色々あってそうなった3
ぷいっとそっぽを向いて不貞腐れる瑠雨を蒼はチラリと見た。瑠雨のこういう所が中々面白くて──癖になる。
「…………幽霊って食べられるの?」
蒼の疑問に白樹は暫し考える。ちらりと縮こまっている幽霊を見、率直な感想、意見を述べる。
「──ゼラチン質みたいな感じでローカロリー……なんじゃないかしら? クラゲみたいな」
蒼の冗談めかした疑問に真面目に返答するくらいには、白樹は疲れていた。「クラゲ食べた事無いですね」、と瑠雨。「クラゲ私は苦手だな。見てる方が楽しい」、と蒼。蒼はともかく瑠雨も頭がおつかれの様子だ。
幽霊は──怯えて震えている。そりゃそうだろう。なぜか捕まえられた挙句、食べられるかどうかという話を目の前でされているのだから。たまったもんじゃない。白樹は醤油を掛けて食べたら美味しそうね、と言う視線で幽霊を見る。震える幽霊、やんちゃな目をした白樹。何をどうとは言わないが、立場が逆ではないだろうか?
「あの──」
幽霊は勇気を出して声をかけた。ん? と言う疑問符を浮かべながら反応した三人……+1。+1?
「あれれ? 別個体だ」
何かふわふわと浮かびながらやって来た。そのまま白夜にすーっと近寄ると「あれ? 寝てるし。寝不足だったのかなー? 悪いことしたかも」となぜか謝る。
そして別個体と呼んだ幽霊に近寄るとつんつんつつき始めた。
「わー幽霊初めて見た! 本物? 君なんだかクラゲっぽいねー! 食べた事ないけどふわふわ漂ってて綺麗なんだよねあれ。一度水族館で見た事あるけど見蕩れちゃったよ。──んん? 何で紐でぐるぐる巻にされてるの? そういうプレイ? 引くわー。それともペット? あ、だいたい意味おなじか。で、おねーさん達誰? あ、銀髪の人は知ってるよ。兎さんと一緒に前地下牢に来てたよね。そう言えば最近赤髪の子来ないねぇ。生きてる?」
──変なお化けに絡まれたわね。
白樹は腰からそっと特性のナイフを抜き取り、手に隠し持った。お喋りお化けは楽しそうに一人会話をしている。──一人で会話とは何だろうとか考えては行けない。考えたら負けなやつ。白樹の手元に、蒼は気がついていない。
ナイフ。普通07機関等で配布されるナイフは黒いものだが、白樹のは紺色にとっぷりと塗られている。好み、と言うよりも質の問題で白樹のこれは丈夫さが取り柄ではない。このナイフは特別性なだけあって、
「えいっ」
清々しいまでに躊躇わず、白樹はそれをふわふわ浮いていたお化けに投げた。直ぐに「うぎゃっ!」と言う悲鳴が上がる。お化けに突き刺さったのだ。いったい何をしたらそうなる。
「捕獲」
「待って待って待って白樹」
「あら? 白夜起きたの? おはよう」
「寝てないし!」
意外と早く目覚めた白夜は寝てはいない。少しの間夢現の世界に引っ張られていただけだ。そう、決して寝てはいない。増してや気絶なんて。
「醤油で食べようか」
きらりとした目で蒼が言う。「どちらかと言うとポン酢だと思うよ」、と白夜はしっかり突っ込んだ後、この数分間の現状を把握しようとする。
──増えてる……?
把握しようにも非現実的過ぎて脳みそが追いつかなかった。
◆■◆
「かき氷 ところてん 冷やし中華」「焼きそば お好み焼き カレー」
「わあお……見事に二人で分かれたわね」
時雨は、呆れ半分関心半分で火花をパチパチ散らしあっている双子を見た。庭で水遊びしているのだ。シャワーが描く虹は綺麗に弧を描いている。時折飛んでくる虫──綺麗な緑色に輝く玉虫を素手で捕まえては眺めるのもまた一興。
血を目当てに寄ってくる蚊を容赦なく殺しながら、時雨は雪斗の名前を呼ぶ。
「んん……? 返事がない?」
「雪斗兄様、ついに熱中症になったのかしら」「仕方ないよね。部屋にこもってずっと本読んでるんだもの」
「辛辣……」
容赦ないその言葉に時雨は唸った。その言葉にくすくすと双子は笑う。別に双子が雪斗を嫌っている訳では無い。からかっているだけなのだ。双子が食べたいご飯をメモしたあと、時雨はソファで死んでいる雪斗に声をかける。寝ているのか、死んでいるのか。
薄い胸板が微かに上下しているのを見て、思わず舌打ちをする。
「息してるし」
「そりゃあな、息してなかったら死んでるだろ。でもちょっと訳わかんないメールが来てキャパオーバーにはなってる」
「双子が熱中症で死んでるんじゃないかって期待……げっほごっほ心配してたわよ。──訳わかんないメール? どこから?」
「知り合いから。多分槻がいる組織だと思う」
「組織にお化けが増えたって」




