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たったひとつの冴えない能力(ちから)  作者: 相田 彩太
第五章 最悪の勝利者
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その5 冒険者たち

轟音が鳴り響き、伝説の兵器となった九六式十五センチカノン砲が文字通り火を噴く。

 百合子の目からは、砲弾は総帥の顔面を捉えたように見えた。だがその砲弾は光の壁に弾かれ、上空に()ねる、その軌道は旧校舎中央の時計塔を貫き天空へと消えて行った。

 「今だ、みんな『力を合わせる』ぞ」

 天野の声にクラスのみんなの視線がグラつく時計塔に集中する。

 能力者は念動力・瞬間移動・精神感応・超感覚・心霊治療・予知の基本六要素とその他、特殊型に分けられる。

 基本六要素の特徴は『相乗』と『相殺』、たとえ十キログラムの重さしか動かせない弱い念動力(テレキネシス)でも十人が力を合わせれば百キログラムの力になり、人数がさらに増えれば力は増大する。

 教育機関では、個人の能力を伸ばすと共に『力を合わせる』事にも重点を置く、『力を合わせる』上で難しい点は力の向き(ベクトル)を一致させる事だが、この場合重力と同じである。未熟な中学生と言えども、それならば容易。

 B組で念動力(テレキネシス)を持つ者は雑賀を除き十二名、その念動力(テレキネシス)は今ひとつの力の奔流となっていた。

 時計塔は砲弾の衝撃で中段から前のめりに傾いている。それに総員の念動力(テレキネシス)が加わり、時計塔は折れた。

 時計塔の上部が二十メートルの高さから落下する。落下点はもちろん総帥の真上。

 巨大質量が重力と念動力(テレキネシス)で加速され総帥の頭上に降りかかる。轟音と爆風が起こり、辺りが粉塵に包まれた。

 「百合子は無事か!?」

 天野の声が響く。

 「この通り無事だぜ」

 「竜様が心配してくれるなんて、百合子は幸せですわ」

 百合子を小脇に抱えた雑賀が地面から這い出てきた。

 前もって打ち合わせした通り、百合子は発射の後、穴の中で時計塔とは逆側に逃げる。雑賀はその逆側から入り、二人は合流。そして雑賀が百合子を抱えて脱出したのだった。

 「そうか、無事か」

 二人の姿を確認し、天野は安堵の胸を撫で下ろした。

 総帥の言葉通りならば、この世に絶対や無敵の存在は無い。あるのは絶対とも思える程に大きな力。だからそれを上回ればダメージを与えられる。

 伝説の兵器と化した九六式十五センチカノン砲の一撃、それに続く重力だけでなく念動力(テレキネシス)で速度を増した時計塔の落下、この飽和攻撃が天野の立てた作戦の全て。

