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誰が為の黄昏  作者: あめ
【1章】サラダボウル
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少年少女の登場

とある街、とある場所のお話。3人の少年少女は〈黄昏〉の任務を遂行していた。

 


「ご協力ありがとうございました」



 その言葉に三人の少年少女──雪斗(ゆきと)(つき)時雨(しぐれ)は仕事がひと段落したことを悟った。そして、その悪意のないその言葉に殺意を抱いた。


 日付が変わった頃、つまり真夜中。揃って黒いパーカーに身を包み、指抜きの手袋をしている姿は青春を持て余したそこら辺にいる不良青年だと言ってもいいかもしれない。さらに駄目押しに警官と一緒にいると来た。状況を知らない人が見たら青春を持て余した可哀想な奴らが、夜中にたむろって付近の住民に通報された挙句にこれから家に強制送還という現場に見えるかもしれない。


 ──いや、それじゃ甘い。


 赤ランプを点滅させるパトカーが一台だけあるならまだいい。それが複数台となると話は別ではないだろうか。

 きっと想像力豊かな付近の住民Aはこの少年少女らは宇宙人だかUMAに誘拐されそうになった所を通りすがりのパトカーに助けて貰って、さあこれから夏の少年のお楽しみのUMA取りに行こう! とか何チャラ言うのではないか。


 念のため言っておくがそんなことでは決してない。彼らは〈黄昏〉の一員。れっきとした仕事で警察と共に居た。




「ん〜眠い……早く帰って寝たいよ。今日のお仕事結局何だったんだっけ。私の聞いた話だと確か──多分麻薬の取引現場を押さえる仕事だったはずだけど」


 迎えの車に乗り、パーカーのフードを外した(つき)が愚痴るように呟いた。肩に少し触れている茶髪を鬱陶しそうに弄り、不満げに窓の外を眺める。明るい茶の瞳はチラチラと時折緑が覗いていた。

 その隣に長い黒髪を後ろで一括りにした時雨(しぐれ)が座る。時雨はシートベルトをしっかりと締め、足を組みながら答えた。


「んーー? 確かそんな感じだとは思ったけれど。確か。何だか何もしてなさそうな善人を殴って倒して捕獲! ってやったら警察がいきなり乱入して来たけど。あれ? そうすると私たち悪者じゃん。……まぁ、逮捕されてたのは善人じゃなくて悪人なのは札付きだから気にしないけど」

「時雨、思い出せ。警察乱入前に突入したのはどこのどいつらか」


 助手席に座った雪斗(ゆきと)は、軽く後ろを振り返りながら言った。身に覚えがしっかりとある二人はそれぞれ窓の外をガン見し、雪斗と目を合わせないように頑張っていた。


「身に覚えがあるなら気をつけろよ……後でどう誤魔化すか困るだろ」

「大丈夫大丈夫。雪斗ならなんとか出来るって。慣れてるでしょ」


 ぐっと親指を立てながら槻は言う。


「そういう問題じゃない。……まぁ、確かに警察に関しては最近良い思い出がないから二人の気持ちも分かる」


 雪斗はごくりと自販機で買ったカフェオレを飲んだ。糖分が脳にしみ渡る感じが心地よい。


「ほんとそれ、愉快痛快不愉快な気分。最後にありがとうございますって言ってきた警官の顔見た? 凄く笑顔だったよ。ちくしょう。あいつらがしてる事っていえば、安全になった水飲み場で水を安全に美味しく頂く。たったそれだけ。誰が水飲み場を安全にしたのか考えてほしいわ」


 時雨の言葉を聞いた槻は、するりと取り出した小振りのナイフを弄び始めた。ここでナイフはあらゆる意味でまずい。雪斗は少し焦りながら言う。


「おい槻、しまえ。さすがにここはまずい」

「そうだね、時雨。戻って現場、搔き荒そうか。きっと、とても楽しい」


 一瞬で悪い顔になった二人をミラー越しに確認した雪斗は思わずため息をついた。──話を、聞け。

 ここで時雨に金平糖を、槻にチョコレートでも渡してやれば大人しくなるのかもしれない。今は。


 前にも同じようなことがあってお菓子をそれぞれに渡した事があった。そしたら思惑通り確かに静かになった。その場は。その後日、二人が藁や古くなった布地をかき集めたり買ったりしてきて、何故か人形を作り始めた。

 雪斗は二人がただただ裁縫に目覚めたのか(有り得ない)、地域のボランティア活動に寄付する人形を制作しているのかと純粋に思った。決して思いたかったのではない、思ったのだ。しかしその雪斗の考えは砂糖の塊よりも甘々で、頭お花畑で更に蝶々が飛びまくってる考えだった。世の中これを"希望論"だとか"現実逃避"という。

 二人は兎さんの形を作ったお人形さんと藁人形さんと内容が知れない手紙を子供からのプレゼントとして、お世話になった警察に送りつけ……送ったのだ。危険物として処理されたことを心から願う。


 雪斗は決して頭の回転は悪い方ではなく、むしろ普通以上の回転を持っているはずだ。しかし悲しきかな。現実逃避という思考はどんな馬鹿にも、天才にも脳味噌に基本事項としてプログラムされている。

 真相は暫く分からなかった。しかし、うっかり口を滑らせた時雨の発言により、手紙は近所の公園で遊んでいた子供をお菓子で釣り上げて、書かせたものだということは判明した。雪斗が不審者と何も変わらないじゃないか、と思ったのは言うまでもない。


「……二人とも、別に何をしようが止めはしない。ただお上から呼び出されるようなことはしないでくれ」

「お上って」

「組織のトップとかやばいところ」

「「…………」」


 槻と時雨はピタリと口を閉じた。二人ともそれぞれに苦い思い出があるらしい。


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