裏切りの森
薄暗いこの森は、動植物から嫌われていた。
いくら季節が過ぎようとも、樹木は葉を色付かせることもなく、悲しげに枝を静々と揺らしている。
鮮やかな紫のロベリアの花がポツポツと咲き、より一層この森の雰囲気を悪化させていた。
活気のある動物といえば野蛮なコウモリや意地汚いネズミばかりで、愛らしいリスや野ウサギなどの類は一切見かけない。
ただ不思議と、生きた心地のする森ではあった。
木は枯れ、動物たちは悪意に満ちて、日々を生き残るために他を蹴落とし合っているのにも関わらず。
「……」
彼はこの森の王であった。
物憂げな森を、彼は好んでいる。
誰一人としてこの森には近づこうとしない。
興味本位で肝を試しにやってくる輩もいるが、そういった者たちには木々を揺らし、コウモリたちを嗾けてやれば脱兎の如く逃げて行くのだ。
彼はこの森の王である。
ただ一人の王である。
木々もコウモリもネズミもロベリアも、すべて彼の意思のままに生きている。
彼が去ねと命じれば、おそらくこの森から命あるものはすべて消え去るのだろう。
それでも良いと、彼は思っていた。
ただそうしないのは、彼は待っているからだった。
必ず戻ると誓った、あの人を。
たとえ幾百年の時が、彼の記憶を過ぎようとも。
この暗鬱とした、生気あふれる森を好きだと言ったあの人を、ずっと待ち続けている。
たとえ幾百年の時が、あの人の命を奪おうとも。
「早く戻れ。そうすれば、お前の好む精彩な森に戻してやろう。」
光の差し込まぬ、古木の玉座にて彼は静かに笑うのだ。
色の無い森の中、鮮紫の散らばる絨毯で、黒が舞い、薄灰色が駆け巡る。
彼が泣き止まぬよう、この森は永遠と彼の脳裏に絢爛な面影を残し続けている。
ロード・オブ・ザ・リングとホビットの冒険に触発されて、また小説を書き始めました。これはリハビリ。
あの世界観、たまらんですね。あんな風に想像力豊かになりたいもんです。
ちなみに、このお話の「森の王様」のモデルは「闇の森の王 スランドゥイル」です。あの人、はちゃめちゃにかっこいいですよね…。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました!