キッチンにて
ダイチが加わり、キッチンで各々食べたいものをレンチンした。
最近は、冷凍食品も馬鹿にできないほど美味である。
それに、何故か欲しいと思う品物が、冷蔵庫にはそろっている。
『これこれが食べたい』と言い、冷蔵庫を開けると、それは鎮座しているのである。
「ドラえもんのポケットみたい」とみんなではしゃぐ。
「あのさ、桜井君はお腹が空かないのかな?」
五十嵐が桜井を気遣うが、
「二階には行くなって、釘を刺されたでしょう」
小池が食後のデザートに、アイスクリームを食べながら答える。
「何かさ、桜井君だけど、雰囲気が変わったと思わない?」
五十嵐はコーヒーゼリーの蓋を開け、クリームをかけてスプーンですくう。
「どういう風に?」
とダイチが、水を飲みながら興味を示した。
「えっとね。以前の彼は、もっと何というか、オドオドしていて控えめっていうのかな、前の彼なら二階に行くな、なんて言わないと思う」
デザートを食べ終えて、五十嵐は頬杖をついた。
「へー、そうなんだ。ふーん、でもね、意外と目覚めちゃったんじゃないかな」
ダイチは意味深に言う。
「何に?」
「さあ、何にだろ。僕はもう部屋に行って休むよ。お休み」
大あくびをして、大きな体を伸ばしてから綺麗な金目でみんなを見まわし、キッチンから出て行った。
「ダイチ君だけどさ。何で人でなく狼なの?」
坂本は、ビックリさせられたことに、まだ不満げに五十嵐を睨む。
「ごめんって、坂本。もう機嫌を直してくれよ」
五十嵐は両手を顔の前で合わせて謝った。
空腹が満たされて、小池もそろそろ部屋に引き上げようとキッチンのドアノブに手を置いたとき、背後で「うわあ!」という叫び声とガタンという物音を聞いた。
振り返ると、二人が床で絡まっている。
「何? どうしたの?」
「生首!」
「はあ?」
五十嵐が指差しているほうを呆れ気味に見ると、確かに人の頭が空中に浮かんでいた。
「織部様!」
小池が叫ぶと、それに気が付いて生首がニヤリとした。
「ああ、やっぱりここに、あっちゃんがいた」
織部は亀裂から、体の上半身、下半身と抜け出して、最後に左足を出し切った。
と、亀裂はバリバリと火花を散らせて、固く閉じた。
「うーん、やはり中には入れても、簡単に外には出してくれそうにないな」
腕を組みながら、たった今閉じた何もない空間を見つめた。
「織部様ったら! 心配したんですよ。どこにいたのですか?」
小池は自分の心配事などどこ吹く風と、意に介しない織部にふてくされた。
「え、心配したの? わたしはあっちゃんのこと心配しなかったよ。だって、あっちゃんはとても有能だもの」
にっこり微笑むと、小池は単純だけど満足してしまう。
「ちょっと、綾乃ねえさん。酷いですよ。心臓が止まるかと思った」
坂本は、再び腰を抜かしそうになった自分に対して頭に来ていた。
「あら、驚かせてしまった? それは悪かったわ。それよりも、またみんなと一緒になれてよかった」
三人を眺めてから、何かに集中するように静かに目を閉じた。
閉じたまま「桜井君は?」と尋ね、小池が答える。
「先に部屋に戻り、休んでいます」
それからダイチと言う名の、皇の力を受けとる器がいることも話した。
「見た目は大型の狼だけど、人の言葉を話すから驚かないように」
坂本が五十嵐をちらと見て、眉を上げて言うと、五十嵐が軽くため息をつき『もう、坂本をからかうのは二度と止めよう』と心に誓った。




