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たったひとつの冴えない能力(ちから)  作者: 相田 彩太
第一章 砂塵の疾走者
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その2 明後日天気になーれ

 二人が話を続けている間も列は少しずつ縮み、雑賀の番が回ってくる。

 「じゃあ、次の人。氏名と現在レベルと挑戦レベルを申告して」

 試験官が雑賀に問う。

 「雑賀 魚一です。え? レベルとかよく分からないのですが?」

 「ああ、転校生か。じゃあレベル1から始めるか」

 そう言って、試験官は床に貼られたテープのラインまで下がった。

 「雑賀君はそこから私に精神感応(テレパシー)で何かを話して、こっちからは果物の名前を心で送るからそれを受けたら何の果物か答えるの。じゃあ始めるわよ」

 そう言うと試験官は口を閉じた。

 「集中だよ。雑賀君」

 朝顔が励ましの声を掛ける。

 だが、雑賀には何の声も聞こえず。心の中で発した声が誰かに届く事もなかった。

 「はい、終了。雑賀レベルゼロっと」

 試験官は雑賀の用紙に書き込み、ほいっと渡した。

 「じゃあ次」

 「朝顔 夕顔です。現在レベルは1、レベル2に挑戦します」

 次に並んでいた夕顔が試験官の前に立つ。

 試験官は雑賀の所よりも遥かに離れたラインまで遠のいた。

 しばしの沈黙が流れ。

 「ドリアン、ドリアン、ドリアン、ドリアン、ザーボン」

 朝顔の口から冷蔵庫には入ってなさそうな果物の名前が出る。

 「朝顔が語りかけたのは『にゃんにゃんにゃにゃにゃん、またたびにゃーん』だな」

 試験官もラブリーな動物の泣き声を口にした。

 「はい、そうです」

 試験官の問いに朝顔が応えた。

 「よし、合格だ。レベル2おめでとう」

 試験官は朝顔の所へ近づくと、その手にある用紙の精神感応の欄にLV2と書き込んだ。

 「すごいね。朝顔さん」

 「まだまだだよ。レベル2なんてレベル1からは距離がちょっと遠くなっただけで、大きな声を出せば届くレベルだもん。レベル3からは相手に自分の声を強制的に聞かせたり、心を読んだり、すごく遠く離れた所に声を伝えないと合格しないんだよ」

 「ああ、だからレベル3って言っている生徒の前だと試験官の表情がちょっと硬くなるのか」

 「そうそう、たまにセクハラな台詞を送る人もいるしね。そしてレベル4だと相手を意に反した行動を強制的に取らせる事が課題だから試験官も大変だよ」

 「あそこの試験官の人が『俺は仕事をやめるぞぉぉぉ』と言っているのは仕事に不満があるからじゃなく、操られているのからなのか」

 「そうなんだよー」

 人間の関節稼動域の限界まで体を反らせたポーズを取る試験官を尻目に二人は次の項目のエリアに進んだ。


 隣のエリアには『予知』と書かれている。

 試験官の列に並ぶとアシスタントと思われる腕章を付けた職員から用紙が配られる。

 「そこにサイコロの出目を六個分記入して下さい。また短期ではなく中長期の未来予知を申請する方は予知した内容を記載して提出して下さい」

 雑賀は手にした用紙を見る。

 「ええと、朝顔さん」

 「はいはい、これはね未来予測を高確度で的中させる能力を試す試すテストなの」

 「いや、それは分かる」

 「よかった。またそこからかと思っちゃった」

 朝顔はほっとしたように胸をなでおろした。

 「で、続けるけど未来予知には短期と中長期があって短期はすぐ先、大体一分以内の未来を()る能力で、中長期は大体一週間から一年後の未来を予想する能力なの。両方出来る人もいれば片方しか出来ない人がいるからこんなやり方をする訳ね。短期の人は試験官の振るサイコロの目を当てて、中長期の人はあらかじめ予知しておいた事柄を書いて申請するのね。よくあるパターンはここ一ヶ月の天気を予知したり、株価の終値とかね」

