プロローグ
新連載です!
よろしくお願いします!
荒ぶる機械、散乱するごみの山、そして様々な男の情報が記された紙が何千メートルと束ねられている部屋の角。
一人の少女がそこにはいた。
照明などの光は何もなく、何十年、いや何百年と放置されたごみが悪臭を誘い、とてもじゃないが人間が住めるような環境ではなかった。
――ピピ、次の人間の名前は『田中拓海』年齢は52歳妻あり。性別は……
「……次のデータを要求します」
――了解しました。次の人間の名前は『鈴木一郎』20歳独身、性別は男、童貞。
「鈴木一郎……いかにも野球がうまそうな名前ですね」
――そのお方は別の人間です。
「わかっています、ちょっと言ってみただけです。それにしても、ふむ……童貞ですか」
――はい。そのようです。
「では顔写真も要求します」
――了解しました。少々お待ちください。上に許可を申請しています。
「……毎回思うのですが、別に写真くらい上に許可を取らなくてもよくないのですか?」
――そういうわけにはいきません。規則ですので。
「あっそう……」
――何かお飲み物でもご用意しましょうか?
「……いえ、どうせ、ただの液体を飲んでも、のどの疼きは止まりません……それよりまだですか?」
――申請中です。もう少しお待ちください。
「はぁ……」
少女はため息をつき憂鬱そうな顔をしていた。
その少女の年齢は15999歳。
もうすぐで16000歳。
人間の年に換算したら来年で16歳という思春期な、お年頃である。
「…………」
この少女が今何を思い、何故このような行動をとっているのか、それは人間の知ることではない。
ただこの少女の課せられた、この残酷な運命というものをもし人間が背負ってしまった場合、どうなってしまうか、そのくらいならば見当がつくだろう。
――上の許可が下りました。写真を転送します。
「はい」
謎の機械から、送られてきた白紙の写真。それは少女が手に取り覗きこむと、少しづつ浮かび上がってくる。
それにはある一人の人間の満面の笑みが写っていた。
「……いい顔をしています……」
――そうでしょうか? 私にはそうは見えません。
「そう?」
――はい。
少女の心臓は何故か動きが早くなっていた。
それは恋愛の感情というものかは定かではなかったが、それと同時に、
――なぜ泣いておられるのですか?
少女は泣いていた。
「……え? 泣く? あれ……なんで……」
少女は自らの右頬を手で押さえる。
確かにそこには機械の言う通り、水滴が流れていた。
言葉にならない感情が込み上げてきたのだろう。
暖かくも、冷たいサラサラとした涙。
サキュバスである少女にとってそれは初めての体験だった。
――この男にしますか?
「…………」
少女は無言で頷いた。
――それでは最後の通達を行います。なにか上に伝えたいことはありますか?
「そうですね……」
少女は涙を拭き睨んだ。
誰もいないであろう天井を。
誰もいないであろう天界を。
「では死ね、と一言」
――了解しました。上に伝えておきます。
「それにしてもあなたには世話になりました……ありがとう」
――私は情報通信ネットワーク『アポロ』です。感情はありません。
「ふふふ、そうだったわね……」
――はい。それより本当によかったのですか?
「うん?」
――この『鈴木一郎」という人間にお決めになられたことです。
「……そうね、感情のないあなたにはわからないことかもしれないけれど、少なくとも私はこのお方に尽くしたい」
――理由を聞いてもよろしいでしょうか?
「うーん、どこかお兄様に似ているから……かな?」
――お兄様……やはり私には理解できません。
「ふふふ、いいのよ。あなたは何も考えなくても」
――ピピ、時間です。
「……いよいよか。それじゃあねアポロ」
――はい。行ってらっしゃいませミーシャ様。
少女は可愛く微笑んだ。
機械は見送る。決して戻ってこないであろう少女を。
二度と会うことのない自分の仕えるこの主を。
少女は箱の中に入った。
部屋に置いてある紙よりもはるかに分厚い茶色の紙でできた箱。
そしてテープで閉じられる。
少女は光が入ってこないという恐怖を押し殺し、目を閉じる。
自らを大事にしてくれるだろう男に届けられるまで。
届くまで何年かかるかはわからない。
こうして、新たな男に出会うまでサキュバスは深い眠りにつく。
第一話は今日中に更新しますので、良ければ読んでいただけるありがたいです!
ここまで読んでいただきありがとうございました!




