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後編

***


(バステア……聞こえる?)


神殿に用意された居室の寝台の上で、私は、かつての相棒に呼び掛けました。


私がこちらの世界に居られて、問題なく活動出来ているということは、『彼女』もまた存在しているのは分かりきっているんだけど。



程無くして、相手からの返答がありました。


“ 久しいな、オコノギヒメカよ ”


こちらの……私にとっての異世界が、危機に瀕した時、世界を救うためにその姿を現す紀元の獣。

現代日本を生きる私から見れば、操縦席のあるどう見てもロボット的な何かな物の魂。


本人(?)に言わせれば、その機体を端末にして意思を伝えている女神であるらしい存在。バステアその人(?)です。


機体である方のバステアが動くためには彼女の存在が必要であり、彼女が人間の世界で活動するためには、程好い人間の依り代が必要である。

私が彼女の声を聴く事が出来るのは、彼女の入れ物として機体のバステアの魂となっているからでもあります。


“ よもや貴様と、再び相まみえる事になろうとは思わなんだ ”


(私も思わなかったよ)


意識だけで会話しているこれを、『相まみえる』と表現していい状態かは甚だ疑問だけれど。


この世界を離れる日。私は、最後だと覚悟をしていました。

こうして、バステアと話す事も。

みんなと過ごす事も。

イグニスの側に居続ける事も……。


二度とこの地を踏む事はないと……そう決意を固めて、実際そうした筈なのに。よもや再びそこに訪れる事になるとは……。


(今回の……やっぱり、相手はトゥルクの生き残りなの?)


彼等(トゥルク)とは古くよりの因縁が在った故、多少、知っておる事もあったが、我の知る彼等(あれら)が既に消滅しておるのは貴様も知っているだろう ”


(……そう……だよね)


確かに、私が自らバステアを駆り、相手側の最後の一体と戦いました。

……いや。


“ そういえば、()()残っておったな ”


(私も、今、同じ事思い出した)


“ あれを厳密に奴等の仲間とするか疑問ではあるが ”


(というか、そもそも、あの()は、また、世界に攻撃を仕掛けるなんてことしないと思う)


思い浮かべたトゥルクの()には、恐らく、もう、こちら側を攻撃する理由はない筈です。

というより、攻撃出来る環境には無い筈だと思います。


“ だがまぁ、此度の攻撃が外から行われていると言うならば、内に居た我より外に居た()れの方が解る事もあろうよ ”


(うん。じゃあ、明日、話せないか掛け合ってみる)


何はともあれ情報を仕入れるのは大事でしょう。


相手が今回の件に心当たりがあれば儲け者。

そうじゃなくても、ちょっとした、お知恵の拝借は出来るかもしれません。

あの人が、少なくとも私よりもこういう事を得意としているのは、対峙した私が身をもって知っていますので。


“ それはそれとして、なぁ、オコノギヒメカ ”


(なに?)


“ 貴様、『例の事』に、決心はついたのか? ”


「ゲホッ!グホッゴホッッ!!」


突然放り込まれたバステアの爆弾発言に、私は思わず噎せ返りました。


バス……バステア……今、今このタイミングで、それ、言う!?


“ 今のうちにさっさと済ませて仕舞えばよかろうに。再会の喜びで盛り上がっている今なら『しちゅえーしょん』とやらもよいであろう ”


(いつの間にそんな俗的な言い回しを……じゃなくて、今はそういう事考えてる事態じゃないと思う)


“ まだ、さして切羽詰まっておらぬではないか。それに、一つ問題を片付けてしまってから、心置き無くもう一つに取り組むのも手だと思うがな……第一、ぐずぐずしておったら前回の二の舞ぞ?小童(こわっぱ)の方の問題も片付いておるのだから、そう悩むことも有るまいに ”


バステアの言う事も解らなくはありません。

実は、こちらの世界での活動期限……その事について、私には、イグニスに黙っていた秘密がります。


“ 貴様の世界と此方の時間軸の違いは、前回の行き来と今回の帰還で理解出来ているのではないか。これを逃せば次こそは真に永遠の別れとなるやも知れんぞ ”


せっかくまた会えたのに、それは嫌だ、という思いはある。いや……でも……ねぇ……。

これは、私だけで、どうこう出来るものでもありません。


(これに関しては、やっぱり、もう少し考える時間が欲しいかな……)


“ そうか。まあ、貴様の好きな様にするがよい ”


依り代が健やかな方が我としても気分が良いからな……と言い置いて、バステアは私との思考のリンクを切りました。


残された私はといえば、何とも言えない気持ちを抱えたまま、コロコロと寝台の上を転がるしか出来ません。


「期限……かぁ……」


その事をどうイグニスに切り出すか。

私の二度目の異世界滞在の課題は、確実に増えたのでした。

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