森の妖精
森林公園で対決が出来ることに、宗方も大地も嬉々としている。
藤原は宗方に引きずられるようにしてやって来た。
人が入って行かない奥にまで、桜井は足を延ばしてみんなを案内する。
管理されている森林は、程よく木が間引きされていて、木漏れ日が丸く地面に映し出される。
おとぎの国のような道を歩いて、開けた場所に来ると、桜井が立ち止まった。
「昔、最初にここに入った森林フォレスターが、珍しい女神像を発見したそうです。しかし、次に訪れた時には見つからず、懸命に探しても発見されませんでした。そして今に至っています。幻の女神像として、当時は世間を賑わせていましたが、今では関心を寄せる者はいません。今日はそれを見つけるゲームです」
「はあ? 何処にあるかもわからない像を見つけるのか?」
宗方は大地と対決できると思ってついてきたのに、違っていたので、がっかりして声を落とすが、かまわず桜井が続ける。
「そうです。ワクワクしませんか? 僕はもう何年も捜しているのに見つかりません。もし宗方さんが見つけたら、それは凄いことです。尊敬します。大地にも出来なかったことです」
宗方をヨイショするのが上手いなと、宗方以外が思った。
「うん、そっか……。そっか、分かった。そのゲームをやろう」
まんまとその気にさせる。
「二人組になりましょう。宗方さんと藤原さん。坂本君と五十嵐君。大地と僕でいいかな」
特に不満も出ずそれに決まり、山歩きに行くように、のろのろと散らばった。
二人きりになると、大地が呆れたように言う。
「この森には、よく来るけどさ。俺は像なんて捜したことないぜ」
「ははは。まあ、噓も方便って言うじゃないか」
桜井は、愉快そうに顔をほころばせる。
「像があったのは確かなのか?」
「うん、たぶん地母神キシャルだと思う」
「地を司る女神?」
「そうだよ。もしかしたら北村の祖先が、信仰していたのかもしれない」
「へえー、見つかるかな?」
「大地、負けるかもよ。だから、頑張って見つけようよ」
桜井は木漏れ日を、気持ちよさそうに体に浴びて伸びをした。
二人の様子を、紫色の目が見つめている。
「来たよ」
レンゲが言う。
「うん、来たね」
ショウマが応じる。
二人は双子のように似ていて、白い肌に白い髪、合わせ鏡で見ているように瓜二つの容姿をしている。ただ一つの違いは目の色だ。
レンゲは、赤みのある藤紫色をしていて、ショウマは淡い青味の紫色をしている。
「見つけてくれるかな?」
「うん、見つけてくれるだろ」
「じゃあ、地の民に会いに行こうよ」
「ああ、行こうか」
「ボクは、眼鏡の藤原が良い」とレンゲ。
「じゃあ、ボクは五十嵐」ショウマが言う。
クスクス笑って、二人は駆け出した。
長い枝を拾って、ブンブン振り回しながら坂本は呟いた。
「良い天気だなあ。静かでさ、聞こえるのは小鳥のさえずりだけ。ああ、何だか眠くなってきた」
「うん、コンビニ弁当でも買ってくればよかったかな。女神像を捜すって言ってもさ、漠然としているし。桜井君は、何を考えてるんだろう」
「宗方さんは今頃頑張って、見つけてるんじゃない」
「はは、だね。乗せるの上手いよね、藤原さんは面倒がってそうだけど……。痛!」
五十嵐が笑いながら前方に顔を向けた時、目に痛みが生じた。
「どうした?」
「目にゴミが入った」
立ち止まって、片目をパチパチしていたが、
「うん、取れたみたい」と言って、再び歩き出した。小鳥のさえずりを聞いていると、水の流れる音が微かに混じっている。
「近くに小川があるよ。行ってみようよ」
坂本には水の流れる音は聞こえないので、『おまえ耳が良いな』と呟いて、五十嵐の後に付いて行った。
五十嵐は、草木が生い茂っているにも関わらず、どんどん進む。
まるで、藪が五十嵐の通る道を開けてくれるように。
