茂み
気が付くと男は暗い田舎道を歩いていた。時刻は真夜中くらいだろうか。足元を照らす光は夜空の星くらいしかなく、男は大小様々な石に足を取られつつ、歩いた。道の周りには男の背丈くらいの茂みが生い茂り、その奥には黒い森が広がっていた。
はて...。なぜ、こんな所を俺は歩いているのだろう。
俺は見覚えのない道を歩きながら考える。正直、前へ進めばいいのか、後ろに進めばいいのかわからなかった。ひとまず、遠くに淡い光が見える方に進んだ。
暫く歩くと、外灯が立っているのが見えた。
灯りを見るのはずいぶんと久しぶりだったので、男は少し足を早めた。
その時である。ゴウゴウと大地を揺るがすような風が吹き荒れた。
ほら、あなたの犬がもう少しで戻ってきますよ。
唐突に右側の茂みの中から、男とも女ともわからない声がした。
あぁ、そうだ。俺は犬を連れていたんだ...。
男は唐突にそのことを思いだし、周りを見渡したが、犬の姿はなかった。すると、左側の茂みから黒い人の形をした闇が近づいて来た。
右側でまた声がした。
それについて行きなさい。
右側の声が黒い闇を指差した気がした。
これにですか?ついて行って大丈夫でしょうか?
男は恐る恐る右側の声に話しかける。
男のすぐ左側に黒い闇が立っている。
右側の声が答える間もなく、黒い闇は大きくなり、男ではなく男の右側にいた何かを掴み、夜空を登った。
●●●。あなたはもう気が付いているんだろね。
黒い闇が夜空に登る時、声が聞こえた。
男は一瞬何を言っているのかわからなかったが、黒い人の形をした闇が着物を着た女性だったのではないかと思った。
夜空には大小様々な美しい星たちが輝き、人の形をした闇は夜空に溶けていった。
それ以後、右側の声も聞こえなくなり、男は1人暗い田舎道に残された。