何をどうしてこうなった1
⚠これは2章の時点でのお話です。2章終わる頃には矛盾だらけの物語となります。頭空っぽでお読みくださいませ。
「だから、昔っからここ幽霊の噂あったでしょ! もしかしたら成仏し損ねてる仲間に会えるかなって思ったの!」
「………………」
「でもさ? 来てみたは良いものの仲間っぽいのどこにも居ないし。あ、でもここ結構気にいってるよ? ちょうど涼しくて気持ちがいいし、レンガ作りの地下牢とかも素敵な感じだね! 設計者を褒め讃えたいよ!」
「……」
「でさー仲間に会えないの悲しいからちょっとここで暮らさせてもらってる訳ね。進行形で。そしたらいつの間にかここの塔には幽霊がいるってまた言われるようになったじゃん? 僕、ここに来てから一度も幽霊見た事ないのに不思議だなぁ」
白夜はそっと目を閉じた。色々突っ込みたいのを我慢して、ひとまず現状把握に務める。今は地下牢にいる。そう、この地下牢の異変を見に来た。
「それでさーあまりに暇なもんだから、幽霊で有名な所に招待状送ってみたんだけど。あ、勿論怖〜いお化けとかじゃなさそうな幽霊のいそうな場所ね。でもさ、僕こんな体じゃん。お手紙書こうにも書けないのよね。触ろうとするやつ全部すり抜けちゃうから。面白いんだけだね。不便だよ」
白夜の目の前の塊は、身振り手振りしながらマシンガントークをぶつけてくる。白夜はうっすらと開けた瞳をもう一度、そっと閉じた。いつぶりだろうか。こんなに長く自分の意思で目を閉じたのは。いつもなら忌々しい笛の音と、未だに白夜を誘おうとする声が聞こえてくる……、のだが。
今は聞こえない。
無論、目の前にいる謎の生物がマシンガントークしてるから。何を間違えてこうなった。
「でさ、どうやって送ったかって言うとね。鳥さんの脳みそとか少し借りてみたの。あー、鳥さん生きてるかなぁ? ま、死んじゃってても僕のお友達になるだけだから良いのな?」
さらりと爆弾投下。
「でさ! それが終わった明け方待ち切れなくて用意してたんだよ。パーティの! そしたらさーなんか時々歩いてる銀髪のオッドアイと兎さんが歩いてるじゃん。明け方にさ!」
──兎……?
白夜ははて? と首を捻った。いったいこいつは何をほざいているのだろうか。白樹の傍らにいるのは紛うことなき白夜なのに。
「その兎さんに声をかけてみたんだよねぇ。天命ってやつ? そしたら何か反応するじゃん。聞こえてるっぽいじゃん。幽霊パーティ誘うっきゃないじゃん。ねぇ?」
何でだろうか。凄く覚えがある。
──突如肩に手がポン、と置かれる気がした。これは白夜が人間では無いからなのか、ただ〈黄昏〉で鍛えられたそういう勘が働いたのか分からない。
白夜は体をビクリと(不覚ながら)固めると、一歩退いた。もう限界。
そのまま回れ右をし、
「白樹ーーーーーー! お化けがいるよーーー!」
涙目で走り出した。
「えー酷。……ん? お化け? お化けどこ?」
────とある夏の日の夜、あらゆるベクトルでやばい幽霊(だと自覚しているのかいないのか分からない幽霊)に白夜は絡まれていた。
「白夜さんどうしたんだろ……」
槻はのんびりと言った。片手にアイスを持って、朱里と共に自室へ戻る最中である。その道中、地下牢がある塔に続く階段から白夜が飛び出してきたのだ。兎みたいにぴょんと。何かから逃げ出す様に。
「さぁ? あ、そうだ。槻、あなた幽霊塔の話知ってる? 最近また話題に上がってるんだけど」
「幽霊塔? 地下牢のこと?」
幽霊塔とは001 -02(戦闘機関 暗殺組織)、07(諜報組織)の建物間に設けられている地下牢の夏限定の呼称である。
知らないよ、と槻は首を振った。朱里はペットボトルのジュースをごくりと飲む。建物内がある程度涼しいからと言っても水分補給はかかせない。愛飲のアセロラジュースは酸っぱくて、飲むと直ぐに疲れが取れる。
「部屋に着いたら教えたげる。中々に面白い話だから」
にひひと楽しそうに朱里は笑った。
セミが必死に泣いている。……違う。鳴いている。二人の部屋の網戸にくっついてミンミンミンと鳴いている。朱里は部屋に着いて早々、セミにデコピンを食らわせて追い払った。
中央に置かれているテーブルにペットボトルを置き、朱里は座る。槻は食べ終わったアイスのゴミを捨て、布団に包まる。寒がりな槻にとって、朱里の心地よい空調は寒いのだ。槻は冬よりも夏が好き。寒いのより暑い方が好き。
「で? で?」
「ちょっと待ちなさいよ。……ていうかまた布団に篭ってるし」
「いいじゃん別にさー寒いんだもん。……朱里さん宜しければエアコンの設定温度を下げて貰えますか」
「それじゃあ、あたしが煮えるから無理」
舌打ちが聞こえたのは気のせいか。
朱里はくせっ毛のある髪をくるくると弄りながら幽霊塔について語り始めた。
「聞いてるとは思うけど。槻がいなかった時にさー、不審者が侵入して来たのよ。まぁ、そういう建物の造りだから仕方ないんだけど」
朱里は煎餅をバリッと食べ、結論を言った。醤油煎餅である。朱里が言うには懐かしい味、故郷の味らしい。よく分からない。
「その不審者居なくなったのよねー。いつものあの塔に閉じ込められてるはずだったんだけど。ある日様子を見に行ったら蛻の殻だったのよ。……白樹さん情報」
「あぁ、白樹さんあそこ担当の一人か。で、それって……」
ごくりと槻は唾を飲み込んだ。ここ諜報組織の建物には様々なカラクリが仕掛けられている部屋が点々と存在している。朱里はパチリとウインクし、言う。
「ええ、いつもの塔よ」