再会
再び悠然と歩き出したダイチの後を五十嵐が後に続き、のろのろと小池がその後を追う。
五十嵐が後ろを振り返り、小池の隣についた。
「大丈夫? からかわれたんだよ。本気じゃない」
「わかっているわよ!」
己の不甲斐なさにイライラしながら小池が答える。
泣きべそをかきながらも、舐められた頬をゴシゴシとこする。
しかし、中々腹の虫がおさまらない。
「今日のことは絶対に忘れない。許さない。アノヤロウ!」
いつも元気でクラスの中心的存在の小池が、ダイチを震えるほど怖がり興奮気味に彼を罵る様子に、呆気にとられる五十嵐だった。
男勝りが息をひそめ、泣きべそをかいた彼女を、恥ずかしそうに頬を染める彼女を、守ってあげたいと思った。
そんな小池に付き添う様に暫く歩いていると、小池が額に手を当ててブツブツ呟きだした。聞き耳を立てると、思わず口がほころびそうになる。
「アイツは犬じゃない。ただの器。アイツは狼じゃない。ただの器。ああ! 頭にくる。わたしとしたことが、悔しい……。ちょっと! 五十嵐君、何を面白がってるの!」
五十嵐の興味が自分に向いているのに気が付いて、慌てて姿勢を正す。
「小さいころのトラウマがでたけれど、もう平気だから」
咳払いを一つしてすまし顔になり、いつもの小池に戻った。
「うん、よかった。それにしても、どうしたら桜井君に会えると思う?」
ダイチが言う様に、確かに遠くに見える家との距離が縮まらない。
「彼は私たちがこの世界に来ているのは感じているはず」
小池が先に歩くダイチを思案気に眺めながら、片眉を上げた。
「ちょっと! 待ちなさいよ! 無闇に動いても無駄でしょ。馬鹿なの?」
先程とは打って変わって、ふふんとダイチに命令口調で言う。
ダイチは特に気を悪くするでもなく、立ち止まり二人を穏やかに見つめた。
「お嬢さんは何か考えがあるのかな?」
からかうように軽口をたたいた。小池はムッとしながらも、
「この世界は桜井君の想うまま。だったら、彼から会いに来させるしかない」
ニヤリとダイチを見据えて、五十嵐に向かって言う。
「五十嵐君! きみが彼を説得するしかない!」
桜井に対して自分は何が出来るのか、ここ最近は地の民としての閃きもなく鬱々としていた五十嵐は、小池とダイチの視線を浴びて躊躇する。
「え? どうやって?」
「あのね、ここは彼の世界なの。だから、ここでの出来事はすべてお見通しなはず。きみが望めば、心から桜井君に訴えれば、それは彼に届くはずなの」
小池は、いつものクールビューティーに戻って五十嵐に告げる。
「わ、わかった。やってみるよ」
五十嵐は目を瞑り、心に念じる。
『桜井君、桜井君。僕の声が聞こえる? 僕はここにいるよ、きみに会いに来たよ。でも、きみの所まで行けないんだよ。だから、きみが会いに来てよ。それに坂本も一緒に会いに来たよ。今は逸れちゃってここにはいないけど』
目を開けて、
「桜井君! 会いに来てよ! きみに会いたいよ!」
五十嵐が叫ぶと、薄紫色の空に変化が現れた。
空がうねうねと動き出すと紫の濃淡の中に天鵞絨色が加わり、それはドレープ状に揺らめいている。
この世の物とも思えない美しさに圧倒されながら、三人が上空を見つめていると微かに大地が震えた。
ハッとして視線を移すと、すぐ目の前にあの家が移動していた。
五十嵐が「桜井君!」と叫びながら家に向かって駆け出すと、その後をダイチと小池が追いかけた。
「ほら、わたしの言った通りでしょう」
小池が得意げにダイチに言うと、
「そうだね。よかったよ」
ダイチが余裕を持ってにこやかに答えると、何故かそれがまた小池の癇に障るのである。
玄関の前にたたずんだ五十嵐が興奮気味にドアを叩くと、中で動く気配がした。ドアが開くのをドキドキしながら待っていると、懐かしい桜井の姿が現れた。