 皆が砂煙を見つめ拳を握り締める。言ってはいけない言葉を言いたくなる。

 「やったか?」

 そう言ったのは雑賀であった。

 「わからない。デイジーはどう見る」

 天野がデイジーに問いかけた。

 「正直わかりませんわ。総帥にダメージを与えるだったら五分五分だと思っていましたの。ですが風船なら、もしかしたら割れているかもしれないと思いたいですわ」

 「相変わらず、こういう所では意見が合うな。私も同じ感想だ」

 「おいお前ら、思いっきりやれとは言ったが、ちょっとやり過ぎじゃないか、旧校舎が多少壊れるのは覚悟していたが、大破するとは思っていなかったぞ」

 少々呆れ気味に鳳仙先生が言った。

 「総帥を相手にするのです。これくらいでは足りないくらいですよ」

 「それは同意するが……」

 天野の声に鳳仙先生はしょうがないなといった風に頭を掻く。

 祈るように皆が見つめる中、初夏を思わせる温かい風が粉塵を吹き飛ばして行く。

 「いやー煙い煙い」

 ゲホゲホと咳をし、土埃を払いながら現れた総帥の姿は多少の汚れがあるものの全く無事で、その頭にはゆらゆらと赤い風船が風に揺れていた。

 「嘘……」

 天野が膝を折り両手を地面に付ける。

 「うんうん中々だったよ。このクラスの攻撃は何年かに一度しかお目に掛かれない。いい協力プレイだったね。でも、ざーんねーんでした」

 総帥は笑っていたが、周りのみんなは笑ってはいない。(うつむ)くか、不安そうに天野を見るだけだった。

 「まだだっ!」

 その中で唯一、闘志を失わない男が再び総帥に向かって行く。

 雑賀だ。

 「また君か、つくづく諦めの悪い少年だな」

 「諦める? まだ二時間もある、この程度では諦める内に入らん」

 再び拳を交し合う二人、時折、雑賀はフェイントを掛け、総帥が自身を防御しようとする隙に風船を狙うが、光の壁が出現し阻まれてしまう。

 「リン! 次の作戦を、ポイントを指定してくれ」

 雑賀の声に天野は応えない。

 「リン! まだ諦めるな、時間はある、作戦を立ててくれ、時間は俺が稼ぐから」

 天野はまだうずくまり(うつむ)いたまだ。

 「リン! 俺を見ろ、まだ行ける! 戦える! だから、この中で一番想いの強いお前が諦めるな!」

 だが、天野の視線は大地から離れない。

 「どうやら彼女は気付いているようだな。この作戦の立案も彼女だろう。中々の策士のようだが、なまじ賢い分、未来が想像出来るのだろう。もう分かっているようだな、策が尽きたと。君も少し賢くなったらどうだい」

 「生憎、俺は馬鹿なんでな」

 「そうか、なら体で覚えてもらおう」

 勢いを増した総帥の拳が雑賀の顔面を捉える。一瞬、雑賀の体がグラつくが下半身に力を込め、踏ん張った。

 「まだまだ!」

 雑賀の闘志は揺るぐこと無く、再び立ち向かう。

 今までは手加減していたのだろう。総帥の動きは格段に良くなっていた。速いというより巧い、身の捌き、踏み込み、インパクトの瞬間の力の伝え方、全てが雑賀を上回っていた。

 「やはり運動は良い。少し体が温まって来たな」

 鳩尾に肘を入れられて腹を押さえながら顔をしかめる雑賀を見ながら総帥は言う。

 「そうかい。心は冷たいのに、体だけがあったかいんだなあんたは」

 息を荒げながら雑賀は総帥を睨み付ける。

 「そいつは聞き捨てならんな。我は君達にチャンスを与えた。少なくとも渦中の妹さんは死なない。我ほど温情な人間はおらんよ」

 「そうかい、じゃあケチくさいんだな。救える力があるのに救わないってのはケチな証拠だ!」

 そう叫びながら雑賀は殴りかかる。

 「今のは少しカチンと来たかな」

 総帥の顔から笑みが消えた。

 「だから、これはオシオキだ」

 雑賀の身体が顔と胴体の一部を除き白く染まり、雑賀はその動きを空中で固定された。

 動け……ない!?

 声を発する事も出来なかった。雑賀はただ現状を認識するだけだった。

 「えい」

 総帥の軽い声とは裏腹に力強い貫手が色を残している胴体部分、左脇腹を貫通した。

 口腔から血が溢れ、大地を朱に染める。光の拘束が解かれた身体は力を失い地面に倒れこむ。

 倒れながら雑賀は見た。その目をカッと見開らいて自分を見つめる天野の顔を。

 やっと顔を上げたな……

 その声は音にはならなかった。

 雑賀の口からは血泡がゴボゴボという音を立てるだけだったが、天野はその声が聞こえた気がした。

お読み頂きありがとうございます。

やっと『相乗』の設定が活かせました。

今回の小ネタは『力を合わせる』です。超能力ものの先駆者「超人ロック」のミレニアム5人衆からですが、あまりにもマイナーキャラ過ぎて誰にも分からないかもしれません。

サブタイトルは既に気づいている方も多いと思いますが、ガンバの冒険の原作からです。

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