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たったひとつの冴えない能力(ちから)  作者: 相田 彩太
第五章 最悪の勝利者
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その2 格闘者たち

 「天野さん、悪いですけどわたくしが簡単に決めて差し上げますわ」

 口火を切ったのはデイジーだった。雑賀には見えなかったが、超感覚の一種『超常視(サイ・シーイング)』を持つ天野やクラスメイトには見えていた。黒い触手のような何かがデイジーの体から総帥の頭の風船へ向けられて行くのが。

 「風船よ! 破滅に破裂なさい!」

 デイジーの叫びが響いたが、天野は見てしまった。黒い触手は総帥の前に展開された光の壁に阻まれたのを。

 「ほう、四十二羽か、この学校には将来有望な逸材が居ると聞いていたが、君のことだな。確かに成長が楽しみだ」

 少し嬉しそうに総帥は言った。

 「そんな……覚悟はしていましたけど、現実に目の当たりにするとショックですわね」

 「大丈夫だ、リンの作戦通りに行くぞ」

 クラスのみんなが分散し、総帥を取り囲む。そして、総帥の前に立ったのは雑賀だった。

 「総帥、少しメタボ気味なんじゃないか。俺と運動しようぜ」

 そう言って雑賀は総帥の跳びかかる。その拳は一昨日と同じように光る壁に阻まれ、また同じように総帥の膝が雑賀の腹を捉える、と思いきや、雑賀は空いたもう一方の掌でその膝を受け止め、その反動で後ろに跳ぶ。

 「ほう、一昨日とはちょっと違うようだな」

 口元に笑みを浮かる総帥。

 雑賀は総帥に向かって前世紀のカンフー映画の主人公のポーズを取る。

 掌を上にし、くいくいと上げるポーズだ。

 「ほほう、懐かしい挑発の仕方だな。ではその挑発に乗ってやろう」

 総帥はそう言って雑賀に向かって走り出した。

 雑賀も総帥に向かい大きく跳ぶと、その脳天の風船に向かい鋭い蹴りを交差気味に繰り出した。

 だが、その蹴りは風船を護るように出現した光の壁に阻まれる。

 「ちっ」

 やはり風船も防御されていた事を確認し、雑賀は舌打ちをする。

 「どうした。まさか動いている時や攻撃時には防御が働かないとでも思っていたのか」

 小馬鹿にするように総帥が言う。

 「そんなに甘くは無い事は先刻承知」

 再び総帥に襲い掛かる雑賀、それに対し拳で応戦する総帥。雑賀はその拳を両手をクロスさせ受け止め、再びその反動で距離を取った。

 「雑賀! 3―Aだ!」

 天野の声が飛ぶ。昨晩の作戦、旧校舎の影を見たてた特定のエリアに総帥を追い込めという指令だ。

 「了解」

 雑賀は総帥の右に回りこみ、再び立ち向かう。そして総帥の攻撃を受け、引き、時には反発を期待して押し、除々に移動する。

 傍目には雑賀が総帥の攻撃に圧され後退しているように見えた。

 そして3―Aエリアに二人は入る。

 総帥の顔が何度も光輝く、光の壁が何度も出現し、点滅しているように見えたのだ。

 ドムゥ!

 そして遅れて、遠くから轟音が聞こえて来た。

 音の主は対物(アンチマテリアル)ライフル、百年の歴史を持つ最大級の携行武器、その威力は衝撃だけで人を胴体ごと真っ二つにする。

 それを携えるのは十文字 南、昨日、このクラスで唯一の『技持ち(スキルホルダー)』と紹介されたクラス一の巨乳である。

十文字は新校舎の屋上に寝そべり何度も引き金を引く。その度に轟音と振動が胸を揺らす。

 その弾丸は総帥の頭部を何度も捉えた。

 着弾点から数メートル離れた雑賀の体にも、その威力が絶大である事が文字通り肌に衝撃となって感じられた。

 雑賀を誤射しないのはその『誘導射撃』のスキルのおかげ、雑賀が衝撃の余波でダメージを受けないのは、筋肉が衝撃に対し引き締まると同時に本能的に念動力(テレキネシス)を働かせダメージを軽減するといった雑賀の天性のものとも呼べる(スキル)の為だろう。

 砂埃が舞う中、雑賀は期待を込めて目標の姿を見る。だが、総帥はおろか風船にも全く変化は無かった。

 「やはりこの程度ではダメか」

 遠目に総帥の姿を確認すると、天野は次の指示を出した。

 「雑賀!ポイントT―1だ! 決着を着けるぞ」

 「OK!」

お読み頂きありがとうございます。

やっと主人公が主人公らしくなってきました。

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