怒り
そこまで聞いて、ファウはふつふつと怒りが湧いた。レンに対してだ。
――キョウの髪を奪い、魂を奪い、その肉体も借りた?
図々しいなんてレベルじゃない。盗人猛々しいとはこのことだ。
ファウは起き上がった。
「ちょっと、あいつら、ぶち殺してくる!」
「ファウ!」
キョウは慌てて止める。
ベッドから起き上がろうとしてる女を抱きしめる姿勢になる。冷静な状況なら赤面ものだろう。
「ファウ、落ち着いて」
そういうキョウも結構慌てていた。
* * *
「泣いてるレンは最高位というより、世話の焼ける子どもみたいだった」
と、キョウはコップの水を一気に飲み干す。落ち着くためだ。
ファウも水を飲んだ。
二人はテーブルに向かい合って座っていた。
「あの場所、覚えてない?」
と、キョウ。
「子どもの頃、ちょっとだけだったけど一緒に遊んだよね」
「覚えてる」
と、ファウ。
あの場所かどうかはあやふやだったが、子どもの頃、キョウが『水たまりができたー!』なんてはしゃぎだしたことがあった。
ファウはよくわからないながら、一緒に楽しく遊んだ記憶がある。
水たまりは日に日に大きくなっていった。そこで毎日遊ぶのが面白かった。
それが、ある日突然、遊べなくなってしまった。
いつしか誰もその話題も出さなくなり、すっかり忘れていた。
リゾに誘拐された時も『かつて、キョウが水脈を開いた地』というのがなんのことかわからなかった。
今回の事件があって、思い出せた。
「いつか、またあの泉に遊びに行こう」
なんの屈託のない表情で言うから、ファウは戸惑ってしまう。
「あの場所には、リゾが住んでるでしょ」
「きっとリゾなら受け入れてくれるよ。今はレンが亡くなったばかりだし、見えない場所にあるみたいだけど、いつか行こうよ」
ファウは頷こうとしたが、自分の中で消化できていないことがある。
「あなたは髪も魂も奪われて許せるの?」
キョウは頷く。