 「そうなのか、難しそうだな」

 「難しいなんてもんじゃないよ、レベル1や2ですらクラスに数名しかいなくて、レベル3以上なんて学校に一人居るか居ないかのレベルだよ。ああ、レベル3はあらかじめ与えられた課題について予知するのが試験ね。予知能力を任意の対象について発動させるの、とってーも難しいんだから」

 朝顔は大きく手を上げ、その困難さを表現した。

 「おお、俺には到底できそうにないな。朝顔さんは出来るの?」

 雑賀が朝顔に尋ねた。

 「えっへん、私はレアなレベル1だよ。今年はレベル2に挑戦するんだ。ここ一週間の天気だったら天気予報よりも正確に当てれるんだから」

 そう言って朝顔は発育途上の胸を反らして自慢した。

 「でも、天気しか当てられないんだ……」

 そして今度はがっくりとうなだれた。

 「めげるな人間気象庁」

 雑賀はその手を朝顔の頭に置き、わしわしと撫でた。

 「うん頑張る。この用意して来たこれから一ヶ月間の天気予知、これが九十九パーセント以上当たっていればレベル2になれるんだー」

希望に満ちた笑顔で朝顔が言った。

 そして列が進み、ふたりの番が来た。

 「はい、次の方。氏名と現在レベルと挑戦レベルを申告してサイコロを振ってちょうだい」

 雑賀は精神感応と同じような問いを受けた。

 「雑賀 魚一です。ええと予知能力はないので棄権ってのはだめでしょうか」

 そう言って雑賀は白紙の予知シートを渡す。

 「だめよ」と試験官。

 「だめだよ雑賀君」とこれは朝顔。

 そして二人から駄目出しを受ける。

 「これはあなたが知らないうちに能力に目覚めていないかを試す試験でもあるの、駄目でもいいからサイコロの目を申請しなさい。何ならサイコロは全部積み重なっちゃうとかでもいいのよ」

少し冗談めいた口調で試験官はたしなめた。

 「ええとそれじゃあ、上から一、二、三、四、五、六」

 やる気の無い回答が出た。

 雑賀は無言でサイコロを振り、はぁ、と溜息を付く。

 「はい、雑賀君の的中率十七%、レベル1失敗」

 試験官は雑賀の用紙の予知のレベルの欄に大きく×を書き込んで返す。

 「では、次の人」

 「朝顔 夕顔です。現在レベル1、レベル2に挑戦します。これが短期の、こっちが中期申請です」

 いつの間に書いたのだろう、朝顔はサイコロの目を記入した短期シートと、あらかじめ持ってきた中期用紙のシートを試験官に渡す。

 「はい、結構。では短期のテストをします」

 カラカラと小気味良い音を立て、再びサイコロが振られる。

 「朝顔さん。短期的中率66%。短期ではレベル2失敗だけど、この中期シートが的中していれば合格するかもしれないから、楽しみに待っててね」

 そしてふたりは『予知』のエリアから離れた。

 「レベル2って大変なんだね。三分の二でも駄目なんだ」

 「あたしは短期は苦手なんだ。でも本命は中期なんだ。だから結果が出るまでの一ヶ月間ワクワクしながら待つの。明日天気になーれ。そして明後日雨になーれ」

 それが予知の内容なのであろう、朝顔は少し子供っぽい口調で言った。

お読み頂きありがとうございます。

お気づきの方はいると思いますが、本作品にはパロディ表現が含まれています。

サブタイトルはゴルフ漫画「明日天気になーれ」

「ドリアン、ドリアン、ドリアン、ドリアン、ザーボン」はドラクエの呪いのBGMをとDBキャラクター名

『にゃんにゃんにゃにゃにゃん、またたびにゃーん』はミルモでポンの劇中歌

『俺は仕事をやめるぞぉぉぉ』はジョジョネタですね。

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