〜人魚姫との出会い〜
とある国の王子が旅をしていた。
王子は旅の途中、船に乗っていた。
航海中に天候が荒れ、船が大きく揺れ、
王子は海に投げ出された。
荒れ狂う海に落ちた王子は、泳ぐ事が出来ず、海の中に沈んでいった。
深い海の底に沈む中、幻を見た。
それは、上半身が人間で下半身が魚の形をしていた。
薄れゆく意識の中、王子は思った。
『ああ、これが人魚という生き物か』
…………王子は意識を取り戻した。
が、そこはまだ海の中だった。
ぼんやりした視界に映るのは、
色とりどりの魚達。
そして、人魚。
「夢?」
王子は思わず呟いていた。
「夢ではないですよ」
目の前の人魚が答えた。
王子は驚いて
「海の中のように見えるが、ここは天国?」
人魚は、一瞬キョトンとした後、くすっと笑った。
「海の中です。天国ではないですよ」
「貴方は生きていますから」
人魚の表情の可愛らしさに気をとられながら、
王子は人魚に聞いた。
「でも……海の中なのに僕は息をして、こうして君と話もできている。それは、なぜ?」
人魚は王子から目を逸らし、少し俯きながら、
小さな声で答えた。
「……それは、私が貴方にキスをしたから」
「君が僕にキスを?」
「貴方が船から落ちるのを見かけて。あのまま放っておいたら死んでしまうから。人魚にキスをされた人間は、海の中で息をしたり話をする事ができるの。だから……」
王子の問いに人魚は俯いたまま、そう答えた。
「それでは、君は僕の命の恩人だね」
「ありがとう」
優しく微笑む王子に、人魚は嬉しくなった。
「船でどこに向かっていたのですか?」
今度は人魚が王子に聞いた。
王子はどこに向かっているかや旅の目的、自分が何者であるかを人魚に話した。
すると、船で行くはずだった所まで案内する、と言ってくれた。
そして、人魚も自分の事を話してくれた。
人魚は『人魚の国の末姫』だった。
人魚の世界にも王がいて、自分はその王の娘で、上には6人の姉がおり自分が一番下の妹であること。
父親である、人魚の王は人間と結婚をしたので、自分は人魚と人間のハーフであること。
その為、海の中では下半身が魚だが、陸に上がると人間と同じ足になること。
話を聞きながら、人魚の声の美しさに王子は聞き惚れた。
そして、姿も美しかった。
髪は金にも銀にも見える輝きを放ち、
瞳は海のように青にも緑にも見えるマリンブルー。
真珠のような白い肌。
唇は珊瑚のように鮮やかな赤色をしていた。
人魚の話を聞き終わる頃には、
王子は、人魚の末姫の美しさに心を奪われていた。
人魚の末姫は、王子に一目惚れをしていた。
船上にいる王子の姿を見た時、すでに恋に落ちていた。
王子の端正な顔立や立居振る舞いの美しさに目が離せなくなり、無意識に船を追いかけていた。
そして、海が荒れ王子が船から落ち海に沈むのを見て、急いで助けたのだ。
近くで見る王子は、より美しかった。
王子は姫に求婚した。
人魚の末姫は、頬をピンクに染め頷いた。
王子を見た人魚の王は、末姫が陸に上がる事を懸念して初め結婚を反対した。
しかし、人間である妃が王に嫁ぎ、海で生活する事に不安があったが王の愛があり、そして今は娘達にも恵まれ、とても幸せである事を話し、王を説得してくれた。
こうして、王子は人魚の両親である王様と妃に許しを得て、末姫と婚約した。
「一度、国に帰り、自分の父である国王にも許しを得て改めて末姫を迎えに来る」
と約束をして、王子は自国への帰路についた。
人魚の末姫は王子が迎えに来ることを心待ちにした。