坂本が藪をかきわけるのに手こずっていると、次第に離されていく。
「おい! 待てよ!」
呼び止めても、後ろを気にすることなく行ってしまう。
「ちょっと待て! 五十嵐! 待てったら!」
坂本がいるのを忘れたみたいに、振り返ることなく姿を消した。
「何だよ、五十嵐のやつ、どうしたって言うんだ」
藪に進む道を塞がれて、坂本は五十嵐を追うのを諦め、来た道を引き返した。
五十嵐の様子に異変が生じたことに不安を抱いて、坂本は早足で桜井を見つけに戻った。
彼らなら、叫べば気が付いてくれるだろうと、
「桜井! 大地! 大変だ! 来てくれ!」大声で叫ぶ。
「桜井~ 大地~」
叫んでいるうちに、坂本は焦りだした。
辺りをキョロキョロ見回すと、まず大地が駆けてきて、その後に桜井が現れた。
「どうしたの?」
坂本が慌てているのがわかり、大地が不思議そうな顔をする。
「五十嵐がどっか行った。声かけても無視して、あっという間に消えた」
「どこで?」
深刻な事態になったのかもしれないと、桜井は直感した。
「小川の音がするから行こうと言うけど、俺には水の音は聞こえなかった。五十嵐はどんどん先に行くし、藪が邪魔して、俺は進めないし、とにかく変なんだ」
「姿を消したところまで連れて行って。大地は宗方さんと藤原さんを見つけて、最初の場所まで連れてきてくれる」
「うん、わかった」
大地が捜しに行くと、一点を見つめて考え込んでいた桜井は、坂本の後を付いて行った。
坂本と元の場所に戻ると、大地と宗方が待っていた。
「藤原さんは?」
「突然、いなくなった。先に戻ったと思ったけど、ここにはいないな。どこに行ったんだろう?」
「五十嵐君もいなくなったんです。いなくなる前に変わったことはなかった?」
桜井が、坂本と宗方に訊ねた。
「変わったこと? うーん」
「どんな些細なことでも、なかった?」
「目にゴミが入って、痛がったことぐらいかな」
宗方が言うと、坂本が驚いた。
「え! 五十嵐もそうだよ」
「それが、なんかあるわけ?」
宗方が怪訝そうに言う。
「わからないけど……。それがきっかけかもしれない」
「桜井なら、地の民の気配を感じられるだろ?」
坂本は、そうあって欲しいと願ったが、桜井は頭を振る。
「何かが邪魔をしている。二人のことが何も感じられない」
桜井の瞳に不安な色が現れたのを、坂本は気づいた。
「僕の責任だ。二人に何かあったらどうしよう」
桜井が珍しく動揺しだした。
皇の運命を受け入れてから、初めてのことだ。
「落ち着けよ。おまえが焦ったら駄目だろう。大地は? 大地も何も感じないのか?」
桜井の肩を掴んで、大地に訊く。
「俺? ……。五十嵐の匂いも、藤原の匂いもしないな。それがおかしいと思う。だってそうだろう。たとえ事故って死んでも、匂いは消えないよ。それどころか、強くなるはずだ」
「嫌なこと言うなよ」
坂本が眉をひそめると、大地が肩をすくめた。
「それだ。大地、お手柄だよ。きっと匂いのしない者の仕業だ。僕の力が効かないことと合わせて考えると……、地母神に仕える妖精の仕業だな。この地はキシャルが司っているんだよ。だから地の民を操れるんだ」
桜井が安心したのが伝わって、坂本もほっとした。
宗方は気の毒なほど間の抜けた顔をしている。
たぶん、何も理解できていない。
「で、どうしたらいい? どうするの?」
坂本が訊く。
「やはり、キシャルの像を捜さないと。彼らも捜しているのだと思う」
「そっか、じゃあ、早速探そう。五十嵐が小川って言っていたから、水があるところじゃないかな?」
「うん。きっとそうだ。水のある所ならば、大地が案内してくれる。離れないで一緒に行こう」
「任せとけ。俺は耳と鼻は良いんだ」
得意そうに言って、満面の笑みで案内をしだした。




