みんなで過ごすこのひと時
「今日は色々あって疲れたでしょ。もう、休もうか。部屋は十分あるから、どこでも好きに使って。トイレとシャワーも完備してあるから寛げるよ。ああ、キッチンはそこだから、お腹が空いている人は勝手にどうぞ」
指差して場所を教えるが、
「わたしは織部様を捜してくる」
と小池が外に出ようと背を向けた。
桜井がやれやれといった表情で声をかける。
「やめたら、きっと見つからないよ」
「なぜ?」
不機嫌そうに振り返る。
「綾乃さんとじゃ力の差がありすぎる。きみはここから出られないだろ? 迷子になるのがおちだよ」
言われて、当たっているだけにむすっとした。
「それと、二階には行かないように。一階は好きに使っていいからね。僕も少し疲れたから先に休むよ」
桜井は、ひとり二階に上がっていった。
残された三人は暫し無言で見つめ合っていたが、小池が口火を切った。
「とにかくキッチンに行って、何か食べましょう。喉が渇いたわ」
「そうだね。ダイチさんも呼んだ方が良くない?」
五十嵐が、ここにダイチがいないことに気づいた。
「え? 誰?」
坂本が訊ねると、五十嵐が何を思ったかニンマリした。
「ここで知り合った人がいるんだよ。たぶん外で待っていると思う。来いよ、坂本。紹介する」
坂本の手を掴んで玄関に連れて行く。そんな五十嵐を見て、小池が苦笑する。
外に出ると、一斉にひまわりが注目した。坂本はビックリ仰天して、
「何だ、この花は! 気持ち悪い~」と叫んだ。
「だよね。少し動いても後を追うよ。だから誰かが隠れていても、すぐに分かるのさ。ほら、そこに誰かいるのを教えてくれる。ダイチさんでしょ? 中に入りませんか?」
ひまわりが集中して同じ所を向いている場所に、五十嵐が声をかけると背の高いひまわりが、ゆらゆらと揺れて狼が顔を覗かせた。
ひまわり畑から現れたのが思いもしない狼だったので、坂本が我が目を疑いながら叫んだ。
「馬鹿! 五十嵐! 狼だぞ! 戻ってこい」
言うなり、狼に背を向けている五十嵐めがけて飛び出していき、彼の服を掴んで自分の後ろに追いやった。
「家のなかに逃げろ! 小池、早く行け!」
バランスを崩して転びそうになった五十嵐を、血相を変えて支えて連れて行こうとする。
後ろで狼の唸り声がしたと思ったら、ジャンプして二人の目の前に現れた。
坂本はなすすべもなく立ちすくんだままだ。
グルルルルと唸りながら、フンフンと鼻を鳴らし坂本の匂いを嗅ぐ。
坂本は目を瞑ったまま腰が砕けて、ズルズルとその場にへたり込んだ。
「僕のことは健人に聞かなかったのかい? あいつ結構悪いやつだな」
ダイチはベロリと坂本の顔を舐めてから、面白そうに言った。
「ななな、何だあ? 喋った? うそ!」
坂本は舐められた箇所を手で抑えながら、気持ち悪そうにその手を見つめた。
「そんな気持ち悪がらなくても良いじゃないか。傷つくなあ。僕はダイチ。きみは?」
「…………」
「きみの名は? ほら教えて」
「ああ……、坂本駿」
呆然自失のまま答え、それからハッとして隣でニヤニヤしている五十嵐に気づいた。
「お、おまえ知ってたな! コノヤロー」
坂本は五十嵐の胸ぐらを掴んで拳骨でグイグイと顎に押し付けた。
「痛いよ坂本。ごめん」
ハハハと笑いながら、
「驚いたろう? ダイチさんは桜井君の力の受け皿みたいなものだよ」
それでも、一人腰を抜かすほど驚かされて、坂本はすこぶる機嫌が悪くなった。
小池は呆れたように二人のやり取りを眺めている。
「さあ、悪ふざけはやめて中に入りましょう」
すこし二人の関係が羨ましくもあった。




