僕と私の日常
「この国は、戦争を永久に放棄したのだ」
小学生の頃、何度も読んだ歴史の教科書で日ノ本が戦争をしないと放棄したことを知った。
だが、僕は知っている。
戦争終結時、国は戦争を放棄すると言っていたけれど、一部の民間企業は来るべく次の諸外国の驚異から国を守るため、密かに兵器を開発していたのだ。
勿論、核なん作らない。
それは、総てを焼き付くす悪魔の道具だから。
でも、威力は核兵器に勝るとも劣らないものだった。
そして僕の祖先は皆総じて科学者だった。
勿論僕の父も科学者だ。
僕たちの一族が開発を任されていた兵器の名前は、通称「ホワイトボックス」。
それはどのような物かと言うと、狙った獲物だけを土に返す兵器だ。
そう、人間やその他の動植物が自然に帰るように、狙った獲物だけを土に帰すウイルス兵器。
大きく言えば、白人なら白人総てを、国限定でその遺伝子をウイルスに教え込み風邪の様に体に入り込ませ、遺伝子を破壊していく。……勿論、特効薬何てものは端から創っていない。
自然は壊さない。ターゲットに入力した人種だけを忠実に狙っていく。……防ぎ様はない。だって空気を吸わずに居られる動物はいないのだから。
だから開けてはいけないパンドラの箱。
狙った種族だけを根絶やしにする禁断のボックス。
それだけに、政府はその存在を認めていない。
いや、認める訳には行かないのだろう。認めてしまっては、その影響力は核兵器の比ではない。
確実に、国一つを国民が気付かないうちに破壊する。
だから、僕たちは消された。
だから、僕の家族は僕だけを逃がした。
ホワイトボックスを僕に預けて、両親、祖父母、親類皆、政府により消されたのだ。
まだ幼かった僕だけを父と母は命だけで守ってくれた。
小さい男の子の遺体を一つ用意して。
それから僕は、名前と性別を変えて別人として生活している。
神谷葉として、女の子として父と母の友人に養父母に育てられた。
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「葉ちゃん、学校に行こう!」
元気のよい挨拶と共に、養父母の一人娘である、神谷陽は部屋に突撃してくる。
「陽ちゃんおはよう、あらリボン曲がっているわよ?」
そう言って僕は彼女のセーラー服の胸元のリボンを直した。
その時、少しだけ胸に触ってしまったけれど、同様何て見せる訳には行かなかった。
だって今の僕は女の子。
同年代の女の子同士だ。
彼女は僕が男である事を知らない。
勿論、養父母は知った上で、書類も学校も手を回して手配してくれた。
僕に新たな家族を与えてくれた優しい人達。
僕はあの時死んだことになっているのだ。バレる訳には行かない。その時はもう一度消されてしまうから。
「有り難う!!…葉ちゃん大好き」
無邪気に抱き付いてくる。
本当、やめて欲しい。……僕だってお年頃なのだ。意思とは裏腹に下半身は反応してしまう。
同年代の同級生より(勿論女の子としてだ)少しだけ高めの身長と、平たい胸(これも当然だ。……だって僕は男の子)でも、自分でいうのも何だが、綺麗な顔で、モテた。
そう、男の子に良くモテた。……そして女の嫉妬の恐ろしさを身をもって体感したのだった。
そう言った意味では、幼馴染の神谷陽は裏表の無い心根の優しい娘だった。そこはあの優しい両親に似たのだろう。僕は神様と遺伝子に感謝した。
あの醜い嫉妬には、意地悪には耐えられない。
彼女がそうでなくて良かった。まあ最もそんな人間だけではないのだけれど、一部が全部に見えてくるから不思議だ。
僕が少しだけトリップしているのを彼女はまだ眠いからと勝手に解釈して、(葉ちゃん可愛い、寝惚けてる!)等と言ってくる。
ホントズレてるよね。