夏の誘惑
僕は、ハッと気づいた。
時計を見るとまだ午前5時。カーテンの向こうは薄明るく、鳥のさえずりがやけに、
かん高く聞こえる。
悪い違和感を残しつつ、眠りから覚めたのだ。
何の悪夢だったかは覚えていないが、熱帯夜で寝苦しかったせいかな。
忘れてしまった方がいいな。
季節は真夏。毎日28℃以上の猛暑がこれでもかというほど続く。
朝7時学校へ、悪い後味を残しながらも、登校しようと玄関先までたどり着く。
ドアを開けると物語は一変する。”先”の夢をかき消してくれるような眩しい光。
太陽の光ががサンサンと僕の体をほぼ浄化してくれる。少しの疑問を残して。
真っ青な空にモクモク入道雲。何気ない光景、何気ない日常。
けれど、今日はちょっと違う。まだ根に持つのはおかしいかなと思いつつ、学校へ着く。
学校にて。僕は平凡な成績で、特に目立ったこともなく、周囲から仲間はずれにされているというわけでもない。学校が求める凡ような生徒だ。1コマ1コマ着実にこなす。
昼休み、僕は屋上で母が作ったお弁当をとり、仲間と昼食をとる。
真南からサンサンと太陽は降り注ぐ。そんな中、僕は気持ちを抑えきれずに今朝のことを仲間3人に聞いてみる事にした。
ある人は「気にしない方がいいよ」、ある人は「うんうん、自分もそんな事あるから心配いらないよ」、ある人は「それは”真夏の誘惑”のせいだよ。真夏って何か”じぶん”のおおもとを引き出し、全てをさらけ出す。うまく言えないけれども、深層心理っていうか。。。」
話題は次々に移った。仲間に話せてよかった。少しスッキリした。みんなもそんな体験をしていると聞いて。でも、自分の中ではまだモヤモヤ感がある。あの衝撃はどう解決していこうか?
昼休み後の1コマは現代文の時間。いつものようにそつなく黙々と授業を受けていた時、
不意に声が聞こえたような気がした。
「俺は僕の一部。しがらみを解きたいなら、放課後、空を見上げてごらんなさい。解決のヒントがあるかもしれませんよ」
耳を疑ったが、
何となく解決しなければと思い、放課後になるのが待ち遠しかった
放課後、あの声の通り屋上へ。昼休みとは違い、ひとけもなく、寂しくなる。
夕暮れのオレンジの真南に大きな入道雲。
入道雲が自分の心の中から語りかけてくる。
「俺は、どうしても君のことが心配になりました。だから、悪夢を見せて”今”が幸せなんだとわかって欲しかったのです。今充実していますか?輝かしい未来を今でつぶさないでください。」
そういって、入道雲は流れていった。
真夏の誘惑、それは未来へいざなう、奇跡の鍵かもしれない。