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天鵞絨の吐息  作者: 空木白檀
第二章
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生徒会訪問

 これで、不良との関りは少なくなるだろうと考えていた桜井だったが、その思惑は完全に裏切られ、今、目の前には宗方一家がいる。 

ここは一年の教室であるにも関わらず、だ。


 大地にほれ込んだ宗方が、次の番になって跡を継いでくれと、毎日のように口説きに来る。

石川も付いて来て、こちらは小池にまとわりつく。


小池が「頭突きをまた食らわすぞ」と脅しても何の効果もなく、小池は最近、イライラが募っている。

宗方一家が教室からいなくなると、小池が怒りを爆発させた。


「ちょっと! 桜井君! あいつら何とかしてよ!」

「ええ! 僕は関係ないよ」


「大地の問題は、あんたの問題でもあるでしょ!」

 頭に血が上っている小池は、男どもが震えあがるほどに、ピリピリと殺気が漂っていて恐ろしい。


「そんなこと言われても……」

 坂本はニヤニヤして、面白がっているから頼れない。

桜井は五十嵐に助けを求める瞳を向ける。


「藤原さんに相談してみたら?」

 五十嵐は辟易しながらも、提案する。


「それいいね。生徒会室に行けばいいかな? 二年の教室には行きたくないからね」

 早速、五十嵐と放課後に訊ねることにした。


 教室のある南棟から北棟に移動して、初めて生徒会室を尋ねる。


 壁際にはスチール製の引き違いガラス書庫が並んでいて、何十冊ものファイルと冊子が綺麗に配置されていた。

反対側の壁際にはソファーが置いてある。

中央には二人用のオフィス用机が向かい合わせに置いてあり、ちょうど藤原が手前の椅子に座っていた。

目が合うと、二人が訪ねてきたことに軽く驚いていた。


「忙しいですか?」

 桜井が、相談事があることを告げると、

「いや、大丈夫だよ。ここでいいかい?」

 と、ソファーに案内する。


「マラソン対決のこと聞いたよ。なかなか面白かったそうじゃないか」

 黒縁眼鏡の中の目を細くして微笑した。


「私も応援しに行けば良かったかな」

 桜井と五十嵐を二人掛けに座らせ、藤原は一人用に腰かけた。


「それで、相談って何?」

 またもや胸がざわざわしたのを感じて、眉をひそめた。


「宗方さんたちのことです。大地に番になれと、しつこく一年の教室に来るんですよ。しかも石川さんも連れてきて、彼は小池さんを構うんです。彼女は凄く怒っていて、僕にどうにかしろとすごい剣幕で怖いです」


 藤原がプッと吹いたので、

「え! そこ笑うとこですか?」

 と、軽く驚く。


「ああ、ごめんね。フフッ、と失礼。うん、分かった。宗方と石川によく言っておくよ……。でも、次の番の適任者が見つからなくて、宗方も頭を悩ませているんだよ。大地君のことを、とても気に入ったようだね。番になるのは駄目なの?」


「駄目です」

 桜井は即答した。

「そっか、残念だ」


「……。藤原さんは裏の番長ですね?」

 真っ直ぐ藤原を見ると、藤原は意地悪そうにニヤリとした。


「私に直接訊いたのは、きみが初めてだよ。物は言いようで、それで答えは印象が変わってしまう。……確かに、宗方たちと交友関係はあるよ。彼らの相談にも乗るし、それに、そんなに悪いやつではないから」

 藤原は、まじまじと桜井を見つめる。


 そんな藤原を、五十嵐は同情した。

桜井から目を離せない己に、とても戸惑っているはずだ。

桜井は、いつ藤原に話すつもりなのだろう。

それとも、黙っているつもりなのか。

五十嵐は小さくため息をついた。


「悪い人でないのは分かりますが……では、大地をあきらめるように言ってください」

 宜しくと、桜井は手を差し出して握手を求めた。


奇妙に感じながら、藤原は無意識にその手を握った。

その瞬間、胸のざわつきやモヤモヤの溜飲が下がった。


不思議そうに見つめる藤原に、

「藤原さん、顔色が悪かったですが、気分は直ったでしょうか?」

 ぼそっと呟いて、不敵な笑みを浮かべた。


「え? ああ……」

 酷く戸惑って、視線を泳がせる。


「桜井君、ちゃんと順序だてて話さないと分からないよ」

 五十嵐が助け舟をだすが、

「また、体調が悪くなったら、僕のところに来てください。力になれると思います」

 お構いなしに、藤原の理解を超えることを言って、生徒会室を出て行こうとする。


「お忙しいところありがとうございました。宜しくお願いします」

 桜井に辟易しながら、五十嵐が藤原に一礼して、生徒会室の扉を閉めた。


「ちょっと桜井君。藤原さんは自分が地の民だって知らないんでしょう? だったら、きちんと説明してあげないと理解できないよ」

 彼は今頃、チンプンカンプンなんだろうなあ、と思いながら桜井の隣に駆け寄った。


「いきなり僕から話しても、聞く耳持たないでしょ。今ので興味を引いたから、そのうち僕に会いに来ると思う。その時に詳しく話すよ」

「そっか。ちゃんと考えてるんだ」

「もちろんだよ」

 悪戯っぽくフフッと笑った顔が、以前のように子供らしかった。


「それよりも僕は、大地に困っているんだよ」

「どうして?」

「マラソン対決が楽しかったらしくて、またやりたいって駄々をこねてる」

「ええ! それはまずいよ。だって大地君の能力は明らかに異常だもの」

「うん、だよね」

 ふうとため息をつく。


「森林公園で走ってもらったら?」

「ははは、それは良い案だけど、一人じゃ可哀想だよ。五十嵐君、付き合ってくれる?」

「無理! 無理!」

 即答する。


「あ、良いこと思いついた。宗方さんに相手してもらったら? 負けて悔しがっていたから、いくらでも勝負してくれそうじゃない?」


「あー、そうだね。うん、番は諦めてもらって、その代わりに、森林公園で付き合ってもらおうか」

 桜井と五十嵐は、これは面白くなりそうだとワクワクしだした。


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