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誰が為の黄昏  作者: あめ
【閑話】 夏休み
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あれをこうしてそうなった2

 ──白樹プライベートルーム。


 白夜は他の(一部の)〈蝶〉達に頭がおかしいと言われていた。


「暑さで白夜も脳みそ遂に逝きましたか」

「兄様それはさすがに言い過ぎよ。──まぁ、お兄様も遂に頭おかしくなったのかとは思ったけど」


 同時に溜息を吐き、一呼吸置いて、


「お化けなんて居るはずないでしょう」「居るはずないわよ」


 ()()同時に言う。からりと愉快な音を立てて鉱物の欠片が山を下った。その音すら白夜の発した"お化け"を否定した様に思える。皮肉だ。頬を引き()らせながら白夜は言葉を引きずり出した。


「それ、すごく特大ブーメランなのに二人とも気づいて?」


 特に翡翠がそれを言うの? と白夜は視線を送る。──逸らされた。自覚はしているらしい。


「……お兄様? 糖分取った方がいいわよ。脳への栄養は大事よ〜。ほら瑠璃色のやつ一粒上げるわ」

「そうですね、白夜。翡翠色のこれあげるんで脳みそに栄養あげたらどうです? きっと今頃養分不足ですよ」


 そう言いながらローリエと瑠雨(るう)はそれぞれカラフルな鉱物を放り込む。茜、(はなだ)


 ──それ、僕のなんだけど。


 勿論そんな文句は口には出さない。差しだされたそれを一応、有難く受け取ると白夜も口に放り投げる。するとどういう事だろう。目の前にさっきのお化けが見え始めた……ような気がした。きっと気のせいだろう。念の為白夜は目を凝らしてその場所をもう一度見たけれど、消えていたのだから。きっと、気のせい。

 手なんか振ってなかった。

 たかがお菓子にそんな効果がある筈ない、はず。



「……いや、てか何で白樹の代わりに二人がここにいるのさ。その前に何で瑠雨もここにいるの」

「蒼もいるわよ。さっき到着したばかりなの」


 コーヒーを一口飲むとローリエはそう付け加えた。ラフな現代の格好をした彼女はいつもの和風ゴスロリと同一人物だと思えない。ぱくぱくと鉱物を食べながら瑠雨は説明してやる。


「あぁ、あの二人ですか。どうも最近幽霊塔で何やかんや起こってるみたいで。さっきそれを見に塔に向かいましたよ。蒼は少しここに寄ってるだけです」


 瑠雨はパーカーの紐を指で遊びながら鉱物をまた摘む。ぱくり ぱくり。


「何やかんや……? 塔……?」

「あら? 兄様知らないのかしら? 幽霊塔の噂」

「いや、知ってなくもないけど」


 何だか白夜の中で話が繋がりそうになってきたところで、瑠雨が扉を見た。


「帰ってきましたね」


 賑やかな声が聞こえてきた。そして同時に扉が開いた。


「たっだいまー!」

「あら? 白夜。ここに居たのね」


 蒼と白樹だ。楽しそうな顔で、一仕事終えたような顔で、その手にはそれぞれ何か握っている。

 ()()の先に居るものを見た時、白夜のみならずさしもの瑠雨もローリエも固まった。


 ──何やってんだ、この人達……!


 瑠雨は、必死に声を絞り出そうとする。が、言の葉はスカスカとした空気にしかならない。瑠雨は、蒼の〈蝶〉となってから随分時間が経つ。山へ毒草狩りに言ったこともあれば、一緒に頬を血で濡らしたこともある。びっくり箱を仕掛けられたこともあれば、動物園に強制連行された事もある。確かに、時々ペットを飼ってみたいと呟いていたことはあるが……。

 これはちょっと意味分からない。


「……蒼、それ」

「ん? アセロラジュース?」

「違います。そっちじゃない方」


 蒼は風船の紐っぽいものをクイッと引っ張った。その先にあるものが扉を通過し、三人の頭上に来る。ふわり ふわり ごんっ。パタリと白樹が扉を閉めた。──無言で。


「どやっ」

「凄いでしょう?」


 瑠雨はゆっくりと目を閉じた。脳みそが疲れているのは白夜だけでは無かったらしい。梅干しでも食べて休もう。思い返せば最近休めていなかった。蒼がそれを飼いたいと言い出さなければ大丈夫。

 ローリエはクルクルと髪の毛を弄った。クルクルクルクルクルクル。もう今目の前で何が起こっているのかさっぱり分からない。

 白夜は気絶していた。これがある種正しい反応である。


「塔で何か幽霊っぽいのが漂っていたから捕まえてきました!」

「幽霊って紐で縛れるのね……」

「御伽でつくった紐だから。特別性よ」

「それどうするの?」

「──食べれるなら食べるわ。今お腹空いてるのよ」


 白樹の言葉にローリエも気絶した。瑠雨は目眩を起こしてソファに身を投げ出した。"飼う"じゃなくて"食べる"だった。斜め71°の方向すぎて考える気がどこかへ逃げた。

 それを見た白樹はどうしたのかしら? と小首を傾げる。珍しく後ろで結えられている銀糸が、はらりと肩から流れ落ちた。


「白夜達も気絶するのね」


 珍獣を見るような色違いの双眸。〈蝶〉ではなく〈珍獣〉に格上げ(格下げ?)すべきか否か。


「瑠雨は気絶してないねぇ。さすが」


 ぱちぱちと蒼は手を叩いた。そしてアセロラジュースを飲み干し、手の届く範囲にいる次の獲物を探す。


「褒められてる気が全っ然しないんですけど」


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