生徒会訪問
これで、不良との関りは少なくなるだろうと考えていた桜井だったが、その思惑は完全に裏切られ、今、目の前には宗方一家がいる。
ここは一年の教室であるにも関わらず、だ。
大地にほれ込んだ宗方が、次の番になって跡を継いでくれと、毎日のように口説きに来る。
石川も付いて来て、こちらは小池にまとわりつく。
小池が「頭突きをまた食らわすぞ」と脅しても何の効果もなく、小池は最近、イライラが募っている。
宗方一家が教室からいなくなると、小池が怒りを爆発させた。
「ちょっと! 桜井君! あいつら何とかしてよ!」
「ええ! 僕は関係ないよ」
「大地の問題は、あんたの問題でもあるでしょ!」
頭に血が上っている小池は、男どもが震えあがるほどに、ピリピリと殺気が漂っていて恐ろしい。
「そんなこと言われても……」
坂本はニヤニヤして、面白がっているから頼れない。
桜井は五十嵐に助けを求める瞳を向ける。
「藤原さんに相談してみたら?」
五十嵐は辟易しながらも、提案する。
「それいいね。生徒会室に行けばいいかな? 二年の教室には行きたくないからね」
早速、五十嵐と放課後に訊ねることにした。
教室のある南棟から北棟に移動して、初めて生徒会室を尋ねる。
壁際にはスチール製の引き違いガラス書庫が並んでいて、何十冊ものファイルと冊子が綺麗に配置されていた。
反対側の壁際にはソファーが置いてある。
中央には二人用のオフィス用机が向かい合わせに置いてあり、ちょうど藤原が手前の椅子に座っていた。
目が合うと、二人が訪ねてきたことに軽く驚いていた。
「忙しいですか?」
桜井が、相談事があることを告げると、
「いや、大丈夫だよ。ここでいいかい?」
と、ソファーに案内する。
「マラソン対決のこと聞いたよ。なかなか面白かったそうじゃないか」
黒縁眼鏡の中の目を細くして微笑した。
「私も応援しに行けば良かったかな」
桜井と五十嵐を二人掛けに座らせ、藤原は一人用に腰かけた。
「それで、相談って何?」
またもや胸がざわざわしたのを感じて、眉をひそめた。
「宗方さんたちのことです。大地に番になれと、しつこく一年の教室に来るんですよ。しかも石川さんも連れてきて、彼は小池さんを構うんです。彼女は凄く怒っていて、僕にどうにかしろとすごい剣幕で怖いです」
藤原がプッと吹いたので、
「え! そこ笑うとこですか?」
と、軽く驚く。
「ああ、ごめんね。フフッ、と失礼。うん、分かった。宗方と石川によく言っておくよ……。でも、次の番の適任者が見つからなくて、宗方も頭を悩ませているんだよ。大地君のことを、とても気に入ったようだね。番になるのは駄目なの?」
「駄目です」
桜井は即答した。
「そっか、残念だ」
「……。藤原さんは裏の番長ですね?」
真っ直ぐ藤原を見ると、藤原は意地悪そうにニヤリとした。
「私に直接訊いたのは、きみが初めてだよ。物は言いようで、それで答えは印象が変わってしまう。……確かに、宗方たちと交友関係はあるよ。彼らの相談にも乗るし、それに、そんなに悪いやつではないから」
藤原は、まじまじと桜井を見つめる。
そんな藤原を、五十嵐は同情した。
桜井から目を離せない己に、とても戸惑っているはずだ。
桜井は、いつ藤原に話すつもりなのだろう。
それとも、黙っているつもりなのか。
五十嵐は小さくため息をついた。
「悪い人でないのは分かりますが……では、大地をあきらめるように言ってください」
宜しくと、桜井は手を差し出して握手を求めた。
奇妙に感じながら、藤原は無意識にその手を握った。
その瞬間、胸のざわつきやモヤモヤの溜飲が下がった。
不思議そうに見つめる藤原に、
「藤原さん、顔色が悪かったですが、気分は直ったでしょうか?」
ぼそっと呟いて、不敵な笑みを浮かべた。
「え? ああ……」
酷く戸惑って、視線を泳がせる。
「桜井君、ちゃんと順序だてて話さないと分からないよ」
五十嵐が助け舟をだすが、
「また、体調が悪くなったら、僕のところに来てください。力になれると思います」
お構いなしに、藤原の理解を超えることを言って、生徒会室を出て行こうとする。
「お忙しいところありがとうございました。宜しくお願いします」
桜井に辟易しながら、五十嵐が藤原に一礼して、生徒会室の扉を閉めた。
「ちょっと桜井君。藤原さんは自分が地の民だって知らないんでしょう? だったら、きちんと説明してあげないと理解できないよ」
彼は今頃、チンプンカンプンなんだろうなあ、と思いながら桜井の隣に駆け寄った。
「いきなり僕から話しても、聞く耳持たないでしょ。今ので興味を引いたから、そのうち僕に会いに来ると思う。その時に詳しく話すよ」
「そっか。ちゃんと考えてるんだ」
「もちろんだよ」
悪戯っぽくフフッと笑った顔が、以前のように子供らしかった。
「それよりも僕は、大地に困っているんだよ」
「どうして?」
「マラソン対決が楽しかったらしくて、またやりたいって駄々をこねてる」
「ええ! それはまずいよ。だって大地君の能力は明らかに異常だもの」
「うん、だよね」
ふうとため息をつく。
「森林公園で走ってもらったら?」
「ははは、それは良い案だけど、一人じゃ可哀想だよ。五十嵐君、付き合ってくれる?」
「無理! 無理!」
即答する。
「あ、良いこと思いついた。宗方さんに相手してもらったら? 負けて悔しがっていたから、いくらでも勝負してくれそうじゃない?」
「あー、そうだね。うん、番は諦めてもらって、その代わりに、森林公園で付き合ってもらおうか」
桜井と五十嵐は、これは面白くなりそうだとワクワクしだした。




