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天鵞絨の吐息  作者: 空木白檀
第一章
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みんなで過ごすこのひと時

「今日は色々あって疲れたでしょ。もう、休もうか。部屋は十分あるから、どこでも好きに使って。トイレとシャワーも完備してあるから寛げるよ。ああ、キッチンはそこだから、お腹が空いている人は勝手にどうぞ」


 指差して場所を教えるが、

「わたしは織部様を捜してくる」

 と小池が外に出ようと背を向けた。

桜井がやれやれといった表情で声をかける。


「やめたら、きっと見つからないよ」

「なぜ?」

 不機嫌そうに振り返る。


「綾乃さんとじゃ力の差がありすぎる。きみはここから出られないだろ? 迷子になるのがおちだよ」

 言われて、当たっているだけにむすっとした。


「それと、二階には行かないように。一階は好きに使っていいからね。僕も少し疲れたから先に休むよ」

 桜井は、ひとり二階に上がっていった。



 残された三人は暫し無言で見つめ合っていたが、小池が口火を切った。

「とにかくキッチンに行って、何か食べましょう。喉が渇いたわ」


「そうだね。ダイチさんも呼んだ方が良くない?」

 五十嵐が、ここにダイチがいないことに気づいた。

「え? 誰?」

 坂本が訊ねると、五十嵐が何を思ったかニンマリした。


「ここで知り合った人がいるんだよ。たぶん外で待っていると思う。来いよ、坂本。紹介する」

 坂本の手を掴んで玄関に連れて行く。そんな五十嵐を見て、小池が苦笑する。


 外に出ると、一斉にひまわりが注目した。坂本はビックリ仰天して、

「何だ、この花は! 気持ち悪い~」と叫んだ。


「だよね。少し動いても後を追うよ。だから誰かが隠れていても、すぐに分かるのさ。ほら、そこに誰かいるのを教えてくれる。ダイチさんでしょ? 中に入りませんか?」


 ひまわりが集中して同じ所を向いている場所に、五十嵐が声をかけると背の高いひまわりが、ゆらゆらと揺れて狼が顔を覗かせた。


 ひまわり畑から現れたのが思いもしない狼だったので、坂本が我が目を疑いながら叫んだ。

「馬鹿! 五十嵐! 狼だぞ! 戻ってこい」

 言うなり、狼に背を向けている五十嵐めがけて飛び出していき、彼の服を掴んで自分の後ろに追いやった。


「家のなかに逃げろ! 小池、早く行け!」

 バランスを崩して転びそうになった五十嵐を、血相を変えて支えて連れて行こうとする。


 後ろで狼の唸り声がしたと思ったら、ジャンプして二人の目の前に現れた。

坂本はなすすべもなく立ちすくんだままだ。


 グルルルルと唸りながら、フンフンと鼻を鳴らし坂本の匂いを嗅ぐ。

坂本は目を瞑ったまま腰が砕けて、ズルズルとその場にへたり込んだ。


「僕のことは健人に聞かなかったのかい? あいつ結構悪いやつだな」

 ダイチはベロリと坂本の顔を舐めてから、面白そうに言った。


「ななな、何だあ? 喋った? うそ!」

 坂本は舐められた箇所を手で抑えながら、気持ち悪そうにその手を見つめた。


「そんな気持ち悪がらなくても良いじゃないか。傷つくなあ。僕はダイチ。きみは?」

「…………」

「きみの名は? ほら教えて」

「ああ……、坂本駿」

 呆然自失のまま答え、それからハッとして隣でニヤニヤしている五十嵐に気づいた。


「お、おまえ知ってたな! コノヤロー」 

 坂本は五十嵐の胸ぐらを掴んで拳骨でグイグイと顎に押し付けた。


「痛いよ坂本。ごめん」

 ハハハと笑いながら、

「驚いたろう? ダイチさんは桜井君の力の受け皿みたいなものだよ」


 それでも、一人腰を抜かすほど驚かされて、坂本はすこぶる機嫌が悪くなった。

小池は呆れたように二人のやり取りを眺めている。


「さあ、悪ふざけはやめて中に入りましょう」

 すこし二人の関係が羨ましくもあった。


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