表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天鵞絨の吐息  作者: 空木白檀
第一章
18/93

特別な絆

「本当に、何も感じないんだ。桜井君が何処にいるかなんて、僕には分からない」

 五十嵐が気落ちして、悲しそうに言う。


「……大丈夫。それはきみのせいじゃない。北村が後ろで色々と操っているせいで、桜井君が全てにおいて拒否しているせいだよ。まったく面倒なやつが力を得てしまったものだ」


「おい! そもそも、その北村ってなんだよ。佐野ってやつも、いけ好かないやつだけど、あいつらは桜井をどうするつもりなんだ!」

 坂本が、憤懣やるかたない目つきで小池に迫る。


「北村は弱った人間の思考に入り込み、その人間を操ることが出来るんだ。精神科の医師として、それは物凄く有意義に働くけれど、悪用するととんでもないことになる。……何であの一族は、同じ過ちを犯すのかなあ」

 小池は坂本に気圧されて、躊躇しながら空を見つめて呟く。


「織部って何者なんだよ!」

 坂本の立て続けの質問に、辟易しながら小池が答える。


「織部様は時の番人で、皇を守る者。皇の側には必ず織部様がいる。皇が織部様失くして力を使えば、時空の歪に囚われ、永遠に過去の中を彷徨うことになる」


「じゃあ、どこにいるんだよ! その織部って人は!」

 坂本がイライラしながら訊くと、小池がフッと笑った。


「織部様は、きみたちに会ったと言っていたけれど、気が付かなかった? ああ、またあの姿だったのかな」 


「え! 僕たちは会ったことあるの?」

 ここでやっと五十嵐に精気が戻る。


「うん、そうだよ。綾部様! いるのでしょう? いい加減に出てきてくださいな!」

 小池が辺りを見渡し、声を張り上げ右手を左右に振った。


 すると、その部分の空気が震えて空間が歪みだした。

 歪んだ空間がぱっくり割れると、そこから中年の女性が現れた。


「あ、あなたは子犬を連れていた人ですよね」

 五十嵐が驚いて目を丸くし、坂本は

「まったくあんたたちは何なんだよ」と不機嫌になった。


「ああ嫌だ。またその姿なのですか? わたしはその姿は好かないと言っているでしょう!」

 忌々しそうに小池も文句を言い、

「早く本来のご自分の姿に戻ってください」と、そっぽを向いてしまった。


「あっちゃん、そんなに怒らないで。わたしはこの姿を気に入っているのよ。だって、中年のおばさんの姿だと、大概はみんな気を許すから好都合なのよね」

 ふふっと笑い、目を閉じて深い呼吸をする。


 吐く息とともに、キラキラ光る空気が織部の体に纏わりだして、完全に覆いつくすと若い女性に変わった。神話に出てくる女神さまのような高貴な存在感だ。


「きみたちのことは、あっちゃんから色々聞いているわ。桜井君は今とても心が弱っていて、自分を見失い彷徨っている状態よ。どうか力になってあげて」

 彼女の声は、ビロードのように心を柔らかく撫でる。


「でも、何処にいるか分からないんです。どこを探せばいいのか……分からない」

 五十嵐の声は、最後は消え入るほど小さくなった。


「感じられない? 少しも?」

「はい……」

 織部が眉をひそめたのを確認すると、五十嵐は己の非力を呪った。


「五十嵐君、あなたは桜井君にとって特別な存在なの。二人には固い絆が出来ているわ。わたしが誘導してあげるから大丈夫、また感じることが出来る」

 優しい顔で五十嵐を見つめ、

「さあ、行きましょうか」と坂本に声をかける。


「どこに?」

「桜井君が隠れているところに決まっているでしょう」


 織部は先ほど小池がしたように、右手を優雅に左右に振った。

 すると大きく空気は震え、稲妻のような裂け目が生じた。その裂け目に両手を入れ力を込めて開くと、漆黒の闇が現れた。


「わたしの後について来て。離れないでね。もし迷子になったら責任取れないわよ」

 織部はそう言うと闇の中に消え、

「さあ行って。わたしは最後に行くから」


 小池が裂け目に手を添えて闇に入るように促した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