第一話
「よし! 準備おっけい!」
社畜こと、俺、鈴木一郎の朝は早い。
現在の時刻は5時、今日ほど完璧な朝はなかった。
朝食をマンションの下のコンビニに、買いに行き、それと同時にお湯を沸かして置き、帰ってきたときに丁度コーヒーが飲めるようにしておく。
さらに社畜には大事な栄養ドリンクをカバンの中に入れ、二月という、肌寒い季節のための防寒具も用意。
完璧にスーツを着こなし、腕時計を付け準備は万端。
もちろんしわなどは一つもない。
ここまで完璧な朝は上京してきて、初めてだった。
「ふふん~俺も社会人が板についてきたってことかな~」
上機嫌で、マグカップにコーヒーを淹れ、ちびちびと飲む俺氏。
それと同時に朝のニュースを見る。
『昨晩、また京都で通り魔事件が発生しました。今月に入って七件目とのことで警察は捜査をしていますが、いまだに有力な情報は得られていないようです。また警察は近隣住民になるべく夜遅くに外出しないように呼び掛けています……』
通り魔事件なんて物騒な世の中になったなーとしみじみ思うが、俺は男、あまり関係ないだろう。
現に女の人が狙われてるみたいだし、てか課長狙われてくれねーかなぁ……
……なんて不謹慎なことをついつい思ってしまったが、俺の会社はそれなりに大きい。
子会社も結構持っていて、政府の重鎮との太いパイプもあると聞く。
そんな会社に入れた俺をラッキーだといい羨ましがるやつも少なくはない。
それに給料も同年代のほかの会社員とは結構差があるほどもらっている。
しかし俺の配属された課の課長が問題なのだ。
美形で栗色の長い髪を持ち、モデルをやっているんじゃないかと言えるほどの、男ならだれでも惚れてしまうだろうプロポーション。
それにやさしく部下からの信頼も厚い。
しかし俺には本当にひどい。
定時には帰らしてくれないし、残業ばかり、挙句の果てには朝の出勤時間をほかの人より一時間早める。
会社には誰もいないし、やることもない。
昼はすぐに俺をランチに引っ張り出し割り勘。
それに何故か、俺の電話番号を持っていて暇さえあればすぐに電話をよこす。
会社の同僚からは、恨まれるし、俺が変な弱みを握っているという噂まで出る始末。
ほんとマジで勘弁してほしい。
せめて俺がヒラじゃなければこんなことにはならないのに……
「そう考えると、行きたくないな……」
気持ちが沈んでいく中、俺は仕方なく家を出る準備をする。
先ほど用意していた、防寒具を身に着け、リモコンを手に取りテレビを消す。
沸かしていたお湯も、台所で流す。
「はぁ……」
俺は一つため息をつく。
そして二発、両手で頬を叩く。
こうして気合を入れなおし、部屋から出て玄関で革靴を履く。
「それじゃ行ってきます……って誰もいないんだけどね」
誰もいない家に言うほど寂しいものはない。
しかし言わないのも行く気分にならないというのもまた事実
要は気分の問題なのだ。
「ハーっ……よし!!」
すごみ俺は、扉を開け玄関からでる。
すると、
「鈴木さーんお届け物でーす。きしししっ」
緑色の小さな生物がそこには存在した。
サキュバスのミーシャが出てくるのはもう少し先です。
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