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たったひとつの冴えない能力(ちから)  作者: 相田 彩太
第一章 砂塵の疾走者
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その4 ドラゴンと少年


 「ふぅ、さっきはヒドイ目を見た。瞬間移動の成績も全くダメだったし」

 「自業自得だよ。あたしえっちなのはいけないと思うな」

朝顔が可愛らしく人差し指を立てて言った。

 「で雑賀、次の予定はどれや」

 「ん、次は『心霊治療』で、最後に『念動力』だな」

 「そっか、ワイらは次は『超感覚』で、最後が『念動力』や、また会おな」

 そう言って海下はグループの仲間と歩いて行った。

 「海下君、またね」

 そう言って手を振った朝顔が雑賀に向き直る。

 その目は何か言いたそうだった。

 「俺を見くびってもらっちゃ困るぜ。ちゃんと『心霊治療』も知ってるよ。この国のウリだからな」

 また何も知らないと思われちゃいけないと思い、雑賀は言った。

 「うん、世界的に有名だからね。というか総帥さんとその御業(みわざ)の事は誰でも知っているよ」

 「ああ、世界で唯一『大回復』が使えるんだろ。死んでなければ、どんな病気や怪我だって治せるって話だ」

 「正確には何でもって訳じゃないけどね」

 「そうなのか? ギロチンで首が落ちても三秒以内だったらセーフとか聞いたけど」

 「それはホントだけど何でもって訳じゃないの」

 「そうなのか、で『大回復』ってレベル何くらい?」

 雑賀が今までのテストで分かった事がある。この国では超能力の強さをレベルで評価するという事だ。

 この国の最高位に存在する総帥、その代名詞ともいう能力『大回復』、そのレベルに雑賀が興味を持つのは自然な流れであった。

 「レベル6だよ。『ある特定の場合を除き、生きていればどんな人の怪我や病気も治せる』のがレベル6の合格規定」

 「ある特定の場合って?」

 「うーんと、それは総帥さんの例だと『ショットガン等で頭を吹っ飛ばされるような損傷が脳にあると治せない』だね」

 「なるほど、ギロチンは大丈夫なんだ」

 「うんギロチンは大丈夫」

二人が納得したように声を交わす。

 「よう朝顔、また会ったな」

 隣から声が掛かる。そこには海下にドラゴンと呼ばれた生徒が立っていた。

 「竜ちゃん、もう終わったの?」

 「いや、献体待ちだ。そっちの調子はどうだい?」

 「まあまあだよ竜ちゃん。少しは上がっているけど新能力に覚醒していないから万能型の称号は取れそうにないかな」

 「そうか、ま頑張りな。そして転校生はっと」

 その生徒はそう言って雑賀の手にある用紙を覗き込む。

 「はははっ、何だよ全然駄目じゃねぇか。名前通りザコっぽい奴だな。お前、限定型かそれとも特殊型か?」

 そう言ってその生徒は少し考え込む素振りを見せる。

 「いや違うな、特殊型だったら少しは噂が出ていないと変だからな。とすると限定型か、まあ精々頑張りな」

 棘のある言葉が雑賀に浴びせられた。

 「はい、天野さんはちょっと待っててね。あなた達の試験を先にするわよ」

 いつの間にか列が進んでいたのだろう、二人に試験官から声が掛かった。

 雑賀はムッとしながらも、心を落ち着かせ試験官へ向き直った。

 そして本日何度も行った会話を経て二人は試験に挑む。

 「じゃあレベル1挑戦の君、ちょっと力を抜いて」

 試験官は雑賀の手を握り、その甲を脱脂綿で軽く拭くと小さなメスを手に取った。

 消毒なのだろう、辺りにアルコールの臭いが舞う。

 「はい、ちょっと痛いけど力を抜いてね」

 試験官はメスを甲に当て軽く力を入れる。

 皮膚が切れ僅かに血が出ると思われたが傷が付かない。

 「ん、おかしいわね。雑賀君、緊張せずに力をぬいて、ね」

 試験官の声に雑賀は軽く深呼吸する。

 「はいOK」

 今度は刃が通ったようだ。雑賀の手に小さな血の球が出来る。

 「じゃあ能力を使ってその傷を塞ぐの。傷が治るイメージを念じてみて。一分以内に傷跡が消えていたら合格よ」

 試験官にうながされるがまま雑賀は念じる。治れ、傷よ治れと。

 「はい、じゃあ傷口を見るわね」

 試験官は再び脱脂綿を取ると傷口に当て血の球を拭き取った。

 だが傷口には再び血の球が出現する。

 「うーん不合格ね。じゃあ消毒しておくわね」

 試験官はスプレー式の傷薬を手に取る。

 「待って下さい先生。あたしのレベル2の挑戦で雑賀君の傷を治すってのは駄目ですか」

 次に並んでいた朝顔が声を掛けた。

 「いいわよ、やってみなさい」

 試験官は雑賀の手を取り朝顔の前にそれを差し出した。

 「じゃあいくよ雑賀君」

 朝顔はその手を取ると目を見開き血の球、即ち傷口を凝視する。

 「はあああぁ」

 本人は気合を入れているようだが、第三者には気が抜けるように聞こえる声を上げ、彼女の顔が真っ赤に染まる。

その手は(ほの)かに温かく感じられた。

 「はい、ストップ」

 再び雑賀の手を取ると、試験官は脱脂綿で血を拭く。

 そこには傷口と思われる痕は無く、そして再び血が出る事もなかった。

 試験官は傷口と思われる部分を軽く揉み、凝視する。

 「はい、合格、おめでとう」

 そう言って朝顔の用紙の心霊治療の欄にLV2と書き、合格のサインを記入した。

 「すごいな朝顔さん」

 「えへへ3年目でやっと合格したよ」

 微笑みを浮かべながら朝顔が言った。

 「よく頑張ったな」

 遠目に見ていたはずの天野が近づいて、朝顔の頭をポンポンと叩く。

 「ありがとう竜ちゃん」

 嬉しそうな表情で朝顔は微笑んだ。

 「さて、そろそろ準備ができたかな」

 そう言って、天野は一歩前に出て、試験官の前に立つ。

 「やっぱり嫌味なヤローだな。俺への『頑張りな』と、朝顔さんへの『頑張ったな』では声のトーンが違う」

 「そうかな、竜ちゃんはホントは優しいんだよ」

 「そうか、そうとは思えないけどな」

 「うーんと、雑賀君は色々勘違いしているだけだと思うな。あたしは雑賀君と竜ちゃんが仲良くしてくれると嬉しいな」

 そう言って二人は天野の後ろ姿を見る。


お読み頂きありがとうございます。

ここのネタは「えっちなのはいけないと思う」がまほろまてぃっくですね。

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