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第四話

前回のあらすじ

・段ボールから少女が出てきました

「お、お邪魔します」


 少女は、脱いだ靴をきちんと整える。

 俺は扉を開けっぱにするのはよくないので鍵を閉める。


 決して! いかがわしいことをするためではない。


「お部屋お綺麗ですね……」

「あ、はい。って言っても何にも買っていないので、物が少ないだけですけどね」

「いやいやそれでも、とてもきれいに整理されていると思いますよ!」


 俺のマンションは駅から近い一等地のマンション。

 しかしその中でも家賃が一番安い1Kであるためかなり狭い。

 もちろん上京当時お金がなかったからというのもあるが、一人暮らしだし、特に場所をとるものもない。

 部屋にある大きなものと言えば、テレビと、ストーブくらいだ。

 寝るときはベッドじゃないし、布団だし、座るときは椅子じゃなくカーペットに直接座る。

 本当に、場所をとるものはなにも持っていない。

 だから、このマンションの一番狭い部屋にしたのだ。


 そのせいか少女との距離は少し近い。

 それにしても、何故だろう?

 やはりこの少女の近くにいると、無性にエロいことを考えてしまう。


「ふぅ……」


 いやいやいや! 待て待て!!

 俺は出会ったばかりの少女にエロい目線で見てしまう変態お兄さんだったか!?

 ちがうだろ、しっかりしろ俺!!


 ……とまぁ内心そんなことを思っている俺ではあるが、冷静なふりをしてカバンを壁際に置く。


「お茶は用意しますので適当にくつろいでおいてください」

「いやいや私がやります……よ?」


 少女はキラキラした目で俺の方を見てくる。

 そして、やるという意思の表れなのか、俺の腕をつかみ必死に、懇願してくる。

 しかしここは俺の自宅だ。

 流石に客人にやらせるわけにはいかない。


「いやいや! 大丈夫ですから! あっでも、そこの、やかん取ってもらえますか」

「あっ、はい……どうぞ……」


 俺が指さしたところに置いてある、やかんを取る少女。

 そういえば名前を聞いていない。

 まぁ聞いたところで、どうとなるものではないかもしれないが……


 やかんに水を入れ、ガスコンロに火をつける。

 そしてその上にやかんを乗せ、沸くまで座って待つ。

 お湯が沸きあがるには少なくとも数分はかかるだろう。

 その間の時間はというものそれは、


「「…………」」


 やはりこうなってしまうのか!!


 沈黙という、無言の空間の出来上がりだった。


 高校ボッチにこんな美人と二人きりの空間なんて、鬼畜すぎる!

 しかし俺は社会人になったのだ。

 この7年という社会生活で培ったコミニュケーション能力を見せる時だ!!


「「…………」」


「そ、そういえばお互い自己紹介がまだでしたねっ!」

「そ、そうですね」


 俺の馬鹿野郎!!

 結局、相手に言わせてんじゃねえか!!


「あ、あの……どうかなさいましたか?」

「いや、別に!」

「そ、そうですか……」


 頬を赤く染め、もじもじする少女。

 やはり()()()()()()じゃないような可愛さだ。


 ……この世界の人じゃない?

 待てよ? 何か引っかかる。

 よく考えれば、段ボールに人が入って届けられるなんてことが普通あるのか?

 まぁ……そこら辺の駅とかによく、段ボールにくるまった人とかいるし、こういうのもあるかも知れない……のか?

 いやないだろ!

 絶対的にないだろ!!


 ……まぁなんにしても、とりあえず客人をもてなさなければならないのは確かだ。


 ヤカンが、甲高い音を鳴らして呼んでいる。

 俺は、立ち上がり、キッチンで温かいお茶を入れ、テーブルまでもっていく。


「どうぞ」

「あ、ありがとうございます……」


 ふぅふぅと、息を吹きかけ冷ます少女。


 それにしてもやはり、何かエロい。服装のせいだろうか?

 確かにこの少女の服装は、露出狂と言われても反論の余地がないほど、布の面積が少ない、とはいえほんとうにそれだけなのだろうか?

 

 てかさっきから、動き回るたんびに、お尻が見えそうになっていた。

 ぶっちゃけ鼻血でそう……


「まぁとりあえず、自己紹介ですよね。俺の名刺をどうぞ」

「は、はい! ありがとうございます!」


 少女は俺が渡した名刺をじっくり見ている。

 別に、特に大した情報が書いているわけではない。

 というより、こんなにも可愛い子に渡すことになるなら、もっと情報書いておいてもよかったかもしれない。

 特に電話番号とか、メールアドレスとか……


「へー……鈴木一郎(すずきいちろう)さんっていうんですね」

「ええ、まぁ……」


 ……照れくさくて正面が見れない。

 少女の目は、とても輝いていた。

 まるで好きな異性から、初めてプレゼントをもらうような、そんな感じだ。


「野球が得意そうとか友達から言われたことはないですか?」

「ははは、仰る通り、小中高と、野球部に誘われてましたけど自分サッカー派なんですよ。一応県代表にも選ばれましたよ」


 ぶっちゃけ野球はあまり得意ではない。

 てか、運動はサッカー以外基本的にできない。


「へぇ! こ、今度見せてもらってもいいですか? 私サッカー見たことなくて……」

「もちろんいいですよ! あ、そうだ。今少し、サッカーの試合見てみますか? 丁度、昨日、日本代表の試合があったので録画してたんですよ」

「そうなんですか! ぜひ!」


 思いのほか食いついてくれたおかげで、なんとか会話を止まらせずに、無言の空間を作らなくて済む。


 それにしてもおかしいものだ。

 こんなかわいい子を、家に入れてサッカー観戦なんて……

 もしかして死ぬんじゃないだろうか。


 そう思えてくるほど俺は何処か幸せだった。


「……そういえば、まだ私の名前言ってませんでしたね」


 唐突に少女はそういうと立ち上がる。

 まだサッカーの試合は終わっていない。

 日本が一点のビハインドを背負っていた。


「私の名前はミーシャ、と申します」

「へ―いいお名前ですね!」

「は、はい……」


 褒めると少女こと、ミーシャは、さっきよりも顔を紅に染め上げていた。

 俺もその様子を見て少しドキドキしてしまう。

 

「ええと……それでは一郎さん」

「はい?」

「末永く……よろしくお願いしますね」

「え? 末永く……?」

「はい。末永くよろしくお願いしますね……だ、旦那様」

 

 かわいらしく手で顔を隠すようにするミーシャ。


 それと同時に、


『ピッ……ピッ……ピッ―――――――!』


 テレビでは無情にも試合を終わらせるホイッスルが鳴り響いた。

 そしてまた、部屋の中で今の生活を終わらせる合図が鳴り響いていることを俺は知る由もなかった。


ここまで読んでいただきありがとうございました!

良ければ、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!

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