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【書籍化】100年後に転生した私、前世の従騎士に求婚されました~陛下は私が元・王女だとお気づきでないようです~(WEB版)  作者: 一分咲
後日譚

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6話・紅茶の秘密

 その数日後。


 シェイラの部屋にサラがやってきた。彼女が手にしているのは、この前分析のために渡した紅茶の葉である。


「こんにちは、シェイラ様。さっそくお預かりした紅茶の葉を調べさせたのですが……少し困った結果になりましたわ」


「困った結果、でしょうか……」


「はい。私としては面白いことになりそうで楽しいところなのですが……とにかく、こちらをご覧くださいませ」


 ニコニコと黒い微笑みを浮かべながらサラが手渡してくれた紙を見る。そこには、予想通りの事実が書かれていた。


「……これ。姉の婚約者が関わるフォックス商会を経由して仕入れた紅茶の葉には、やはり体調に異常をきたすような仕掛けがされていたということでしょうか」


「はい。ある特定の成分だけが多量に含まれているようで。もともと、紅茶に含まれている成分なので急激に倒れたり死に至るようなことはあり得ません。しかしこの紅茶を飲んだことで体調を崩した、と明確に認識はできるかと」


「大事には至らず、私が主催のお茶会で皆が体調を崩した、という噂を流すにはぴったりですわね」


「さらに面白いのはここからなのですわ。似た成分のものがないか父が経営する商会を通じて調べさせましたの。フォックス商会とうちはライバル関係にありますから、どうしても引きずり下ろしたくて。すると、最近、この紅茶に近い成分の飲み物が法律で販売を禁止されていたことがわかりましたの」


 サラからの補足に、シェイラは口元を引き締めた。


「その飲み物を販売していたのは?」


「当然、豪商・フォックス商会ですわ」


(つまり、ローラお姉様とサイモン様はあらかじめわかったうえで、私に違法な薬物に近い成分の紅茶を持たせたということ)


 自分から罠に引っかかりに行ったのだから、予想した範囲のことである。けれど、二人は長兄ルークを家から遠ざけ、シェイラには薬物紅茶を持たせ、キャンベル伯爵家の評判を貶めようとしている。


(サイモン様は魔法陣の事業だけでなくキャンベル伯爵家も狙っている。この状態でローラお姉様と結婚したら、うちに入り込んでくるのは明白だもの。ルークお兄様への扱いを踏まえても、辻褄が合う)


「サラ様。フィン陛下にはタイミングをみてご相談します。このことは内密にしていただけないでしょうか」


「もちろんですわ。……秘密を守る代わりといっては人聞きが悪いですが、このカタログを受け取っていただけますか」


「? はい……」


 シェイラは安堵しつつ、サラが差し出した分厚いカタログをぱらぱらとめくってみる。最初の方のページこそ夜会向けの華やかなドレスがのっていたものの、後ろの方に向かうにつれて生地薄めのナイトドレスや不思議なお茶が増えていく。


「! こ、これは」


「私お気に入りのカタログです。殿方の心を惹きつけるアイテムがたくさん載っていますわ」


 サラには、フィンをシェイラの私室で朝まで眠らせたという『前科』がある。父親の伝手で取り寄せていると聞いていたが、一体どこで存在を知ったのか謎だった。


 けれどその答えはたった今判明した。こういうカタログで見つけているのだろう。


 決していかがわしいものではないけれど、一応後宮で暮らしているとはいえシェイラが持つにはレベルが高すぎる。シェイラの頭の中には『どうしよう』しかない。


「ええと……一応、お預かりしておきます……?」


「もし欲しいものがあれば、いつでもお取り寄せできますわ」


「は、はい」


 カタログをがっしりと押し付けられてしまったシェイラは目を瞬かせた。


(と、とりあえず、どこかに隠しておこう……フィンに見つかったら、こんなものどこで手に入れたんだってまた叱られてしまうわ)




 辞退しても辞退しても、サラはおすすめの商品を紹介しようと食い下がってきた。


 それをなんとか宥めて自室へ帰すことに成功し、クローゼットの中のバスケットにカタログを隠し終えたところで、扉が叩かれた。


 顔を出したのは困惑した様子の侍女のアビーである。


「あの。王宮の正面に、シェイラ様宛てのお客様のようなのですが。今日はどなたともお約束をなさっていませんよね?」


「……落胆しませんので、お客様の名前を教えて」


「……キャンベル伯爵家からローラ様が」


「ありがとう。こちらまで通してもらえるかしら?」


(やっぱり来ちゃったのね)


 答えながら、シェイラはため息をついたのだった。



 後宮のシェイラの部屋にやってきたローラは、きょろきょろと周囲を見回して数秒間固まったのち、悲鳴を上げた。


「なにここ! 後宮ってもっとごちゃごちゃしたところにキレイな人がたくさんいるんだと思ったわ! 一人に一つ離宮が与えられているって……どういうことなの⁉」


「国王陛下がこちらにいらっしゃることはめったにありませんわ。そして、名ばかりの寵姫が4人。ローラお姉様はもう少し国のことをお勉強なさった方がよろしいみたいですわね」


「シェイラ、あなた魔法陣を描くのが得意で国王陛下にも見初められたからって、ちょっといい気になりすぎよ! お母様が仰っていたわ。魔力なしのシェイラとなら、私は入れ替われるって」


「……」


(何か変だわ。お母様はともかく、ローラお姉様はここまで浅慮ではなかった気がするのだけれど)


 キャンベル伯爵家で出会ってから14年間、女子らしい面倒さを披露してくれた義姉・ローラ。彼女がシェイラの婚約を聞いて後宮を偵察しに来ることは予想通りだった。


 けれど、ローラがサイモンのことを本気で慕っているのは誰の目にも明らかで。冗談でも『シェイラと入れ替われる』などと口にすることはありえないことに思える。


 しかし、続く言葉にシェイラは息を呑んだ。


「私、サイモン様に婚約破棄を言い渡されたの。一体どういうことなのよ!」


お読みいただきありがとうございます!

次回の更新は8/30の20時を予定しています。

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