行方を消した桜井
病院前が始発のバス停留所で、見舞い客らしい中年女性二名が、今しがた面会を終えた病人の話を夢中でしていた。
彼女らは発車時刻になるまで待機しているバスに乗り込むと、前の方の座席に着いて再び話し込む。
桜井たち三人は、一番後ろの座席に座った。
車内は空いていて、他には発車時刻ぎりぎりに乗り込んできた男女二人だけだ。
窓際に座った桜井が、物憂げに車窓を眺めながら重い口を開いた。
「今日はありがとう。お陰であの家から出られた。もうエドガー先生のところにいても意味ないから、家に戻るよ」
「エドガー先生も青木先生も、とても心配していたよ。彼らが下手に動くと大事になるらしいから、僕らが来たんだ……。やっぱりパーティーに行くの?」
五十嵐があれこれ心配そうに悩みながら訊く。
「うん、しばらく母に会ってないから心配なんだ」
「あいつら、やることが汚いよな。あの夜、公園にいたのはあいつらだろう?」
坂本は憤懣を感じないではいられなかった。
「たぶんね……。だけど、頼れる人がいないときに助けてくれたのは院長だった。院長がいなかったら僕たち親子はどうなっていたかわからない」
バスがヒマワリ畑に近づいたのを認めると、桜井は前方を見つめたまま、
「ヒマワリの花は太陽に向くって言うけどさ、実際は茎の成長に偏りが生じるからなんだよ。だから茎の成長が止まって花が咲くころには固定しちゃうんだ。知ってた?」ぼそっと言い、
「エドガー先生は信用できない。彼らのような天上人のことを何も教えてくれなかった」
唇をキュッと噛みしめ、暗い眼差しを二人に向けた。
「追放された天上人って何だよ」
坂本が戸惑いながら訊くと、
「うん、先生は僕たちに隠し事をしている。だから信用できないんだよ! 彼ら一族は、五世紀前に神来人から追放されたと佐野先生は言っていた。先生はそれを隠していたんだ。母が追放された天上人ならば、僕は……、僕は到底、神来人の皇にはなれない」
桜井はそう言うと黙り込んで、何やら考え込んでしまった。
坂本と五十嵐は、この手に負えない状況をどうしようかと考えあぐねている。
「僕らもパーティーに参加する」
取り敢えず五十嵐が言うと、
「いや、僕一人で行く。色々心配かけてごめん。でも大丈夫。ありがとう」
「……、何か不安だなぁ。明日桜井の家に行くから、取り敢えず一緒に行こう」
坂本が五十嵐と視線を交わしながら言うと、桜井は弱々しくうなずいた。
しかし桜井は二人を待つことなく、その後ぷつりと姿を消した。
二人が訪ねたときには、桜井の家は静まりかえっていて物音ひとつしなかった。
夏休みの間に何回か桜井の家と院長宅に足を運んだが、五十嵐はどちらからも桜井の気配を感じ取ることが出来なかった。
エドガーと青木先生は何やら忙しく動き回っていて、あまり連絡も取れずに夏休みが終わろうとしていた。
そんなわけで五十嵐と坂本は、モヤモヤした気持ちのまま二学期を迎えることとなった。




