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たったひとつの冴えない能力(ちから)  作者: 相田 彩太
第五章 最悪の勝利者
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その4 雌伏者たち

 前日の夕方、必死に総帥を嵌める落とし穴を掘り終えた雑賀が穴から這い出ると、クレーン車と大型トラックが敷地内に入ってきた。

 「ご苦労だな雑賀、いい穴が掘れたじゃないか。感心、感心」

 天野がうんうんと頷く。

 「竜様、穴が掘れたのは百合子がスコップを伝説のスコップに強化したからでもありますのよ。そんな男よりも百合子を褒めて下さいまし」

 「お前は脇で見てて三分毎にスコップを触ってただけじゃないか」

 「ふん、下品なあんたと違って百合子の能力(ちから)は繊細で神経を使いますの。筋肉バカは黙ってくださいまし」

 二人が睨み合う。

 「ああ、分かった分かった喧嘩をするな二人とも。百合子、よく頑張ったな」

 そう言って天野は百合子の頭を撫でる。

 「えへへ、もっと撫でて下さいまし」

 満面の笑みを浮かべ、だらしなく顔を緩める百合子。

 「で、リン、総帥は重力だけは遮断していないようだから、落とし穴なら引っかかるかもしれないというお前の仮説は分かるけど、こんなに大きな穴を掘る必要はあったのか?」

 雑賀の横にある穴は深さと幅こそ約三メートル程度だが、その長さは十メートルはあった。一人の人を落とすには大きすぎる。

 「ああ、それはこいつを入れる穴さ。奮発したぜ」

 天野の親指で示された先にはクレーンで吊り下げられた巨大な鉄筒が鎮座していた。

 それは前々世紀の大戦の遺物、型式名称、九六式十五センチカノン、要するに大砲である。

 それはゆっくりと穴の底に鎮座した。


 そして時が経ち、朝、穴の中で控えていた百合子が手にした時計を見る。時刻は九時十分、もう、戦いは始まっただろうか。そう思う百合子に天野から念話(テレパス)が届く。

 『百合子、目標がちょっと変わった。総帥ではなく、総帥の頭部に結ばれた風船だ』

 『わかりましたですの。では仰角をちょっとあげますの』

 『ああ、頼むぞ、お前の腕に全てが掛かっているんだ』

 百合子には精神感応の能力は無い。だから百合子の声を天野に伝えるには天野自身に百合子の心を読ませるしかない。視界の届かない相手の心を読むのは結構高度な技術だ。それを簡単にやってのける天野に百合子は少し尊敬の念を抱く。

 「竜様、百合子はあなたが誰よりも努力していているのを知っていますのよ。だから、竜様が悲しんでいる時、力になれない自分に少し苛立っていましたの。ですから、昨日から元気になった竜様の姿を見て嬉しかったですの。でも、その原因があの男にあるのは少し嫉妬してしまいますの」

 穴の中で待つ間、誰に言うのでもなく、百合子は呟く。そして雌伏の時は終わりを告げた。

 『来るぞ! 百合子!』

 天野の念話(テレパス)が頭に響く。百合子は隣にあるカノン砲に能力(ちから)を込める。

 目の前の空間に光の切れ目が入り、土と共に一人の男が落ちてくる。何度もテレビで見た総帥の姿だ。その頭には風船が括り付けられている。

 「いらっしゃい。たっぷり味わってね」

 天野の力になれる事が何よりも嬉しくて、百合子はその能力(ちから)を開放した。

お読み頂きありがとうございます。

えっ? いくらなんでも九六式十五センチカノンを少女ひとりで撃つのは無理がないかだって?

大丈夫! 伝説の武器だから! 便利だなぁ、伝説の武器(遠い目)。

今回のサブタイトルの「雌伏者」は百合子の最後の台詞の「何よりも嬉しくて」→至福者と掛けていますが、わかりづらいですよね。

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