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たったひとつの冴えない能力(ちから)  作者: 相田 彩太
第五章 最悪の勝利者
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その6 絶叫者たち

 「きゃぁぁぁあああああ!」

 「いやぁぁぁあああああ!」

 天野とデイジーが叫び声を上げ、クラスメイトからも叫び声が上がる。

 「ぶっ、ぶち殺して差し上げますわ!」

 頬を涙で濡らし、デイジーが叫び声を上げる。

 そして、そこに居る全員が見た。黒い奔流がデイジーの身体から溢れ、総帥へ流れ込むのを。

 本来、超感覚の一種、超常視(サイ・シーイング)を備えていないと見えないはずの闇。

 だが感じる能力(ちから)があまりにも弱くても、入ってくる能力(ちから)の強さが十分であれば、その強烈な能力(ちから)は万人の目に畏怖の姿を宿す。

 破滅は今や闇の渦となって総帥に襲い掛かった。

 「六翼だと! 化け物か!」

 常に余裕を見せていた総帥が驚愕の叫びを上げた。

 総帥を護るように出現した光の壁がその流れを受け止める。それは川の激流に耐える岩のよう。だが闇の流れはそれを押し流そうと力を増す。

 光の岩陰に護られるようにその身体を横たえていた雑賀は朦朧(もうろう)とする意識の中、血の温かみが地面に染み込んで行く度に自分の何かが喪失していくのを感じていた。

 これが……命の温かさが消えていく感覚か。でも暗いな、一昨日気絶しそうになった時は視界に砂嵐が出たのに、今日は闇か。

 そんな事を思いながらまぶたの重さが増えていくのを感じていた時、胸の辺りから温かい何かを感じ、その何かは全身を駆け巡る。

 四肢に力が戻り、意識が覚醒する。雑賀は自分が地面に倒れている事を認識してガバッと面を上げた。

 「気付いたようだな」

 目の前では総帥が右手を前にかざし、黒い渦を遮断していた。

 そして雑賀は総帥の空いている左手から温かみを感じていた。

 これが噂の『大回復』か、雑賀はそう思った。

 「目覚めて早々すまんが、少年、後ろから回り込んで彼女をなだめてくれ。我は平気だが、このままでは周囲と彼女自身が危ない」

 光の壁で弾かれた黒い渦に触れた物は木々であれ、地面であれ色を失い、砂と化していく。雑賀はあれに人が触れたらと想像し、身を震わせた。

 「わかった」

 雑賀は後方へ走り出し、大きく回りこみ、黒き渦の源、デイジーの背中へ辿り着く。

 雑賀はそのままデイジーの背中に優しく抱きつくと。

 「大丈夫だから力を抜いて」

 そう(ささや)いた。

 「魚一君の魂がわたくしに最後の力を貸してくれましたわ!」

 その声にデイジーは発奮すると、黒い渦は益々力強さを増した。

 「違う違うデイジー、魂だけじゃない、身体も足もちゃんとある」

 誤解を与えた事に気づいた雑賀はデイジーの首に回した腕をより深く押し込む。

 くにょん。

 柔らかい感触が雑賀の腕に伝わる。

 「ひやぁああああ」

 「ご、ごめん」

 雑賀は後ろに撥ね跳び、デイジーは胸を押さえてへたり込む。

 黒い渦は既に消えていた。

 「ちょ、魚一君、それは友達の次のステップに進んでからですわよ」

 胸を押さえ、顔を真っ赤に染めてデイジーが抗議した。

 「おー少年、上手く行ったようだな」

 少し離れた所から総帥が声を掛けた。

 「元はと言えばあなたが彼に酷い事するからじゃないですの!」

 「すまんすまん。ちょっと大人げ無かった。今度からは気を付ける」

 手を縦にして総帥は謝意を示した。

 「それより魚一君。傷は大丈夫ですの」

 「ああ、どこも痛くない。それどころか前より元気なくらいだ。だから、また行ってくるぜ」

 服の破れた部分をさすり、雑賀は駆け出した。

 「さっきは悪かったな、ちょっとやり過ぎた」

 「いいさ、これくらいの覚悟は出来ている」

 再び二人は相対し、雑賀は攻撃を開始する。

 その拳を総帥は体を捻って(かわ)す。

 「流石に重態はまずいから、さらに手加減して重傷に留める事にしよう」

 振り下ろされた総帥の手刀は、伸びきった雑賀の二の腕を捉える。

 「ぐがっ!」

 くぐもった叫びを上げ雑賀は腕を押さえる。

 「ほう、完全には折れなかったか。亀裂骨折程度かな。想像以上に頑丈だな、少年」

 手の感触を確かめながら総帥は雑賀を見て言葉を続ける。

 「安心しろ少年。戦いの終わりに全て治してやるし、動けない程の怪我ならその場で治してやろう。さあ、どんどん掛かって来たまえ」

 掌を上にし、くいくいと総帥が往年の映画スターのポーズで挑発する。最初の雑賀の挑発のお返しといった所だ。

 その挑発を前に雑賀はすぐさま攻撃を再開する。腕は痛みを訴えていたが、その痛みよりも焦りの方が大きかった。既に日は南中に近づき、自身の腹時計も、残り時間が一時間を切り始めている事を告げていた。

お読み頂きありがとうございます。

前話のラストからここまでがこの作品では珍しい残酷描写です。

でも軽そうに見えるのは主人公のキャラクター性からでしょうか。

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