよ」

 坂本が眉をひそめると、大地が肩をすくめた。


「それだ。大地、お手柄だよ。きっと匂いのしない者の仕業だ。僕の力が効かないことと合わせて考えると……、地母神に仕える妖精の仕業だな。この地はキシャルが司っているんだよ。だから地の民を操れるんだ」


 桜井が安心したのが伝わって、坂本もほっとした。

宗方は気の毒なほど間の抜けた顔をしている。

たぶん、何も理解できていない。


「で、どうしたらいい? どうするの?」

 坂本が訊く。


「やはり、キシャルの像を捜さないと。彼らも捜しているのだと思う」

「そっか、じゃあ、早速探そう。五十嵐が小川って言っていたから、水があるところじゃないかな?」


「うん。きっとそうだ。水のある所ならば、大地が案内してくれる。離れないで一緒に行こう」

「任せとけ。俺は耳と鼻は良いんだ」


 得意そうに言って、満面の笑みで案内をしだした。



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