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たったひとつの冴えない能力(ちから)  作者: 相田 彩太
第五章 最悪の勝利者
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その1 挑戦者たち

 曇天の空の下、二年B組一同とデイジー、鳳仙先生、マイナス一名、総勢十九名は旧校舎の前で待つ。

 そして、一台のリムジンが錆びた校門の前に止まり、二人の男女がその中から降りてきた。

 その姿は一同の予想通り、総帥とその秘書であった。

 「総帥、ようこそいらっしゃいました。私はこの生徒達の担任の鳳仙です」

 一礼をして鳳仙先生が二人を迎える。

 「ご苦労様。さて、あの子は仲間を何人集められたかな」

 総帥は目の上に手をあて周囲を見渡す。そして雑賀達の一団を捉えた。

 「ひいふうみい……総勢十八名か、なかなかの数だな。思ったより人望があるんだな、君は」

 「ふっ、総帥といえども全能ではないようだな。これは俺の人望ではない! この天野の人望だ!」

 隣に立つ天野をピシッと示し胸を張って雑賀が言った。

 「自慢して言う事ではないでしょう。君は狐ですか」

 総帥の後ろに控えていた秘書が言った。

 「総帥、今回は私にチャンスを与えて頂きありがとうございます」

 ずい、と天野が一歩前に出てその手を伸ばし総帥に握手を求める。

 「ああ、君があの子のお姉さんか。何、我への挑戦は全国民、いや全人類に我が与えた権利だ。それを生かしきれるかは君達の頑張り次第だよ」

 総帥も手を伸ばし二人は軽く握手した。

 「総帥さん、総帥さん」

 くい、と長衣(トーガ)の裾が引っ張られる力を感じて総帥は視線を移す。

 「おや、君は確か……朝顔ちゃんかな。昔、心臓を治した」

 「覚えてくれたんだ。うれしい」

 「ああ、体の方は何ともないかい」

 「うん、快調だよ。元気が溢れて困るくらい」

 「そいつはよかった」

 総帥と朝顔は笑顔で語り合う。

 「確か朝顔さんは昔、心臓を治してもらったんだっけ」

 雑賀は小声で天野に声を掛けた。

 「ああ、生まれた時から心臓に障害があってな。小さい頃から何度も手術を繰りかえしていた。それでも十歳まで生きられないと言われていたが、今では健康そのものだ」

 天野も小声で返す。

 「さて、無謀にも我に挑んだ君達にちょっとご褒美をあげよう」

 そう言って総帥は手を横に伸ばす。

 「どうぞ」

 秘書はそう言ってその手に黒いT字型の塊を握らせる。

 それはアンティークと言っても良い程の古めかしい火薬式の銃であった。

 「よく見ておきたまえ」

 息を飲む暇も無かった。総帥は銃を口に咥えると、その引き金を引いた。

 パンッ

 花火の弾けるような音と硝煙の臭いを立て、総帥の後頭部は白い骨と赤い血、ピンクの肉片となって弾け飛んだ。

 「ぎゃー!」

 生徒から悲鳴が上がる。だがその悲鳴が止まる前に半分となった総帥の頭が盛り上がり、再び人の形を成していく。

 「とまあ、こんな具合に我は頭を吹っとばしても何とも無い。『大回復』のガイダンスの注意書きには脳にダメージがあった場合は治せないとあるが、我自身は別だ」

 秘書より差し出されたタオルで頭を拭きながら総帥は説明する。

 「だから、うっかり殺しちゃうかもしれないなんて考えは杞憂なので、全力で向かって来ること、いいね」

 総帥はにこりと微笑むが、場の雰囲気は変わっていた。

 圧倒的な能力、不敗神話、この国の支柱、それは神を賞する意味での柱と言われている事を天野は思い出していた。

 「さて、ではルールを説明しよう」

 「ルール? 問答無用で総帥に向かって行けばいいんじゃないのか!?」

 総帥の言葉に雑賀が声を上げた。

 「あなたが猪だからです。総帥がチャンスを与えたのは、あなたの無茶な襲撃があまりにもうざったかったからですよ」

 秘書が少し(たしな)めるように言った。

 「うん、君との約束だ。このチャンスを与える代わりに、ダメだった時は潔く諦めるという話だったはず。これは、ここに居るみんなが納得していると思っていいかな」

 総帥の言葉に天野が頷き、皆も頷く。

 「わかった。もう無闇に襲ったりしない」

 そう言う雑賀の声に満足したのか、総帥はうんうんと頷く。

 「ではルールだ」

 そう言って総帥は懐から赤い風船を取り出し、それに息を吹き込んでプゥと膨らませた。

 「エリアはこの学校の敷地内、主にここ旧校舎側で行う。時間は正午まで、それまでにこの風船を割れたら君達の勝ちだ」

 総帥は風船を頭に結わいつけながら言った。

 「その代わり我へダメージを与えても特別褒賞は無しだ。もっとも、我へダメージを与えたのに風船が割れないなんて事はまずないだろうがね」

 相当自信があるのだろう、総帥はフフンと鼻を鳴らす。

 「成程、ダメージを受けたかなんて総帥が自己申告しないと分からないけど、風船なら明確に分かるって訳ね」

 「そう、例えば彼の拳を顔面に喰らって我は全くダメージを受けていなくても、やせ我慢して効いていない振りをしているのだろとクレームを付けられても困るからな」

 過去にそういう事があったのだろうか、総帥は少し遠い目をして言った。

 「リン、作戦は大丈夫か」

 「何ら問題は無い、目標が胴体から頭部に変わっただけの事だ、予定通りに進めよう。百合子にも今、伝えた」

 百合子はここには居ない、既に別の所でスタンバイしている。天野は彼女に状況を精神感応の一種、念話(テレバス)で伝えていた。相手に精神感応の能力が無くても強制的に声を届かせる能力だ。

 「では開始だ。さあ、どこからでも掛かって来たまえ」

 両手を広げ、総帥が宣言する。そして運命の三時間が始まった。

お読み頂きありがとうございます。

ここから決戦の章になります。半シリアス、半コメディで進めようと思います。

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