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アグ
* * *
「傘を一本もらおうかな?」
と、パースの店に来たのは一人の老人。
「あ! アグ爺さん!?」
パースは驚きを隠せない。
「昨日、井戸のそばに行ってみたんだ。そしたらいなくて爺さん、また遊牧に行っちまったのかと思った」
アグは聞いているのかいないのか、傘を選んでる。
「爺さんの頼みなら、お代はいらないよ」
アグと呼ばれた老人はほくほく顔になった。
「爺さん、どうせなら、ルウの地に住めばいいのに」
その方がパースとしてはありがたいのだ。
「また、修理頼みたいからさ」
それにアグはにこやかに微笑むだけ。
「この竹細工の傘にしようかの」
いわゆる和傘だった。
アグは傘を手にすると、満足そうに人込みの中に溶け込むように立ち去った。
「待って。爺さん」
パースには、アグが煙のように消えたしまったかに見えた。
そこにシヴァが来た。
「今、爺さんを見なかったか?」
「爺さん? 見なかったよ」」
パースの言葉に、シヴァはきょとん顔だ。
「そうか」
パースは落胆する。
アグはいなくなってしまったのか――そんな危惧をしていた。




