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ホワイトボックス  作者: 藤子
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松本

 一緒にお風呂に入ると言う彼女の言う事だけは聞くわけにはいかない。

 いっそ役得だろうか?とも考えたが出来ない。

 誤魔化しが効かない場所だから出来ない。


 陽ちゃんは納得がいかないと云わんばかりだが、引き換えに今日は一緒に眠ることになってしまった。

 勘弁して欲しい。俺だって本当は男なのだから。

 好きな娘の前で平静を装う事だって忍耐が擦りきれそうだ。

 それなのに、ああ、それなのにこの娘と来たら、もしも性別を伝えられる日が来たら覚えてろよ?何て馬鹿げたあり得ない明日を夢見てしまう自分に嫌になる。


 そんな事を考えながら、お風呂から出てきた彼女の髪の水滴をタオルで丁寧に拭き取る。

 俺の好きな長い髪が痛むのは許せない。

 でも見た目と裏腹に彼女は自分の容姿に無頓着だった。

 可愛いのに、中身はどちらかと言うと男っぽいのも彼女の魅力。

 だから何時も俺が手入れをすることになってしまう。今だってドライヤーを丁寧に掛けているのだから、俺の彼女に触れていたいという想い自体が、擦りきれてしまうほど重症だった。


 気付いて欲しい。

 気付かないで欲しい。


 俺は……………。

 父さん、母さん、俺は生きているだけで幸せ何だ。

 それは本当だけど……でも最近欲張ってしまいそうになる。

 だから……見守って欲しい。生きていく代わりに心を殺せるように……。



 ◇◇◇


 ベットに入り嬉しそうに横になりながら足をバタつかせている陽ちゃんを俺は形ばかりに叱るんだ。


「陽ちゃん、ベットで遊ぶならもう一緒に寝ないよ?」


「!!…もうしないから許して?」


 上目使いに見ないで欲しい。


「今回だけだからね?」


 等と言いつつ、彼女のお願いを断れた試しがない。

 でも何時だって陽ちゃんは無理なことは言わない。俺のために我儘を言ってくれている節もある。

 今回見たいに一緒に寝たいと言った事が幼いときには多かった。それは決まって俺が家族を思って心で泣いている時だった様に思う。

 まあ、気のせいかも知れないけど。

 俺がベットに入ると先にベットに入っていた彼女が抱きついてくる。


「どうしたの?…」


 なるべく平静を装って俺は楊ちゃんに訪ねた。

 俺は理性を試されているのだろうか?

 誰に?…神様に?…それとも、亡くなった両親に………。


「どうもしないよ?…ただ、葉ちゃんにくっついていたいだけ………ダメ?」


 俺のペタンコな胸に顔を埋めながらそんな事を言う彼女。

(一応、胸が有るように見せる下着は着用しているが、小振りのAカップ設定だから、思ったよりキツくない。)


「甘えん坊さんは変わらないね……」


 今度は布団の中から、顔を少しだけ上げて上目使いに俺を見詰めてくる。


「葉ちゃんにだけだから良いの!」


 そんな可愛い事を言わないで、切なくなる。

 でも………。


「他の人にはやっちゃダメだよ?…」


 何て、言葉が口から出てしまう。


「うん………だから葉ちゃんはずっと私と一緒にいてね」


 何を思って彼女はそんな事を言ったのだろうか?

 親友として?もしくは、姉妹として?…でも俺には聞ける筈もなかった。


 眠れないよ…………陽ちゃん。


 規則正しい寝息が腕の中から聞こえてくるが、その睡魔は俺を襲ってはくれなかった。



 ◇◇◇


 翌朝、案の定彼女より早く起きた俺(と言うか、なかなか眠れなかったと言うか…)は、朝御飯を作るべくキッチンに向かった。

 すると何時帰ってきたのだろうか、義母がキッチンで水を飲んでいた。


「お帰りなさい、今帰りですか?」


 廊下からキッチンに入りながら俺は義母に声をかけた。


「ただいま。…さっき帰ったとこ。…陽は大丈夫だった?…」


 やはり母親だ。

 何時もならこんな時間には帰らない。きっと出来うる限り急いで帰ってきたのだろう。


「何時もより甘えん坊になっていましたが、元気に夜ご飯も食べました」


 ほっとした様な顔を見せる。

 この人が陽のそして、俺の母親で良かった。


「なら良かった。…有り難うね、甘えちゃってごめんね……。葉ちゃんがいてくれるとお母さん安心だわ」


 俺の母親でもいてくれる。

 亡くなった親友の為に、曰く付きの子供を引き取って育ててくれた。愛情をくれた。愛しかたを教えてくれた人。

 この人を悲しませたくない、無いから、俺の私でいなければならない。

 そう………心に再度鎖を掛けた。


「母さん、何か食べる?…」


 エプロンに手を伸ばして後ろでリボン結びにしながら俺は聞いた。


「もう寝るわ………本当なら私が作って送り出さなければいけないのに、葉ちゃんに任せきりで……」


 申し訳無さそうにする母さん。

 違う、俺がやりたくてやってるんだ。


「何言ってるの?家族でしょう!…お母さんこそ無理して倒れたりしないでね?…私、家の事なら何だってするんだから」


「有り難う。…ああ、そうだ。葉ちゃん、バイトしたいって言ってたよね?」


「うん………言ってたけど…」


 前に陽の側に女としているのが辛すぎて離れたくて言ったことだった。

 それに、何れここを出るときの軍資金にしたくて。

 でも今は代わりに父さんに頼んでFXをやっている。

 まあ、そんなに怪しまれない程度にしかやってないが、バイトよりは利回りがいい。だから、バイトして外に出る必要もないわけだが。

 仕事が忙しい両親だ。俺まで家を開けたのでは陽ちゃんが1人になってしまうから。


 

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