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誰が為の黄昏  作者: あめ
【2章】つき灯りに揺れる・前編
30/96

カオスな奇遇2

 

 004機関──それは医療機関を示す。怪我や事故、手術や解毒……ありとあらゆる人体に関する事柄に関して集中している組織だ。〈黄昏〉屈指の技術である”記憶処理”も元々はこの機関からヒントを得、開発されたものである。

医療機関。世間一般古今東西(ここんとうざい)此処彼処(あちこち)でそれは、病気を治したり、お医者様が沢山居たりするような場所を指す。言い換えれば病院。上につらつら並べた御託(ごたく)の通りの事をする場所だ。それ以外でも、それ以上でも無い。

 だが、ここは機関〈黄昏(たそがれ)〉。世間一般とか言う、石頭の様な概念には当てはまらない。〈黄昏〉の医療機関は研究職全て──詰まり、医学者も物理学者も科学者もされば天文学者等、主に"理系"と呼ばれる人が集まり、共に研究している場所でもある。一つの家でお医者さんと学者さんが、仲良し小好し車引きで暮らしているような感じだ。殆どの研究職についているものは世界のお偉い大学だとか、研究所を主に基点にしている。そして〈黄昏〉に力を、情報を与える。

 一応、首都圏にその機関の主となる建物はある。槻達は訪れた事こそ無いが、噂によるとそこでは一般人を対象とし、治療しているという。"人体実験"と疑われても仕方ないかもしれない。実際していると否定出来ないのもまた事実。

 吉野蒼(よしのあお)、その人も正しく言えば医療機関に片足突っ込んでいる状況である。研究職として。



 コツリコツリと足音を立てながら、槻と朱里はその建物と諜報の建物を繋ぐ渡り廊下を歩く。通路脇全面に貼られている透明なガラスに見えるものは、アクリルに近い物質。〈黄昏〉で生み出された分厚いそれは、ライフル弾すら跳ね返す役目も持っている。


 その窓から一つの低い塔を見ることが出来る。地上を占める体積が少ない分、地下を我が物顔にしているそれは地下牢。あそこでは夜な夜な幽霊が出るともっぱら噂である。

 振り続ける雨は、あいにくなことに止むことを知らない様だ。この長雨が終わったら、早めの夏が到来するとテレビは喋っていたが本当なのだろうか。雨の中、唯一と言って良いほどに世界を彩っている紫陽花は葡萄色。その中に、滲んだ色合いをした撫子色が混ざっているのもまた一興。


 槻達が、直ぐに駆け込めるようにロックが掛けられていない扉を開けると、待合室のような場所に出る。パステルカラーの壁に所々黒いナイフが掛けられている辺り、組織感が感じられる。

 パタパタと白衣を着た人々が駆けて行くその建物は通常保険棟。病院をコンパクトにした感じだ。


「あら? 槻に朱里じゃない」


 染められた焦茶の髪。前髪の奥で光を受け、柔らかい少し色素薄い灰色の瞳。名は真由美(まゆみ)。戦闘機関諜報組織──詰まるところ槻が所属する組織の現リーダーである。そして槻の養い親。彼女は待合室の椅子に座ってのんびりお茶を飲んでいた。その左腕には包帯。

 訝しげに朱里はその包帯を見たが、直ぐに興味は失せる。特段その類の怪我は珍しくない。ここは諜報組織。我が身を捨て、情報を得る為に敵地に侵入する。ナイフでのかすり傷なんて日常茶飯事。


 ──包帯を巻くようなことでも珍しくないの?


 朱里は脳内にて響いたその声を都合よく無視した。ここのリーダーが包帯を巻く。彼女の最盛期はとっくに過ぎた。衰えた体で何かしようものなら代償がつくのは当たり前だ。


「リーダーお久しぶりです!」

「ごめんなさいね、槻。呼び出しちゃって。──朱里もおかえりなさい」

「ただいまですよ」


 朱里はテーブルに置かれていた飴を頬張りながら言った。


「悪いんだけど二人に後で頼みたい事あるのよね。でも今は話せないし槻も到着したばかりでしょうから……そうね、三日後の夜私の部屋に来てくれるかしら」


 こくりと二人は頷く。引っかかった所こそあるが、断る理由もない。二人の顔を見、真由美はにこやかに微笑んだ。名前を呼ばれ、そのまま彼女は去っていく。


「あれ……?」


 ()()()この時感じた違和感、懐かしさを思い出す事は無かった。隣で槻はいわゆる看護師という類の人に、手を見せている。ボロボロのその手は、下手な仕事に行った時よりも酷い。


「いったいどうしたらこんなに手に穴が空くのかしら?」


 純粋で、少し意地悪な看護師の疑問に槻は苦笑いで返していた。



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