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たったひとつの冴えない能力(ちから)  作者: 相田 彩太
第四章 希望の挑戦者
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その16 雑賀とリンと星空と

 放課後の作戦準備開始より五時間が経過し、雑賀は旧校舎の屋上で横たわり火照った体を夜風に当てて冷やしていた。

 その体は土に汚れ、手には酷使されて歪んだスコップが握られている。

 「ここにいたのか、みんな家に帰ったぞ」

 天野の顔が、空に浮かんでいた月を雑賀の視界から隠す。

 「もう少し休んだら家に帰るよ。腹も減ったし、明日の為に体力を回復させないといけないからな」

 雑賀は冷たいコンクリートの感触を楽しみながら言った。

 「そうか、じゃあお前が帰るまで付き合おう。ちなみに朝顔の予言によると明日は曇りだそうだ」

 天野は雑賀の横に体育座りで腰を降ろした。

 「ところで、よくあんな物を調達できたな。俺は歴史の本でした見た事が無かったよ」

 天野が準備し、夕方に持ち込まれた明日の戦いの為の決戦兵器を思い出し雑賀が言った。

 「この国はポイントがあれば大抵の事は出来るのさ。それに過去視や嘘発見の超感覚の能力者がいるので犯罪の検挙率が高い。だから規制は外地より緩いのさ」

 「そっか、この国では超能力による捜査が証拠として認められているんだったな。外では参考でしかないのにな」

 超能力による捜査は有効ではあるが、未だに外地では証拠として認められていない。だが、この国では違う。

 雑賀は改めて自分が能力者の国に居る事を認識した。

 「なあ、雑賀、お前はどうしてモモの為にここまでしてくれるんだ。たった数時間遊んだだけで、お前にとっては他人も同然だろ」

 「俺は家族を亡くした事があるんだ」

 真剣な顔をして雑賀が呟く。

 「そうか……悪い事を聞いたな」

 神妙な面持ちで天野が俯いた。

 「もちろん、俺の脳内設定で、本当は今も元気なんだけどな」

 ひっかかったなと、ちょっとおどけた口調で雑賀が言う。

 「はぁ!? お前の妄想かよ。同情して損した」

 呆れた口調で天野は体を伸ばし、雑賀に並ぶように体を横たえた。

 「昔、布団の中で想像したんだ。もし家族が事故や病気で死んだらって。そうしたら悲しくなって涙が出た。実際はそんな事は無いのにな。だから、もし、本当に家族や大切な人が死んだら、死にそうになっていたら、きっと、その涙は止まらなくなる。よく漫画であるだろ『お前に大切な人を失った苦しみが分かるか!』って台詞が。俺はそんな経験は無いから同じ気持ちは分からないかもしれない。でも想像する事は出来る。想像でこんなに胸が苦しいのなら、現実に起きたらその悲しみは心を狂わせてしまうだろう。俺は桃ちゃんが不幸になるのは嫌だし、リンにもそんな悲しみを味合わせたくは無い。だから助けたい。そう思ったんだ。それに飯がまずくなるしな」

 「なんだよ、結局はお前の自身の為かよ」

 天野は呆れた口調で取り繕ろうとしたが、その頬は紅に染まり、声のわざとらしさは隠せなかった。

 天野は夜の(とばり)に感謝した。

 「ああ、俺の望みは毎日おいしく飯を食う事だからな。隣に泣いている奴が居たら飯がまずくなる。だけど笑顔に囲まれて食えば、旨さ倍増だぜ」

 「だったら明日は絶対勝たないとな」

 「ああ、勝って最高の一日にしようぜ」

 二人は半身を起こし、その手を固く握り合った。

  

  

 日付が変わろうとしている深夜の総帥の執務室。秘書が残務処理をしている中、扉が開き、総帥が部屋に戻ってきた。

 「あー疲れた。もう何もしたくない」

 「お疲れ様です総帥。予言部より明日の予言が届いています。詳細はここに」

 そう言って秘書は手にした封筒をひらひらと揺らす。その封は既に解かれていた。

 「あーいいよいいよ、結果だけ簡潔に教えて」

 だらしなくソファーにもたれかかり総帥は言った。

 「そうですか、では明日の結果ですが……『最悪』です」

 「そうか……」

 そう呟いて、総帥は執務室を後にした。


お読み頂きありがとうございます。

第四章はこれが最後です。次章に続く形態は初めてなのでやっと長編っぽくなって来ました。サブタイトルはその13のデイジーとの対比ですね。

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